SCGがリストラ計画を発表=ロンソン石化事業は運転休止
サイアム・セメント・グループ(SCG)は業績の悪化を受け、リストラを加速させる。タマサック・セータウドム社長兼CEO[=写真]は10月31日の決算発表会見で、①合理化による経費の削減、②運転資金の削減、③資産売却、④不採算事業の清算を進めると語った。
SCGの今年1~9月の総収入は3806億6000万バーツで前年同期比横ばいだったが、EBITDA(金利・税・減価償却前利益)は387億6800万バーツにとどまり、前年同期比で10%減となった。純利益は68億5400万バーツで、同75%減だった。特別項目を除いた利益は前年同期比46%減った。
大幅減益はベトナムのロンソン石化コンビナート(LSP)プロジェクトの運営コスト増が最大の理由で、関連会社からの利益も減少した。第3四半期の売上高は1281億9900万バーツ、EBITDAは98億7900万バーツ。利益は7億2100万バーツにとどまり、前四半期比で81%減少した。
タマサック社長兼CEOは今年の売上高は3%増にとどまると予想した。世界的な石油化学サイクルが長期にわたって低迷している。また中東の緊張の高まり、中国製品との競争の激化、バーツの変動も事業経営に対する課題で、長期化する可能性が高いため、経営は慎重にならざるを得ないと説明した。
会見では経営を建て直すための4つのアプローチを示した。第1に、25年までに組織全体の経費を50億バーツ圧縮する。第2に25年第1四半期までに運転資金を100億バーツ削減する。第3に資産を売却するほか、経営の柔軟性を高め、財務の安定維持に重点を置いて生産効率を引き上げる。セメント工場における代替燃料の使用割合を年内に50%に引き上げるほか、タイル生産でのオートメーション/ロボットの活用、廃材の削減などに取り組み、EBITDAを競争力のある水準に保つ。第4にSCGエクスプレスやインドのデジタル・テクノロジー事業のOITOLABSなどの不採算事業を清算する。ほかにも清算を検討中の事業はあり、来年半ばまでに最終決定する。
タマサック氏は自社にはまだ480億バーツのキャッシュフローがあると述べた。今期と来期を乗り切るだけの資金はあり、資金繰りに問題はないが、長期的に利益を確保するためにはリストラが必要だと説明した。今年の投資予算は400億バーツで、すでに340億バーツを投じたことも明らかにした。特にアセアンへの投資を継続しており、過去9か月間でベトナムとインドネシアの売上高は前年比10%増加している。
SCGの最大のコアビジネスであるSCGケミカルズは石化サイクル低迷という課題に直面しているため、長期的な競争力を高めるポテンシャルを構築する必要がある。LSPはエタン・ガスを基礎母材とする仕様に変更するため、今月半ばから運転を休止した。エタンガスのタンクやその他関連施設を建設する。26年終わりごろに完成の予定。母材の変更により、生産コストは下がり、世界市場で競争できるとしている。LSPプロジェクトは今年9月30日に商業運転を開始したばかり。これまでに7万4000㌧の汎用合成樹脂を生産した。タマサック氏は、ラヨン・オレフィン、マプタプット・オレフィンとLSPの3つのプラントの生産を原材料価格、製品、世界経済の状況に沿って柔軟に管理していくと述べた。
SCGセメント/グリーン・ソリューション事業は3Dプリンティングによる建設技術の開発を加速させる。セメントと同様の硬化性と圧縮強度を実現する材料(特殊セメント質材料)の開発を進める。このほどサムスンE&Aと建設工事のコストと廃棄物を削減するイノベーションとテクノロジー分野の協力で覚書を取り交わした。
SCGインターナショナルはこのほどサウジアラビア向けにモルタルを初出荷した。南アジア、中東、アフリカに市場を拡大していく。
SCGディストリビューション&リテールは成長を続ける家庭用製品やサービスなどポテンシャルの高い小売市場に参入していく。インドネシアで展開するホームセンター「ミトラ10」を拡張し、ジャバベカとサマリンダに出店し、年内にさらに4店を出す計画。
SCGクリーナジーはクリーン・エネルギーの需要の伸びに支えられて成長を続けている。現在の発電能力は526メガ㍗。カシコン銀行とは総額15億バーツのグリーン・ローンで契約を結んだ。88.5メガ㍗の太陽光発電のプライベートPPAプロジェクトを実施する。サラブリ県の自社セメント工場ではクリーンエネルギーである熱エネルギーを蓄える「ロンドヒートバッテリー」を設置するプロジェクトが進んでおり、25年第2四半期には45%が稼働を開始する予定。
