バーツ相場の上昇止まらず=19か月ぶり1ドル=32バーツ台
9月23日の外為市場でバーツは続伸し、1ドル=32バーツ台をつけた。同日のタイ中央銀行発表の参照レートは1ドル=32.921バーツ。バーツは対円でも上昇し、商銀平均TTBで100円=22.5190バーツとなった。民間企業部門はバーツ高が物品・サービス輸出に及ぼす影響を懸念し、通貨当局に対策を急ぐよう求めている。
タイ商業会議所(TCC)のサナン・アンウボンクン会頭はこの日、バーツ高問題について財務省、タイ中央銀行と協議すると明らかにした。民間が許容可能な水準は34バーツと指摘。また安価で低品質の中国製品が市場に氾濫している問題についても政府に対策を求める考えを示した。
ポット・アラムワタナノン副会頭は、年初時点で37バーツ台だったのが32バーツまで上昇していることを示し、急なバーツ高が輸出競争力の低下をもたらしているとした。バーツの上昇は原材料の輸入コストを低減する効果もある一方で、輸入依存度の低い農産物・食品輸出への影響が大きい。
タイ商業会議所大学のタナワット・ポンウィチャイ学長によれば、アグリ・食品産業の輸出収入はすでに500億バーツ失われている。バーツがこのまま今年末まで高止まりした場合、1300億バーツ以上の輸出収入が消失すると試算した。タナワット学長は農業部門が失う収入について、政府が25日から実施する脆弱な層向け現金給付の1450億バーツと大差ないと指摘している。
タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ・ティアンヌクン会長は、過去1か月間にバーツが5%上昇し、輸出と観光に影響を及ぼしていると語った。輸出業者が受け取る収入はバーツ換算で減り、利益が減少するか、まったく得られない可能性がある。ドル建ての輸出価格を引き上げれば、競争力低下から新規受注が他国の同業者に奪われることになりかねない。外国人観光客のタイ旅行費用が割高になることで観光業にも影響が及ぶ。
最近のバーツの上昇はドル安の裏返しで、米連邦準備制度理事会(FRB)による0.5%幅での利下げに端を発している。市場はFRBが今年末までにさらに0.5%幅で政策金利を引き下げると観測しており、米国の金利の先安観が投資マネーをリスク資産に向かわせている。
バーツの対ドルレートの上昇率は域内通貨をやや上回るものの、概ね世界的なドル安に連動した動きになっているというのがタイ中央銀行の見方で、通貨ディーラーの多くも同様の見方をとっている。バーツは年末までボラティリティ(動揺)が高まる見通し。セータプット・スティワートナルプット中銀総裁は、過度なバーツ高には介入の用意があると発言しているが、異常な値動きを見せない限り、市場メカニズムに委ねるものと見られる。
バーツ高を抑制するための政策金利の引き下げは、経済界のほか政府も要求している。しかし中銀総裁が、FRBの利下げによるタイ経済への影響は最小限にとどまるとしており、アナリストの多くは中銀の金融政策委員会(MPC)が10月16日の次回会合で政策金利を年2.5%の水準に据え置くと予想している。
バーツの上昇に加え、株式市場も強含みで推移しそう。ドル資産のリターンの低下で投資家のリスク許容度は上昇し、海外投資マネーの流れは逆転している。タイ株式市場にもマネーは流入しており、外国人投資家は買い越しに転じている。金相場の上昇もタイ株式市場にはプラスに作用する。
ある証券アナリストの分析によると、9月のタイ株式市場の回復は、国内政治情勢の不透明さによる信頼感の危機が解消され、株価が再びファンダメンタルズを反映するようになったことが理由。1日あたり平均の売買代金は8月と比べて30%以上増えている。23日のSET指数終値は前営業日比で小幅安となったが、前週には最高値で1462.35ポイントをつけており、昨年末時点の終値を上回る水準へと回復している。
投資詐欺への警戒=SECが呼び掛け
証券取引等監視委員会(SEC)は、無許可の業者による証券投資などの勧誘に注意するよう投資家に呼び掛けた。投資詐欺被害に遭う可能性があるためで、イベント会場の出展ブースで相談に乗りながら投資を呼びかけるケースもある。無許可でこの種の行為をしている場合、証券取引法違反の可能性があり、取締の対象になる。
SECではイベント会場で確認できた場合、ブースの強制閉鎖をオーガナイザーに要請するほか、出展者は刑事責任を問われる。またオーガナイザーに対しては、事前の審査で無許可の業者を出展させない予防策を講じるよう指導していく。
イベント会場以外ではオンライン投資詐欺が深刻で、これまでに1800件以上のオンライン詐欺アカウントを強制閉鎖してきた。今年8月時点でSECのホットラインには497件の苦情があり、うち350件が投資詐欺に関するものだった。報告された投資詐欺に関連するオンライン・アカウントの91.4%が閉鎖されているが、SECではプラットフォーム・プロバイダーに対し、ユーザーに投資詐欺を随時警告するよう求めた。特に個人名義の預金口座に支払いを要求された場合、詐欺の可能性が高いことを認識してもらう重要性を指摘している。
