IRPC社

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製油事業からのシフトで戦略計画

 PTTグループ系列の製油・石化企業であるIRPC社が新しい戦略計画を発表した。それによると、製油、石化、深海港・不動産の開発という各事業を進化させ、イノベーションを駆使して成長の機会が大きい新たな分野で製品開発を進める。新たに病院/ウェルネス事業にも出資する。一方では60年のネットゼロの達成を目指し、クリーン・エネルギーの比率を高めていく。

クリット社長兼CEO

■ビジネス・トランスフォーム

 IRPCのクリット・イムセーン社長兼CEOは、自社がビジネス・トランスフォームの最中にあると明らかにした。製油所は現在、日産約21万5000バレルの生産能力で各種石油精製品を生産している。最大の収入源であり、製油事業の収入は全収入の75%を占めている。残る25%は石化製品の販売からで、各種の合成樹脂の生産に用いられている。しかし今後は製油事業の比重を徐々に低下させ、28年には55%にする。他方、石化事業の比重は25%から45%に引き上げる。イノベーションと「POLIMAXX」と称する特殊グレード製品で付加価値を生み出す。
 PPメルトブローは医療品やヘルスケア製品用の合成樹脂素材で、例えば衛生マスクやN95マスク、ガウン、乳幼児や高齢者用の紙おむつの原料となる。PPランダム・コポリマー・パイプ(PPR)は圧力や化学物質への耐性が一般の水道管よりも優れており、安全性も高い。ノン・フタレート・テクノロジーを用いて生産され、家庭や工場用の水道管に適している。HDPE100RC樹脂は衝撃耐性が高く、耐用年数が100年を超えるため、建設コストの圧縮や工期の短縮に寄与するほか、産業用の大口径パイプを生産するのに適している。
 「さらに1.5~2年間は製油能力の拡大を続ける計画だが、今後は製油事業は主にタイ・オイル社が担当することになる。CFPプロジェクトが終了すればタイ・オイル社の製油能力は日産20万バレルに引き上げられる。タイの製油能力は石油精製品の国内需要を大きく上回り、輸出を拡大できるようになる。いずれにせよ原油は輸入に頼っているため、それぞれが自社の製油所がフル稼働するよう管理しなければならない状況に変わりはない。加えて世界では、米国、ロシア、イランを含む多くの国で新たに製油所が稼働し始めており、製油事業は将来に向けて経営が困難さを増す見通しにある。これがトランスフォームに取り組まざるを得ない理由だ」
 ペイント&コーティング事業のイノベーションの取り組みでは、バーガー・ペイント社と共同でタイで初めて世界的な基準に準拠するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混入させたコーティング材を開発した。PTFEは厳しい気候への耐性が高い特性があるため、橋梁や工場、空港、港湾などの施設用の構造鉄鋼にコーティングすれば耐用年数を3倍に延ばす手助けとなる。

マプタプットにあるIRPC社の精油・石化コンビナート

■イノベーション・センター

 石化事業はこれまで汎用合成樹脂を主に大市場である中国向けに輸出していた。しかし現在の中国は石化製品の生産能力を拡大させ、国内需要を賄えるばかりか生産能力にかなり余裕が出るようになった。しかも景気の減速にともない国内需要が減退気味なため、輸出しなければならなくなっている。生産規模の大きい中国製品の方が低コストである上に、両国との間には自由貿易協定(FTA)が締結されていることから、現在は逆に中国製品がタイ市場に大量に流入する結果となっている。
 こうした事態を受け、クリットは「これからは素材とエネルギーのイノベーションを進化させる開発戦略を推進しなければならない」と断言している。
 IRPCはラヨン県にイノベーション・センターを開設し、すでに10件のイノベーション研究開発で成果を挙げており、うち3~4件のイノベーション製品を市場に投入した。それらは人間の生活に欠かせない衣食住薬の4要素に関係するイノベーション素材とエネルギーが使用されている。最も新しい成果はナノテクノロジーを用いた作物用のイノベーション素材で、作物の栄養吸収効果を高める効果がある。これを使用した製品が白熊印の肥料「REINFOXX」で、スタートアップ企業のラックパーサック社が販売を担当することになった。この機会にIRPCは、スタートアップの競争力強化に共同で取り組むべく、23年12月23日にタイ工業連盟(FTI)とイノベーション・ワン基金のもとでプロジェクトを実施する覚書を締結した。クリットはこう語る。
 「開発したイノベーションをスピンオフする指針を定めた。外部のパートナーと契約し、イノベーションを用いて事業を展開させることでお互いに利益をもたらす。イノベーションや知財を外部の人間に売却する用意がある。自社の従業員であっても、独立して起業したければ許可する。起業には元手が必要であるため、それも支援する。商業化できれば、ある程度の市場の見通しも開ける。スピンオフは、起業者にスタートアップとして市場を開拓させるのが目標だ。スタートアップは独立して仕事を進めることができ、我々は関与しない。資本参加もしない。資金回収の見積もり次第で、5年でも10年でも契約するだけだ」