SCGパッケージングは食品包装や成長性の高い医療機器用素材などの事業を拡張する。
財務省の最新経済予測=25年の成長率は2.5~3.5%
財務省は10月31日に発表した最新の経済予測で、来年の経済成長率を3.0%(2.5~3.5%)と見積もった。民間消費、物品輸出、観光、官民の投資の拡大が経済成長を加速させると予測した。今年は2.7%と予測した。観光業と物品輸出の拡大と年終わりの経済刺激措置が経済成長を支える。
財務省の広報担当でもあるポーンチャイ・ティラウェート財政局長によれば、今年の経済成長率は2.2~3.2%と予測し、3か月前の予測を据え置いた。23年からの成長が持続し、成長率は加速する。観光業と物品輸出の回復が牽引するもので、今年の外国人観光客数は3600万人に達する見通し。民間消費も回復傾向を続けており、今年は4.6%増が期待されている。前回の予測から上方修正した。洪水被害の発生が経済を下押しするものの、政府の各種措置が穴埋めし、国民の信頼感は改善すると予測した。ドル建て物品輸出額は2.9%増と予測した。第2、第3四半期の輸出が予測よりも良かった。米国による中国製品の関税引き上げがタイの事業者に対米輸出の機会をもたらした。
今年の政府消費支出は2.1%増、政府投資支出は0.8%増と予測した。一方で民間投資は1.9%減となりそう。エンジン車市場の収縮により設備投資が減少しているためで、ポーンチャイ氏は自動車工業の動向を今後も注目していきたいと述べた。
経済安定性では一般インフレ率は0.4%にとどまる見通しで、前回予測から下方修正した。世界市場のエネルギー価格の軟化による。対外安定性に関しては、24年の経常収支は103億㌦(GDP比1.9%)の黒字を見込んでいる。
25年の経済成長率は3.0%に加速する。民間消費、物品輸出、観光、官民の投資が経済成長を支える。民間消費は2.9%増と予測した。物品輸出は世界市場における需要増に支えられ、拡大を続ける見通しで、ドル建て物品輸出額は前年比3.1%増と予測した。外国人観光客数は3900万人を見込む。25年度予算の執行加速で政府消費支出は2.2%増へと加速する。
ポーンチャイ局長は投資支出がタイ経済を牽引するもう一つのエンジンになるとしている。民間投資は2.3%増に上向く。投資委員会(BOI)の認可を受けた、高度技術を用いる環境にやさしいターゲット産業の大規模プロジェクトが動き出す。また政府投資は4.7%増と予測した。投資予算の執行加速と3空港接続高速鉄道やレムチャバン港開発第3フェーズ、鉄道複線化事業などの大規模インフラ・プロジェクトの進展を見込む。これらインフラへの投資は国の競争力の引き上げに寄与し、民間投資を刺激すると期待している。
経済安定性では25年の一般インフレ率は1.0%を見込む。国内需要の拡大で前年から加速する見通し。他方、対外安定性では経常収支は100億㌦(GDP比1.7%)の黒字と予測した。
ポーンチャイ局長は財務省が政府の歳入と歳出の効果的な管理を通じて財政規律を保ち、財政の持続可能性の枠内で公的債務の水準を維持すると述べた。またターゲット産業への投資や戦略的インフラ開発を促進する財政・税制措置を通じて質の高い持続可能な経済成長を促進するとした。家計債務を効率的かつ持続可能に管理するための財務カウンセリング・システムを開発することで家計の財務の回復力を向上させる。
タイ経済に影響を及ぼす要因は引き続き注意深く監視していく。世界各地で地政学的紛争が激化している。中東の緊張はエネルギー価格に影響を及ぼす可能性がある。中国と米国の戦略的競争、南シナ海をめぐる紛争への懸念に加え、新興経済圏のBRICSとCRINK諸国(中国、ロシア、イラン、北朝鮮)が新たな世界秩序を求めて米国に圧力をかける可能性がある。米国の大統領選挙の結果と新政府の経済政策の方向性にも目配りが必要。タイの主要貿易相手国経済の回復状況、家計や企業の債務問題からの今後の支出動向、多くの県で発生した洪水の経済への影響についても注視していくと述べた。
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