SECは昨年11月から今年8月末まで、投資詐欺ホットラインを設けて苦情を受け付けた。この間に凍結したオンライン詐欺アカウント数は1863件。フェイスブック、インスタグラム、LINE、TikTokなどのソーシャル・メディアのアカウントがほとんど。
SECのアネーク・ユーユアン副事務局長は、「投資判断をする前に勧誘先以外の第三者からの客観的な情報を収集するよう努めてほしい。証券会社や投資先の会社、資本市場関係者など複数にコンタクトできればより良い」と述べている。また個人情報を簡単に与えないようにし、個人名義の銀行口座に振り込まないようにすることも重要だとしている。
投資詐欺に遭遇したと感じた場合、SECのウェブサイト(www.sec.or.th/scamalert)もしくは電子メール(sca-malert@sec.or.th)、フリーダイヤル(1207内線22)に通報するよう呼び掛けた。
詐欺電話警告サービス
着信番号識別・ブロックアプリ「フーズコール」は、詐欺電話の警告サービスを立ち上げた。国家放送通信委員会(NBTC)、警察庁中央捜査局、銀行協会、国家サイバーセキュリティ機構、タイ消費者連盟など複数の機関と提携した。アプリは国内でのダウンロード回数が2000万回を超える。NBTCのサラナ・ブンバイチャイヤプルック委員長は、「アプリ内で警告サービスを提供することで国民の警戒意識を啓発できる」と歓迎している。
アプリを運営するゴーゴールック・タイランド社のマンウー・ジューCEOによれば、2022年3月から今年7月にかけてのオンライン詐欺被害総額は700億バーツに達している。「国際詐欺防止連絡ネットワーク(GASA)」の最新の報告書では、詐欺を認知する自信があるタイ国民は55%しかおらず、89%は少なくとも月に1回詐欺に遭遇しているという。手法はより洗練化され、電話やメッセージだけでなくウェブサイト上に虚偽のニュースを流すことで騙そうとする動きもある。今年上半期にフーズコールが識別した詐欺電話件数は1900万件近くに達している。
警告サービスは最新の法規と民間の提携先の協力によって提供される情報に基づいた有料・無料双方のアプリで使用可能なサービス。設定で警告の受信をオンにしておけば、例えば政府機関関係者へのなりすまし、ランサムウェア、金融詐欺、フィッシング、個人情報取得その他不正アクセスを検知できる。特に「スキャム・エデュケーション・コンテンツ」サービスでは、多様な業種で発生している異なるタイプの詐欺に関する情報が収集されてユーザーに提供できるようになっており、最新の正確な情報を取得できる。
仮想銀行免許=5グループの申請を公表
タイ中央銀行のソムチャイ・ラートラープワシン金融機関政策担当総裁補は9月23日、5グループによる仮想銀行(バーチャルバンク)免許申請を明らかにした。ガルフ・エナジー・デベロップメント、SCB・X、シー・グループ、エセンド・マネー、ライトハブ・アセットにそれぞれ率いられたコンソーシアムが19日の締め切りまでに申請した。
ソムチャイ総裁補によると、中銀は各申請者の資格、能力、ビジネスモデルと事業計画を評価し、来年半ばまでに審査結果を明らかにする。これより前、中銀幹部は免許交付を3者に絞り込む考えを明らかにしており、5者のうち2者は落選する可能性が高くなっている。
ガルフのコンソーシアムはガルフと国営商銀のクルンタイ銀行(KTB)、PTTオイル&リテール・ビジネス社(OR)、移動通信大手のAISで形成されている。いずれもSET上場企業で、外資と組まないタイ企業連合になっている。AISのモバイル・ネットワークのユーザー、KTBの「パオタン」アプリのユーザー、ORのブルーカード会員などの強力な顧客基盤と豊富な顧客データを持つ。ガルフは仮想銀行の運営をサポートするクラウド・コンピューティングやデジタル資産に関連する事業も手掛けている。
SCB・Xは韓国のカカオバンク、中国のウィーバンクと組んでいる。いずれも仮想銀行事業の経験と実績を持つことが強み。SCB・X傘下のサイアム商業銀行はモバイルバンキングでカシコン銀行とトップを争っている。
シンガポールのシー・グループはBTSグループ、バンコク銀行、サハ・グループ、タイランド・ポストと組んだ。シー・グループのネット通販プラットフォーム「ショッピー」は業界最大手。消費者と商品の売り手の両方のデータを持つことは強みになる。タイランド・ポストの郵便局と配達網はオフラインによる顧客アクセスに役立つ。
ユアンタ証券は最近のレポートで、これら3者の免許取得の可能性が最も高いとしている。いずれもタイの商業銀行がコンソーシアムに参加しているため、中央銀行の監督下での銀行業務の経験が、審査にあたる中銀の心象を良くすると見ている。中銀の金融機関政策に理解があるため、金利が低すぎたり、高すぎたりするローンなど、市場に悪影響を及ぼし、持続可能性が疑問視される金融商品を提供する可能性を抑制することができる。
同証券のレポートによれば、免許の交付は来年6月19日の予定で、それから1年以内に営業を開始する。営業開始から2、3年は扱う商品、データ・セキュリティ、ローン承認プロセスなどを中銀が厳密に監督することになりそう。
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