タイ・カンボジア資源共同開発=クード島主権問題が政治の争点に
ペートンターン首相(プアタイ党党首)は11月4日、与党党首会談後の会見で、クード島に対するタイの主権について何ら疑いの余地はないと述べた[=写真]。タイとカンボジアの領海・領土主張が重複する地域(OCA)での資源の共同開発をめぐって、2001年のタイとカンボジアの覚書がクード島の主権を損ねるものとする批判が噴出していることを受けたもので、首相は覚書をカンボジアの合意なしに一方的に取り消すことはできないことも説明した。
ペートンターン政府はタクシン政権時に構想した共同資源開発を進める方針で、首相のカンボジア公式訪問を予定している。今年2月にはセーター前首相がタイを訪問したカンボジアのフン・マネット首相と会談し、共同開発に向けた協議を開始することで合意している。交渉のベースになるのが01年の覚書。ペートンターン首相の実父であるタクシン氏の政権が結んだこの覚書は、タイがクード島の主権を失うおそれがあると指摘され、政治の新たな争点の一つになっている。
アヌティン・チャーンウィラクン副首相兼内相は各種の国内法から、この島がトラート県の行政区(タムボン)の一つであり、タイ国民が住み、タイに属していることに疑問の余地はないと主張している。またプームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼国防相は、覚書がタイ湾の海洋資源開発を容易にすることを目的とするもので、クード島とは何の関係もないと述べている。
01年の覚書はアピシット民主党政権が09年10月に破棄の方針を閣議決定しているが、双方の合意がなければ破棄できず、プームタム氏は今も有効なことを強調した。
01年の覚書がカンボジアによるクード島の領有権を認めるもので、タイが領土と領海を失うとした主張は野党のタイサーンタイ党議員が指摘した。1また968年にタイが批准した1958年の大陸棚に関するジュネーブ条約にも抵触すると主張している。
野党に転じたパランプラチャーラット党も同様の主張で政府を攻撃している。同党幹部はアピシット政権時の覚書の破棄方針決定には現政権与党の指導者も加わっていることを示し、覚書を破棄するよう求めている。アピシット政権による09年の一方的な覚書破棄方針は、その前年に起きたプレアビヘア寺院(タイ側呼称はプラウィハーン)の世界遺産登録をめぐっての領土問題に端を発した両国関係の悪化が背景にあった。
クード島は1907年のシャム・フランス条約の下でタイの領土として確立されている。ペートンターン首相は会見で、資源の共同開発を前進させようとする現政権の取り組みにクード島の主権問題は何ら関係がなく、タイが同島を失うこともなく、カンボジア側も資源開発をめぐる交渉の争点にするつもりがないと説明した。09年に覚書を破棄するという閣議決定があったが、両国の合意なしに破棄できないほか、アピシット政権が当時、破棄の方針決定を国会に提出していないこと、プラユット政権が2014年に覚書を破棄しないと閣議決定していることを示した。プラユット首相は14年10月にプノンペンを訪問し、共同開発についてフンセン首相と協議している。
外務省によると、タイとカンボジアの重複地域は2万6400平方㌔㍍の大陸棚で、タイ領海の主要な天然ガス田のエラワン鉱区やボンコット鉱区の東側にある。この海域の資源開発では、カンボジアが4つの鉱区、タイ側が10の鉱区に分けて、それぞれ探査採掘の権益を外国の資源大手に付与している。01年の覚書では領海を確定するクード島近辺のエリアと南側の共同開発エリアに分けることを定めている。
タイ航空の事業更生=外国の航空会社と資本提携
創業60周年となった2020年9月14日に事業更生法の適用を申請したタイ航空の経営再建は、最終段階となる自己資本の再構成に進んでいる。事業更生計画遂行委員会の委員長を務めるピヤサワット・アマラナン氏[=写真]は債務株式化と公募のほか、私募により外国の航空資本を株主に迎え入れる考えを明らかにしている。
事業更生法の適用を申請する前、タイ航空はコロナ禍の影響もあって業績が悪化し、債務超過に転落した。事業更生の適用と合わせて国営企業の立場も喪失したが、それから4年間にわたって事業更生手続きを進めてきた。ピヤサワット氏によれば、22年10月20日に中央破産裁判所が事業更生計画を承認し、計画は遂行段階に入っている。3万人いた従業員は1万5000人に削減、費用の削減を計画通りに進めた結果、業績は急回復し、営業黒字を計上するに至っている。今年に入ってからは保有する航空機79機の運航を支えるため、従業員を1万7000人に増やした。今後、機数は100機まで増やす計画になっている。
事業更生計画の終結には「充分な資本注入(増資と借入による資金調達)」、「5期連続での債務履行」、「EBITDA(金利・税・減価償却前利益)ベースでの黒字化(直近2年平均の利益が200億バーツ以上)」、「取締役会の刷新」が条件で、資本リストラを除く条件を満たす状況になっている。昨年の純利益は創業以来最高となり、EBITDAで200億バーツ以上という条件はクリアした。
自己資本の条件は債務株式化でクリアする計画。9月30日には証券取引等監視委員会(SEC)事務局とタイ証券取引所(SET)に自己資本再構成の計画を概説した公募申請のための目論見書を提出済み。11月に債権者の債務株式化の手続きを開始、12月には事業更生前の既存株主、従業員や特定の投資家向けに新株を募集する。資本リストラは2か月ほどかかる。
