2024年9月19日(木)号

工業部門信頼感指数=8月は悪化に転じる

 タイ工業連盟(FTI)が9月18日に発表した8月の工業部門信頼感指数は87.7ポイントとなり、前月の89.3ポイントから下落した。7月には4か月ぶりに改善していたが、再び悪化に転じた。国内需要の伸びの減速、特に自動車などの耐久財消費の不振が響いている。また工業事業者は電気代や原料価格の上昇による生産コスト高や金融コスト高にも直面し、事業経営に対する障害となっている。海外からの安価な商品の流入も国産品の競争力低下を招き、売上が減少している。
 7月の指数は食品、医薬品、化粧品の需要が増加したことから一時的に上昇していたが、信頼感の低下傾向は年初来続いている。8月の信頼感悪化の一因となった国内新車販売台数は1~7月期に35万4421台にとどまり、前年同期と比べて23.71%減少した。特にピックアップ・トラックの販売台数が大幅減になっている。金融機関がローン審査を厳格にしていることが理由。家計債務残高がGDP比90.8%まで膨張していることが国内消費を下押ししている。
 クリアンクライ・ティアンヌクン会長は、北部と中部の洪水で農業、工業、建設業に被害が生じていることを懸念している。FTIの調査によれば、チェンライ県の会員企業114社のうち30社で6輪トラックや機械が水に浸かる被害が生じている。また東北地方の加盟企業387社でメコン川の増水による影響が懸念されている。
 海上運賃も高騰したままで、中東情勢の悪化に加え、欧米航路では対中貿易障壁措置の発効を前にした中国の駆け込み輸出の影響から、さらに上昇する見通しにある。バーツの対ドル・レートは7月時点で1ドル=36.46バーツだったのが、8月には34.92バーツへと上昇している。タイの輸出製品の価格が上昇し、競争力の低下をもたらしている。
 8月後半には国内政治の不透明感が薄れ、新政権の発足が明確になった。これを受け投資家や企業の国内政治に対する信頼感は回復に向かい、新政府による経済刺激策への期待が高まった。4月下旬に24年度歳出予算法が施行になってからの政府予算の執行加速も工業部門の信頼感にプラスに寄与している。8月末時点の予算執行率は81.6%に達している。観光業の成長が持続していることも国内消費を下支えしている。1~8月合計の外国人観光客数は2356万7850人、前年同期比31%増を記録し、1兆1079億8500万バーツの収入をもたらした。
 46部会の事業者1330社を対象にFTIが実施した8月の調査で、事業者が最も懸念を深めているのは世界経済の情勢で、67.5%が回答した。このほかでは国内経済(65.2%)、石油価格(61.3%)、外国為替(40.6%)で前月比での回答率が上昇した。一方、前月比で懸念が和らいだのは、国内政治情勢(56.0%)、金利(45.8%)など。
 3か月先の信頼感指数は93.9ポイントで、前月の95.2ポイントから下落した。事業者が懸念しているのは1日あたり400バーツへの最低賃金の引き上げ政策。中小企業や労働集約的工業部門を中心に事業者の生産コストに直接的な影響を及ぼす。不良債権の増加傾向、地政学的対立の長期化と激化も懸念している。他方、今年第4四半期に実施を予定しているデジタルマネー給付とハイシーズンを迎える観光業の活況は支援要因になっている。
 クリアンクライ会長は新政府に対し、今年残り期間に国民の購買力を高める経済刺激策に取り組むよう求めた。工業事業者の資金繰りを改善するため電力料金保証金の引き下げや追加保証金徴収の先送りも求めている。また外国からの不当廉売に迅速に対応し、アンチダンピング(AD)、補助金相殺関税(CVD)、緊急輸入制限(セーフガード)、AD/CVD回避防止措置(AC)を効果的に発動できるよう「海外からの物品の不当廉売及び補助金対抗措置法」の改正を提案している。
 洪水の被害を受けた企業の法人税免除や納税期日の延長、機械輸入関税の免除など援助措置の実施と、長期的な洪水問題解決のための治水分野のインフラへの投資を要求した。最低賃金の改定については、全国一律400バーツへの引き上げに反対で、各県賃金委員会の決定を尊重するよう求めた。

