2024年8月16日(金)号

首相にペートンターン氏=連立与党の枠組は変わらず

 国会下院は8月16日、首相指名の会議を開き、プアタイ党所属議員が推挙したペートンターン・チナワット氏を賛成多数(賛成319、反対145、棄権27)で第31代首相に選んだ。14日午後のセーター・タウィーシン首相の大臣資格失効の憲法裁判断を受け、与党は直ちに後継首相選びを開始。連立を組む各党が最大与党の首相候補を支持すると表明し、15日夕には各党党首や幹部が出席した記者会見でペートンターン氏擁立を発表した[=写真]。


 ペートンターン氏はタクシン元首相の次女で、現在37歳。歴代最年少の首相となる。下院議員、閣僚経験はないが、昨年の総選挙後に辞任したチョラナーン・シーケーオ氏に代わりプアタイ党の党首に就任している。国会での首相指名は、総選挙時に各党が首相候補に挙げた人物の中から選ぶルールで、プアタイ党はセーター氏、ペートンターン氏、チャイカセーム・ニティシリ氏の3人を候補としていた。
 セーター氏の失職が決まった直後、与党第2党であるプームチャイタイ党のアヌティン・チャーンウィラクン党首は、最大与党が首相を出すのが常道との原則論を述べ、自身の不出馬を表明。第3党、第4党のパランプラチャーラット党、ルアムタイ・サーンチャート党も幹部や党首がプアタイ党の指名する首相候補を支持すると表明した。
 プアタイ党の事実上のオーナーであるタクシン元首相は14日夜の段階で、与党各党にチャイカセーム氏擁立を伝え、一時は元検察庁長官である同氏が次期首相になる流れができていた。しかし15日にはプアタイ党内からペートンターン氏を推す声が優勢になったほか、連立を組む他党からも横やりが入り、タクシン元首相も翻意したとされる。
 プームチャイタイ党やその他の与党は、刑法典第112条(不敬罪)の改正を支持しないことを、プアタイ党が出す首相の下での連立維持の条件としており、チャイカセーム氏は同条改正を支持していた過去がある。
 ペートンターン氏は15日夕の会見で、自身の指名を決めたプアタイ党と連立政党への感謝の意を述べるとともに、国を経済危機から救うため最善を尽くしたいと抱負を語った。
 経済界はペートンターン氏の首相就任を概ね支持している。タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ・ティアンヌクン会長は、チャイカセーム氏に比べれば政界でのキャリアは浅く、多くの者に受け入れられるまでには時間がかかるかもしれないと指摘。その一方で、政権運営にあたってタクシン元首相からのアドバイスが期待できるほか、新旧世代をつなぐ世代に属している強みがあるとコメントした。一方で、セーター首相を含むタクシン派政権の首相4人が、司法権力によって首相の座を去らなければならなくなった事実から、法的リスクを伴うような問題は避けるよう助言している。
 連立与党の枠組が維持されることで、セーター政権の政策の多くが継続されることを経済界は歓迎している。タイ商業会議所(TCC)のサナン・アンウボンクン会頭は、政策に大きな変更がなく、引き続き経済対策を推進することが国民や外資の信頼を築くことになると指摘。組閣を急ぎ、主要閣僚は留任するのが望ましいとした。
 投資アナリスト協会(IAA)のパイブーン・ナリントランクン会長は、プアタイ党が政府を主導し、新首相を速やかに選出したことを高く評価した。セーター政府がすでに実行中の政策に支障はなく、デジタルマネー給付やワユパック・ファンドなど、これから開始予定の政策についても前進を期待している。

セーター首相失職=憲法裁が倫理規定違反を認定

 憲法裁判所は8月14日、午後3時半過ぎ、セーター・タウィーシン氏の大臣資格失効の判断を下した。9人の判事のうち5人が、倫理規定違反という原告の主張を認め、5対4の多数決による判断となった。
 これにより内閣は総辞職し、国会での後継首相指名の手続きに入った。セーター氏の首相としての地位は、即座に失効したため、新たな首相が任命され、新内閣が発足するまでの期間は筆頭副首相のプームタム・ウェーチャヤチャイ氏が首相代行を務める。
 セーター氏の大臣資格裁判は、4月の内閣改造において、裁判官への贈賄による法廷侮辱罪で禁錮6か月の実刑を受けたことのあるピチット・チュンバーン氏を総理府大臣に任命したことが、国務大臣の倫理規定に抵触するとして、40人の上院議員(当時)が憲法裁に訴えていた。憲法裁はピチェート氏について憲法第160条(4)と(5)に基づく倫理基準を遵守しない不誠実な人物とし、そうした人物を任命したセーター首相も不誠実だと断定した。セーター氏は首相に任命された昨年の組閣時にもピチェート氏の入閣に倫理上の問題があることを認識していたとし、閣僚の任命に関する規則に精通していなかったとしたセーター氏側の主張を退けた。
 セーター首相は公務を理由に法廷には出席しなかったが、判断が下った直後に首相官邸で会見に応じ、憲法裁の決定を尊重すると述べた。首相就任から11か月余りの間、誠実に仕事に取り組んできたとし、倫理にもとる人物と断定されたことは遺憾だと心境を吐露、自分は倫理的な人間だと自信をもって言えると主張した。
 セーター氏は、今後も人々の生活をより良くするため、違った形で国に貢献していきたいと会見を締めくくった。しかし憲法裁が非倫理的な人物と断じたことで、セーター氏が公職に就くことは難しくなっている。公職者の倫理基準はほぼすべての職位に対して法律上の規定がある。実業界に戻るにしても、タイ証券取引所(SET)が倫理を上場企業の取締役資格条件の一つに定めているため、上場企業であるセンシリ社の会長やCEO、取締役に復帰できない。

デジタルマネー給付政策=廃止の可能性高まる

 プアタイ党が昨年の総選挙で公約した、国民1人あたり1万バーツのデジタルマネー給付政策の実現が危ぶまれている。ペートンターン・チナワット・プアタイ党党首が首相に就任し、連立の枠組も維持されるが、首相が代われば政策も変更になる可能性がある。
 8月15日、ペートンターン氏の実父で、プアタイ党の事実上のオーナーであるタクシン元首相が、連立各党にデジタルマネー政策の廃止の意向を伝えたとするニュースが政界を駆け巡った。これに対しプームタム・ウェーチャヤチャイ首相代行は、同政策を継続するかどうかは連立与党と新政権が決定すると述べた。
 同政策は8月1日から給付対象者のオンライン登録が開始されている。また同政策の財源の一部とするための24年度補正予算法案(1220億バーツ)もすでに上下両院を通過している。同政策のかじ取り役を務めるチュラパン・アモンウィワット財務副大臣は、首相が代わっても同政策は継続されると主張しているが、セーター氏は14日の最後の会見で、新政権が実施するかどうかを決めることになると述べている。
 デジタルマネー給付の政策経費は4500億バーツ。インフラ事業の予算を上回る規模で、教育省や保健省など一部省庁の年間予算額をも超える。経済成長に対する波及効果は限られるとする試算もある。政府が財政難に陥り、その後の財政運営が難しくなると懸念されている。この政策が伴うリスクは国家汚職防止取締委員会(NACC)も懸念を表明している。
 タクシン元首相とプアタイ党にとってペートンターン氏は最後の切り札。ある政治学者は、セーター氏あるいはチャイカセーム氏が首相であれば党の公約である以上、訴追リスクがあっても強行しただろうが、愛娘で党のエースでもあるペートンターン氏を失うわけにはいかないと解説している。

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