改造内閣が官報公示=ペートンターン首相が文化相を兼任
ペートンターン首相の政権運営が大きく揺らいでいる。7月1日、改造内閣の勅書が官報に公示され、首相が文化相を兼務するなど今後の政局をにらんだ人事が明らかとなる一方で、首相の倫理違反をめぐる憲法裁の受理判断が同日中に下される見通し。受理されれば職務停止の可能性もあり、首相の地位は重大な岐路に立たされている。
7月1日、ペートンターン政府の国務大臣の辞任と任命に関する勅書が官報に公示された。ペートンターン首相は文化相を兼務する。プームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼国防相は副首相兼内相に、ナルモン・ピンヨーシンワット農業・協同組合相は教育相に、スダーワン・ワンスパキットコーソン文化相は高等教育・科学・研究・技術革新相に横滑りする。デートイット・カーオトーン保健副大臣は内務副大臣に異動する。
イッティ・シリラッタヤーコン農業・協同組合副大臣とピチャイ・ナリプッタパン商業相は閣外に。スチャート・タンジャルーン氏が総理府相、アッタコン・シリラッタヤーコン氏が農業・協同組合副大臣、チャトゥポン・ブルットパット氏が商業相、チャンタウィット・タンタシット氏が商業副大臣、ポンカウィン・ジュンルンルアンキット氏が労相、リンティポン・ワリンワチャラロート氏が教育副大臣、テーワン・リプタパンロップ氏が教育副大臣、アヌチャー・サソムサップ氏が保健副大臣、チャイチャナ・デーチャデーチョー氏が保健副大臣に新たに任命された。
一方、憲法裁判所は7月1日、ペートンターン首相を倫理違反で告発した上院議員の請求を受理するかどうかを判断する。受理されれば、首相の地位は危うくなる。請求は36人の上院議員によって提出されたもので、ペートンターン氏とカンボジアのフン・セン氏との間で交わされた音声クリップが流出したことを受け、憲法裁判所に対して調査を求めるとともに、裁判所の判断が下るまで同氏を職務停止とするよう要請している。
この会話には、第2軍管区司令官に対するペートンターン氏の侮蔑的な発言や、フン・セン氏に対する従属的な態度が含まれ、カンボジア側の要求に従う意志を示唆する内容となっていた。
上院議員らは、ペートンターン氏が憲法第160条第4項および第5項に違反し、必要な資質や誠実性を欠くと主張している。訴えによれば、ペートンターン氏は誠実さに欠け、重大な倫理規範違反に該当する行動を取った。
憲法裁が受理した場合、首相に対し判決が下るまでの職務停止を命じる可能性がある。憲政研究所の専門家は、職務停止命令が出されれば一時的に国民の圧力を緩和できると述べた。職務停止とならなければ、抗議活動が激化し、政治的緊張が高まるとみている。
1日朝に官報に公示された改造内閣の名簿をみると、プアタイ党はペートンターン氏が職務停止となる可能性に備えている。ペートンターン氏が文化相を兼任するというもので、首相の職務が停止されても文化相として政権にとどまり、毎週の閣議にも出席できる。なお、国務大臣任命の勅書は下りたが、首相が職務を停止した場合、首相代行による国務大臣の国王宣誓式が可能かどうかの議論もある。
野党に転じたプームチャイタイ党は7月3日召集の次期通常国会の開会と同時に首相不信任案を提出する構えをみせているが、その時点で首相が職務停止中であれば不信任案を提出できるのかも議論がある。
野党党首らは3日に会合を開き、不信任案を提出するかどうかを協議する予定だが、最大野党民衆党のナッタポン・ルアンパンヤーウット氏は慎重な対応を求めている。ナッタポン氏は「不信任案の提出に反対しているわけではないが、時期と方法については慎重に検討すべき。現在の政治情勢を考慮し、野党各党が一致団結して行動することが重要だ」と述べた。
ナッタポン氏は、特定の勢力が現在の政治的不確実性を利用し、軍事介入などの超法規措置を求める動きをみせる可能性があることを懸念している。憲法第5条に基づき、総選挙時の首相候補名簿にない人物が首相に任命されるとの憶測について、党としてそのような展開を支持しないとしたが、懸念はあると認めた。
工業生産が回復傾向=指数は2か月連続で増加
工業経済事務局(OIE)が6月30日に発表した5月の工業生産指数(MPI)は100.79ポイントとなり、前年同月比で1.88%増を記録した。2か月連続のプラス成長で、自動車産業の回復、輸出の継続的な増加、政府による経済刺激策が寄与したとしている。