ピヤサワット氏は特定の投資家向けに売り出す株式の取得先探しで交渉を開始したことを明らかにした。資本提携先の社名は明らかにしていないが、航空業界に携わる外資だとしている。株主に航空業に関する知識があれば、それに越したことはないが、タイ国内にはタイ航空よりも規模の大きい航空会社は存在しないため、海外からパートナーを見つける必要があると説明している。近く結論が得られる見通しだが、どの程度の割合で株式を取得するかは、債務株式化で残る株式数を見極める必要があるとした。
自己資本の再構成は今年末までに完了する。24年度の決算書の監査が終了するのは来年2月。その後、中央破産裁判所に事業更生の終結を申請、来年第2四半期中にはSETでの取引再開を期待している。
事業更生計画に盛り込まれた債務株式化では、財務省に対する債務は1株あたり2.5452バーツで全額が株式化される。第5群債権者(航空機売却益の優先受領権を有する金融機関)、第6群(無担保債権を持つ金融機関)、第18~31群(社債所持者)は債務の24.5%を株式化する。
事業更生計画に基づき債権者が株式化の義務を負う分は148億6236万9633株、債権者が任意に株式化に応じる分が49億1123万6813株、債権者が任意に利息の株式化に応じる分が19億360万8176株。債務株式化は11月中に終える。任意の債務株式化で余った新株は既存株主、従業員と私募による特定の投資家に割り振る。
資本リストラ後の財務省の持株比率は48%から30~40%に減少する見通しで、タイ航空が国営企業に復帰することはない。ピヤサワット氏は、その方が経営の自由度が大きく、外部からの経営への介入の余地も少なくなると説明した。国営企業の時代には会議の半分は国営企業であることによる様々な制約条件に関する検討作業に時間を取られていたが、今では95%の時間をビジネスに関した問題に費やすことができるようになったという。
民間企業としての存続は債権者も望んでいる。航空業界に詳しい新たな投資家を迎え入れることができれば、国営企業時代のように人事や経営に横やりが入るのを防ぐことができる。
なお事業更生計画遂行委員会は5人の委員のうち2人が辞任し、現在は3人となっている。政府は債権者の立場からポラチャック・ニムワタナー財務省国営企業政策委員会事務局次長とパンヤー・チューパニット運輸省運輸交通政策事務局長の2人の追加任命を求めており、11月8日にも債権者集会で審議する。
新憲法制定の日程に遅れ=次期総選挙に間に合わず
現政権の任期が2年半となる中、次期総選挙までに新憲法が制定されるかどうか微妙な情勢になっている。軍政が制定した2017年憲法に代わる新たな憲法の制定には3回の国民投票が必要。2021年国民投票法は有効投票数が有権者の50%以上で、有効投票の過半が賛成することを可決の条件にしている。
政府与党は二重過半数の規定をなくすため、国民投票法改正法案を起草し、下院で可決したが、上院は9月30日に二重過半数に戻す修正を行なっている。下院が10月9日に上院修正案を否決したため、両院合同委員会が設置されている。両院合同委員会の協議で両院の合意が得られなかった場合、その法案は180日間、凍結される規定となっている。180日後に下院が再可決すれば成立する。
政府は予算を節約するため、1回目の国民投票を来年2月の地方選に合わせて実施する考えだが、両院合同委員会で合意できなかった場合は不可能になる。
チャートタイパタナー党のニコン・チャムノン最高戦略責任者は、遅くとも27年4月に実施される次の総選挙までに新憲法が施行になる可能性はほとんどないと指摘している。たとえ27年4月までに新憲法が制定されても、総選挙を規定する下院議員選挙に関する憲法付属法の制定が必要で、付属法の制定までを含めると新憲法下での総選挙実施の可能性は限りなくゼロに近い。
下院が憲法改正のための国民投票は単純過半数で十分という立場をとっているのに対し、上院は二重過半数の維持を求めている。両院合同委員会は毎週水曜に審議する予定だが、国会は現在休会中で、委員会審議の時間枠は定められていない。ニコン氏は日程的に新憲法下での総選挙実施が無理であるなら、国民投票法案の審議は急ぐ必要がないと主張している。
国民投票は、最初に新憲法の制定に同意するかどうかを有権者に尋ねる。過半数が同意する場合、今度は新憲法制定のための憲法256条の修正について有権者に問うことになる。新憲法が作成されれば、3回目の国民投票を実施する。
一方、新憲法の制定を党の政策に掲げる最大野党の民衆党はペートンターン首相、ワンムハマド・ノーマター国会議長、ナカリン・ワチャラシントゥ憲法裁判所長官による協議を求めている。両院合同委員会で審議中の国民投票法改正法案とは別に、旧前進党が提出した法案の審議を下院が進めるよう求めている。3回の国民投票を2回に短縮する内容だが、憲法裁判所が21年3月日に3段階で国民投票を実施しなければならないとする判断を下しているため、国会議長は前進党提出法案の審議入りを拒否している。
民主党の動きのほか、政府与党は有効投票数を有権者の過半数とした規定の削除ではなく、過半数のハードルを20~30%に修正する案を示しており、両院合同委員会で提案する準備を進めている。
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