2024年10月4日(金)号

3日に財務相・中銀総裁会談=家計債務問題で対策を要請

 ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相は10月2日午後、タイ中央銀行が開催した金融システムのためのオープンデータ・イニシアチブ「ユアデータ」開始の記念式典に出席した際にセータプット・スティワートナルプット中銀総裁と会談した。財務相は家計債務問題と信用収縮による資金アクセス難の問題解決が重要との認識を示し、中銀に対策を求めた。金利の引き下げは資金源へのアクセス改善のための手段の一つだとしたが、より効果的な手段は他にもあると述べ、利下げを強く求めることはしなかった。

ピチャイ副首相兼財務相(左)とセータプット中銀総裁


 会談の内容についてピチャイ財務相が明らかにしたところによれば、家計債務、 政策金利、バーツ相場、インフレについて協議した。うち最も重視したのが家計債務問題の解決。財務相は農業・農協銀行(BAAC)などの政府系特殊金融機関が債務リストラを進めていることを示し、商業銀行とノンバンクに対して家計が負う債務の問題解決が課題になっているとの認識を示した。債務返済が滞り、不良化している約70万~80万口座についても対策が必要で、具体的な対応は金融機関、財務省、中銀が連携してフォローアップしていく必要があるとした。
 金融機関が債権を放棄するヘアカットは無闇に実施するとモラルハザードを引き起こすため、適切な方法を探す必要がある。ピチャイ財務相は「ヘアカットという言葉は余り使いたくないが、ヘアカットをする場合は、しかるべき理由があるはず。金利を低く抑えることも一種のヘアカットであり、詳細がどうなるか見る必要がある」と述べた。
 財務相は家計の借金問題の解決が困難なことを認めている。1997年の危機で問題に直面したのは外貨建ての負債を抱えた大企業で、数は少なかった。このため負債の解決はさほど難しくなかったが、現在のような多数の少額の借金の解決は困難になる。
 家計債務問題の解決にあたって、金利の引き下げは実施可能なツールの一つだが、中銀にはより効果的なツールがあるはずだと指摘した。債権放棄以外の最良の方法は、返済期間の延長と金利負担の軽減を組み合わせた債務リストラだと指摘した。金融政策は中小企業の資金繰り難やスタートアップ/中小企業の資金アクセスの改善に焦点を当てるべきだというのが財務相の見解で、金利操作以外の対策を求めている。
 金利政策については、これまでも多くの問題が議論されてきた。中銀の金融政策委員会(MPC)の8月会合後には、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅利下げ、欧州中央銀行による利下げ、中国の大規模な経済刺激策の発表などがあった。こうした要因からタイを含む新興市場国には海外からマネーが流入し、バーツの上昇をもたらしている。
 ピチャイ財務相は金利の引き下げを強く求めはしなかったが、金融コストの低下から資金アクセスが改善するため、有効な手段の一つだとした。中銀と財務省の意見の相違は視点の違いによるもので、双方がこのことをよく理解していると述べた上で、MPCが金利を引き下げないのであれば、理由があるはずで、金利を引き下げる場合もその理由を説明する必要があると語った。
 金利は使用可能なツールの一つだが、中銀にはより多くのツールがあり、特に資金アクセスの問題の解決には金利操作以上に有効な手段があると指摘した。金融システムには充分な流動性がある。資金アクセス難は流動性に原因があるのではなく、「お金を貸すことを恐れる貸し手側の行動にある」と主張している。
 会談では最近のバーツ高についても意見交換した。バーツ相場の先行き予測は困難なため、密接な追跡が必要だが、ここ数日の相場からも制御可能と考えている。バーツ高の輸出への影響は分析が必要としたが、輸出に数量的な影響は及ぼさないと見ている。物品輸出、サービス輸出(インバウンド観光)ともに成長は持続すると予想した。
 バーツは3日の中銀参照レートで1ドル=33.045バーツに下げ、1ドル=33バーツ台に戻している。米国の9月のサービス業ISM/PMI指数などの経済指標が市場の予想よりも良かったことを受け、ドルが買われ、米国の10年債利回りも上昇した。ただしバーツが目先、強基調に転じる可能性は残っている。今後、激化が予想される中東の紛争情勢への懸念から金価格の上昇が続いているため。
 金取引業者協会(GTA)によれば、現在の金相場は1オンスあたり2650㌦前後。国内の金相場はバーツの減価もあり、3日に前日比で1バーツ重量あたり400バーツ上昇して4万1350バーツをつけた。中東の緊張の高まりで金相場には先高観が漂い、国内の金相場は4万4000バーツまで高騰する可能性があると見ている。
 経済3団体合同常任委員会(JSCCIB)やタイ荷主評議会など産業界はバーツ高対策での利下げを中銀に求めているが、ピチャイ財務相は利下げの効果は多くないと見ている。
 インフレ・ターゲットの枠組については今月中に再度、中銀との協議が行なわれることを明らかにした。今年第4四半期のインフレ率は1%程度になるとみられ、通年のインフレ率が誘導目標の1~3%に達する可能性は低い。財務相はインフレ率が誘導目標を外れる場合にどういう行動をとるかを主な議題としてお互いの理解を深めたいと語っている。