■病院/ウェルネス事業

 石油事業では軽油の質を改善し、24年1月1日を期限にユーロ5の排ガス基準を満たす取り組みを続けてきた。その結果、目標よりも早期に23年12月25日からユーロ5に適合した軽油の販売が可能になった。付加価値向上と増収につながると期待している。バンコク・フューエル・パイプライン・ロジスティック社(BFPL)と共同で石油精製品のパイプライン輸送網の拡充にも取り組んでおり、全長99㌔㍍のパイプラインによりアユタヤ県バンパイン郡の新しい石油タンクにまで輸送する態勢が整った。
 港湾・不動産事業では、国内外から運ばれてきた製品の積み替えと各地への搬送に対応すべく、コンテナ埠頭、バルク貨物用埠頭、石化製品用施設、液体製品用施設といった深海港の諸施設が整備され、サービス態勢が整ったほか、東部経済回廊(EEC)エリアの開発に対応する工業用地の開発も進められている。政府の投資奨励政策に基づくプロジェクトには、ラヨンIRPC工業ゾーン開発プロジェクト、ラヨン県バーンカイ郡のWHAインダストリアル・エステート・ラヨン(WHAIER)プロジェクト、ソンクラー県チャナ郡の開発プロジェクトが含まれる。
 これとは別にIRPCが特に重視し、成長の機会を認めているのは新たな分野の病院/ウェルネス事業だ。23年10月にはバンパコーク・ピヤウェート病院グループと、ラヨン県内のIRPC所有地に病院と保養施設(Hospital & Wellness center)を建設して病院/ウェルネス事業を展開する覚書を締結した。ラヨン県と近隣諸県の住民が高い質の総合的な医療サービスにアクセスできるようにすることで、住民の生活と健康の向上に貢献していく。さらにはEECエリアにおいて、タイを国際医療ハブに成長させる戦略を支援する。将来の投資形態の検討に向け、24年第1四半期にフィジビリティ・スタディが終了するのを受けて、その結果を取締役会に提案し準備を進める。
 ただしクリットはこう語っている。
 「事業は慎重に進めていく方針だ。経済の先行きの不確実性から、経営効率の向上とエネルギー・コストの削減に注力する必要がある。したがって投資計画はいつでも見直せるようにし、採算性が高く、成長の機会が大きい事業を重視して投資を行なっていく。一方では秩序ある投資を心掛け、財務ポジションを堅固に保つ。十分なキャッシュフローの循環を確保する」

■業績

 23年第3四半期の業績を見ると、売上高は772億6400万バーツで、前年同期から65億900万バーツ、9%増えた。石油精製品の販売価格が原油価格と連動して平均で14%上昇したことが寄与している。販売量は5%減少した。市場価格に基づく石油精製品販売の初期利益(Market GIM)は53億7300万バーツ、1バレルあたり8.87㌦で29%増えた。製油マージンが大幅に上昇したためで、特に軽油の生産が恩恵を受けた。石油の純在庫利益も合計35億6600万バーツ、1バレルあたり5.89㌦となり、その結果、会計上の初期利益(Accounting GIM)は89億3900万バーツ、1バレルあたり14.76㌦となって57億3200万バーツ、1バレルあたり9.53㌦増えた。金利・償却・税引き前利益(EBITDA)は58億8000万バーツとなり、57億7000万バーツ増加した。純利益は24億3900万バーツとなり、前の四半期の22億4600万バーツの純損失から黒字転換した。23年の9か月間でも4億9400万バーツの黒字となった。
 23年第4四半期に関しては、石化製品の国内需要がやや上向く見通しにある。年末のイベント・シーズンの時期に需要が1年で最も拡大するピークを迎えるからで、石化事業の主要な市場である中国でも需要の一時的な回復が期待できる。半導体不足の緩和も家電や電子機器の生産に好影響をもたらしており、それにともない合成樹脂製の部品に対する需要が回復する見通しにある。これも今後のIRPの事業に恩恵をもたらす。他方、リスク要因には製油・石化事業における世界的な生産能力の拡大、イスラエルとハマスの戦闘の先行き、世界経済後退の懸念がある。

■産学連携

 23年の興味深い動きとして、7月27日にIRPCはマヒドン大学と協力に関する覚書を締結した。イノベーション分野の研究開発に共同で取り組み、合わせて協力してイノベーションを進化させるとともに、医療技術研究開発の機会を追求する。例えば歯科医療で3Dプリンター用の光硬化樹脂(フォトポリマー)を開発し、商業利用に道を開くとともに社会的にも役立てる。その過程でイノベーションを基礎とする経済国家へとタイを前進させる支援となる人材の開発に役立てる。
 12月12日には、タイ発電公団(EGAT)とも共同での研究開発と学術的な協力に関する覚書を締結した。ラムパーン県メーモのEGATの施設で準鉱物のレオナルダイトからフミン酸やフルボ酸を抽出するイノベーションを共同で研究開発し、それを進化させ、農業関連製品や化粧品、医療品などに利用して商品化に取り組む。
 IRPCのワニダー・ウタイソムナパー副社長は、「当社は社内の人材が持つ専門知識を外部の専門知識と統合して活用することで、新たなイノベーションを創造するプロセスを重視しており、循環経済の原則に基づいた事業を立ち上げ推進していこうを考えている。新たな技術とイノベーションを用いて国を駆動させるというのは、人々のより良い生活のために素材とエネルギーを上手く利用するイノベーションに向けた当社のビジョンとも合致する。今回のEGATとの提携は、そうした取り組みの良い機会になる。双方は鉱物採掘の副産物を利用してフミン酸やフルボ酸、他の物質を抽出し、それらを用いた製品を開発することで商業利用の道を開くべく協力したい」とコメントした。
 EGATのニタット・ウォラポンピパット副総裁によれば、EGATの研究チームによる過去の取り組みから、レオナルダイトを反応物として抽出されるフミン酸やフルボ酸、ヒューミンには農業活動や化粧品、医療品の生産などに利用できる興味深い潜在力があることが明らかになっている。共同研究すれば、開発の取り組みを加速させることができる。加えて各種イノベーションを商業利用する機会と事業化のフィジビリティ・スタディを実施すれば、イノベーションによるタイの持続的な開発にも好影響をもたらすことができる。

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