FRBが0.5%幅で利下げ=バーツ相場は上昇見通し

 米連邦準備制度理事会(FRB)が9月18日の金融政策決定会合で0.5%幅の利下げを決定したことを受け、世界的な金利低下の流れが加速する見通しになっている。米国による通常の下げ幅の倍になる利下げは、主要国通貨に対する米ドルの減価と新興市場国へのマネー流入をもたらしそう。バーツの対ドルレートは上昇し、海外投資マネーの流入が続くと予測されている。
 バーツは中銀参照レートで9月16日に19か月ぶりの高値となる1ドル=33.200バーツをつけた。その後やや下げたが、18日の参照レートは33.335バーツで、33バーツ台前半を保っている。
 今年6月以降、欧州中央銀行(ECB)や英国、デンマーク、スイス、ニュージーランドの中央銀行が米国に先駆けて政策金利を引き下げている。中国人民銀行は8月15日に中期貸出ファシリティ(MLF)金利を0.15%幅で引き下げた。最も新しいところではインドネシアが18日にFRBの利下げ決定を待たずに政策金利を0.25%幅で引き下げている。
 なおタイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)の次回会合は10月16日に開かれる。
 ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相は18日、タイ経済が米国と強く結びついているため、米国が金利を引き下げたり、引き上げたりすると、タイへの資本流入とバーツ相場に大きな影響が及ぶと説明している。MPCが政策金利を引き下げるかどうかは、インフレなど様々な要因に左右されるとした。経済学的観点からは世界的な傾向に沿って下げる必要があるとし、慎重に言葉を選びながらも中銀に利下げを求めた。
 インフレ・ターゲットについては、中銀と定期的に議論しているとし、適切な水準にインフレ率を保つことの重要性を強調した。
 一方、アジアプラス証券は最近公表したリサーチノートで、FRBが大幅利下げを決定するとすれば、米国の景気後退(リセッション)リスクが高まっていることを意味すると指摘した。米国経済は減速傾向が明らかになっており、FRBが最初の金利引き下げを0.5%幅にしたことで、米国経済がハードランディングする可能性が高まったと見ていることになる。

アユタヤ銀行がセミナー=「クルンシー・アセアン・リンク」

 アユタヤ銀行(クルンシー)は9月17日、今年最大規模のセミナー「クルンシー・アセアン・リンク・フォーラム」を開催した[=写真]。同行は国際ビジネス・コンサルティング・サービスの「クルンシー・アセアン・リンク」に力を入れており、セミナーではアセアン諸国の政府、民間、パートナー銀行の代表が講演した。特にアセアンで今、最も注目を集めているベトナムでのビジネス事情について最新情報を提供した。


 大和健一頭取は、クルンシーが10年以上の経験と専門知識をもとに、国際ビジネス・コンサルティング・サービスの「クルンシー・アセアン・リンク」を開発したと紹介した。「アセアンは今、大きなチャンスの時期にあり、現在も、近い将来も投資機会に恵まれた地域。顧客のアセアン展開を支援していく」と語った。
 クルンシーと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)はこの機会に、インドネシアのバンクダナモン、ベトナム産業貿易商業銀行(ヴィエティンバンク)、フィリピンのセキュリティバンクのパートナー銀行3行と協力協定を締んだ。アセアン諸国への事業拡張を望むタイの顧客をサポートしていく。
 大久保文世副頭取は、同行が過去10年間、国境を越えたビジネス・コンサルティングとグローバル・ビジネス・マッチングを展開し、専門知識を蓄積してきたことを紹介。クルンシー・アセアン・リンクではクルンシー、MUFG、パートナー銀行が現地のビジネス環境と市場を理解している国内外の専門家とのパートナーシップを通じて包括的なアドバイスを提供するとしている。顧客の多様なニーズに応えるため、市場情報の提供から会社や事務所の設立、合弁事業の立ち上げをサポートするほか、国際的なビジネス展開のために特別に設計した金融商品やサービスを提供する。
 クルンシー・アセアン・リンクは2023年に正式に立ち上げて以来、500件を超える案件で顧客にアドバイスしてきた。大久保氏は、シームレスな国境を越えたサービスを提供することで、来年には案件数が2倍になると見ている。またパートナー銀行との協力覚書について、リージョナル・リーディング・バンクになるという目標達成に向けた新たな一歩と表現した。

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