2024年8月29日(木)号

バーツ相場の強基調続く=中銀総裁が介入に言及

 外為市場でバーツの強基調が続いている。タイ中央銀行のセータプット・スティワートナルプット総裁[=写真]は、バーツが上昇傾向にあることを認めているが、近隣諸国の通貨も同様の動きをしていることを示し、世界的なドル安の裏返しに過ぎないと強調した。米連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利引き下げに対する市場の期待がドルに下押し圧力をかけている。ドルの減価は世界市場における金相場の上昇にもつながっており、バーツの上昇をもたらす要因の一つになっている。総裁はバーツが異常で不規則な値動きをする場合、中銀は介入する用意があるとしている。
 バーツの対ドルレートは8月28日発表の中銀参照レートで1ドル=33.993バーツ。セータプット総裁は8月28日、タイ証券取引所(SET)が開催した年次セミナー「タイランド・フォーカス2024」で講演し、バーツの動きは地域通貨の動向と一致しているが、金相場の上昇がバーツ高を支えるもう一つの要因になっていると説明した。域内通貨の対ドルレートを年初時点と比較すると、バーツ、シンガポール・ドル、マレーシア・リンギットが上昇している一方、インドネシア・ルピア、フィリピン・ペソ、ベトナム・ドンは下落している。
 バーツは年初来、不安定な値動きを続けている。4月末には1ドル=37バーツ台まで減価したが、7月以降はバーツ高に転じ、1ドル=33バーツ台まで上昇している。FRBによる利下げ観測により、ドル安は続きそうで、アナリストは33バーツ台前半まで上昇する可能性を想定している。

◇経済成長率
 セータプット総裁によると、タイ経済は徐々に改善している。国家経済社会開発評議会(NESDC)のデータによれば、第2四半期のGDP成長率は2.3%で、第1四半期の1.6%から加速した。今年の経済成長率に関する中銀の予測は2.6%。下半期にかけて緩やかに回復すると見ている。来年の成長率は3.0%となり、潜在成長率に戻すと見積もった。総裁はタイ経済の潜在力を低下させている主な要因として構造的な問題を挙げ、経済を拡大させるためには労働生産性を向上させる必要があると指摘した。
 今年7月のインフレ率は0.8%で、中銀の誘導目標である1~3%を下回っているが、徐々に上昇して第4四半期には目標範囲に収まると予測した。総裁は低インフレ率について、タイ経済がデフレに入りつつあることを示すものではないと強調した。他国に比べてインフレ率が低いのは、サービスに対する物価上昇が他国に比べて低いためだと説明している。特に家賃の安定傾向がタイのインフレ率を低水準にとどめているとした。

◇政策金利
 中銀の金融政策委員会(MPC)は21日の会合で政策金利を年2.5%に据え置いている。金融政策の方向性について、総裁は経済成長、インフレ、金融の安定という3要素を見ているとした上で、今後は足元の経済指標だけでなく、将来見通しにも焦点を当てて前向きなアプローチを採用する予定だと述べた。また経済状況に応じて金融政策を調整する用意は整っているとした。

◇家計債務
 金融の安定性については、家計債務が高水準に達していることから、低所得層の債務返済能力と債権の質の低下を注意深く監視する。家計債務はGDPの90%を超えており、タイが直面する大きな課題の一つになっている。総裁は緩やかな低下では物足りず、早急に解決しなければならないとした。タイの家計債務問題は、借金のほとんどが消費者金融で、住宅ローンが中心の他国とは様相が異なることも指摘、解決が難しいことを示した。ただし制御不能なまでには膨張していないとし、残高をGDP80%という持続可能な水準まで引き下げることが中銀の目標だと述べた。

金融ハブ政策で税制優遇=パオプーム財務副大臣

 パオプーム・ローチャナサクン財務副大臣は8月28日、タイ証券取引所(SET)主催の「タイランド・フォーカス2024」で講演し、海外からの投資を誘致するため、金融ハブ・イニシアチブの一環として個人所得税と法人所得税の優遇措置を検討していると語った。カジノを含む複合娯楽施設、航空ハブ、金融ハブの3つの政策は海外からの投資を誘致する新政府の重要戦略になると述べている。
 今年4月の内閣改造で入閣したパオプーム副大臣は、近く正式に発足するペートンターン政府で留任が有力視されている。同副大臣は講演で、金融ハブ政策の原則が内閣の承認を受けており、詳細を検討するための委員会が設置されていることを明らかにした。投資優遇は税制のほか、外国人のビザや労働許可への便宜を含むものになり、財務省が関係機関と協議していくとした。
 タイが金融ハブになるためには、魅力的な税率とエコシステムを備える必要がある。シンガポールの法人税率が15%であるのに対し、タイは20%。世界中の多くの金融ハブは税率を低くしている。エコシステムに関しては国家信用保証機関(NaCGA)設置法案を起草中。 法案は95%完成しており、新政権が発足すれば直ちに内閣に提出する。
 最近の株価上昇については、タイの成長率は近隣諸国より低いものの、経済が良い方向に進むとの投資家の見方を反映していると述べた。経済運営については、新政府の所信表明を待つ必要があるものの、セーター政府の政策を継続する可能性が高いとした。デジタルマネー給付については、新政府の政策次第だが、ソーシャル・メディアで言及されているアイデアのいくつかは、同政策をより速く、より容易にするために採用される可能性が高いと述べた。脆弱な層にターゲットを絞った迅速な経済刺激策の実施につながる可能性があるという。24年度中央予算と同補正予算を使って国家福祉カードを保持する1400万人の貧困層と100万人の障害者を対象に9月中に現金の形で先行して給付する構想が浮上している。
 タクシン元首相が最近の講演で提案した「負の所得税(NIT)」については詳細の研究が必要だとした。負の所得税は、基準所得を下回る低所得者への給付金の形をとる。約10年前に財政局が提案し、第12次国家経済社会開発計画(2017~21年度)とプラユット政府の国家改革計画にも盛り込まれていたが、実現していない。

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