タイ航空の事業更生=累損一掃で減資を計画

 事業更生法の適用を受けて経営再建中のタイ航空が約600億バーツある累積損失一掃を目的に減資を計画している。経営陣が中央破産裁判所に事業更生計画の変更を要請した。債権者の大半は減資が貸借対照表の見た目を整えるための会計手続き上の操作で、債務返済に影響しないことを認識しているため、債権者の同意を得られる可能性は高い。減資計画は9月30日に証券取引等監視委員会(SEC)とタイ証券取引所(SET)へ提出した。
 タイ航空の事業更生計画遂行人のピヤサワット・アマラナン氏[=写真]は10月3日の会見で、債権者とタイ航空経営陣との間で継続的な話し合いが行なわれてきたこと、債権者の大多数が経営陣の実行する更生計画に同意し、過去4年間に経営再建が進展していることを指摘、このまま順調にいけば債務は予定通り完済できると述べた。
 タイ航空の事業更生は最終段階に入っている。事業更生に着手して以降、債務の支払い不履行は一度もない。22年12月14日には3300億バーツの増資が実施され、23年7月から24年6月までの過去12か月の業績では、EBITDA(金利・税・減価償却前利益)が290億バーツに達した。年間200億バーツ以上のEBITDAが求められる事業更生手続きの終結基準を満たしている。
 今年11月中に債務株式化が実施され、12月中に追加の普通株を発行する予定。財務省が引き続き大株主となる見通しだが、保有率は47.9%から最高でも41.4%に低下する。24年中に自己資本の再構成は完了し、来年第2四半期までには事業更生手続きは終結する見通し。その後、タイ証券取引所(SET)での取引が再開される。
 ピヤサワット氏によれば、タイ航空のキャッシュフローは過去最高となる800億バーツに達している。大部分は経営効率の向上によるもので、ラクシーとランルアンのオフィスビルや退役した航空機/エンジンの売却など資産売却によるものは100億バーツに過ぎない。
 タイ航空のチャイ・イアムシリCEOによれば、昨年の旅客数は1380万人で、前年の900万人から増加した。総収入は1654億9180万バーツで、22年の1052億1230万バーツを上回った。チャイCEOはスムーズな接続を重視した路線網の強化で世界中の旅客のニーズに応え、旅客に最高の旅行体験を提供し、ブランドを強化するための商品とサービスの開発・設計を進めると述べた。事業の持続可能性を高め、収益性を向上させてコスト競争力を強化する業務効率の向上、航空事業からの収入への依存を減らすための収益源の多様化も進める。
 タイ航空のチュードチョーム・トゥードサティラサック最高財務責任者(CFO)によれば、今年1~6月の総収入は前年同期と比べて126億3040万バーツ、率にして15.2%増加した。新型コロナのパンデミック収束後の定期便運航の再開や新規路線開設により、上半期の旅客数は768万人を数えた。有償座席占有率(ロードファクター)は78.1%を記録した。

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