OIEは、国内の製造業が回復傾向にあるものの、依然として世界的な貿易政策の不透明感が重しとなっており、主要貿易相手国との経済摩擦が経済全体に影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らした。パーサコン・チャイラット事務局長[=写真]は、こうした状況下、製造業には環境変化への柔軟な対応が求められていると述べた。

設備稼働率は61.14%で、製造業の生産活動が再び活発化している状況を反映している。自動車産業の生産は2か月連続で拡大し、前年同月比で12.86%増を記録した。モーターショーでの予約の納車に向けた生産に加え、債務者援助プログラムの登録期間の延長、1万バーツ給付の経済刺激プログラム、金融政策委員会(MPC)による政策金利の引き下げなど、政府の経済刺激策も寄与した。
また、国際貿易の拡大も生産活動を後押ししており、5月の輸出額は前年同月比で18.4%増加した。11か月連続のプラス成長で、米国による輸入関税引き上げを前に、輸出業者が出荷を前倒しした動きが背景にある。工業製品(金、武器を除く)の輸出額は235億5200万㌦で、前年同月比22.3%増となった。
一方で、米国による輸入関税引き上げの方針が依然として不透明であることから、輸出は今後減速する可能性がある。5月の製造業の景況感は低下した。バーツ高、海外からの製品流入、家計債務問題により個人消費が回復していないことが理由。消費者は支出に慎重となり、工業製品全体の販売に影響を及ぼしている。
加えて、観光業も減速傾向にあり、コールセンター詐欺グループの問題や、3月に発生した地震による影響が続き、外国人観光客の間でタイの安全性への懸念が高まっている。中国政府が自国民の国内観光を促進しているほか、観光客の間でタイは似たような旅行先よりも費用が高いとの認識も広がっている。
6月の工業経済に関する警戒システムの全体評価は「継続的な警戒が必要」。国内要因では、製造業と企業部門の景況感が低下しており、米国の関税政策の不確実性や地政学的対立が響いている。国外要因としても、日本やユーロ圏の主要貿易相手国の製造業が減速傾向にあり、米国の関税政策の先行き不透明感、世界貿易市場の動向は引き続き注意を要する状況にある。
パーサコン氏は、工業経済が世界各地での地政学的な対立、米国の関税政策、脆弱な国内経済といった不確実性に直面しており、いずれも注視し続けなければならない課題だと指摘。政府と事業者が協力し、政策面、戦略面の両面から市場シェアの維持と競争力の確保に努める必要があると述べている。
5月の工業生産指数の上昇に寄与した主な産業は、以下の業種。
自動車産業は、前年同月比12.86%増を記録した。主に1800cc超のハイブリッド乗用車、ピックアップトラック、バッテリーEV、プラグインハイブリッド車の生産増が牽引したもので、市場のニーズが高まっている。特にピックアップトラックは、輸出市場からの需要が拡大したことが成長を支えた。
パーム油産業は、前年同月比25.14%増となった。パーム原油と精製パーム油の生産が中心で、生産量の増加に加え、インド、中国、ミャンマーからの引き合い増が追い風となった。
砂糖産業は、前年同月比21.43%増。サトウキビの搬入量が前年を上回った。主要産地での降雨量の増加と2023/24年度のサトウキビ価格の高騰により、農家が作付面積を増やした。
5月の工業生産指数に対してマイナスの影響を及ぼしたのは以下の産業。
エアコンは、前年同月比10.64%減となった。国内市場の縮小に加え、前年より早く雨季入りしたことが需要に影響したほか、特に価格が安い外国製品との競争が激化した。
非アルコール飲料は、前年同月比13.56%減となった。主に炭酸飲料、インスタントコーヒー、ミネラルウォーターなどの製品で落ち込みがみられた。主要メーカーが一部製品の製造を停止したことが影響している。
コーヒー、紅茶、ハーブ飲料は、前年同月比80.83%の大幅な減少となった。インスタントコーヒーの生産減が主因で、主要メーカーによる5か月連続での生産停止が背景にある。
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