ペートンターン首相に職務停止命令=音声流出問題で資格審査、代行はスリヤ氏
憲法裁判所は7月1日、上院議長が提出していた、ペートンターン首相の首相資格について判断を求める申立てを受理した。憲法第170条第3項と第82条に基づき、ペートーンターン氏が首相資格を欠くかどうかの判断に加え、憲法裁が判断を下すまで職務を停止する命令を出すよう求めたもので、憲法裁は全会一致でこの請求を受理し、7対2の多数決で職務停止を命じた。
36名の上院議員が署名し、モンコン・スラサッチャ上院議長を通じて提出した申立てによると、6月18日、各種メディアを通じて、ペートンターン首相とカンボジアの元首相で現上院議長のフン・セン氏との電話会談の音声クリップが拡散した。その中で第2軍管区司令官に対して批判的で、カンボジア側に対して譲歩する姿勢を示し、要求を受け入れるかのような発言があった。この件についてペートンターン氏は当日の記者会見で、私的な電話で、タイの平和と主権を守るために穏やかに交渉したと説明していた。
憲法裁はペートンターン氏に15日以内に答弁書を提出するよう命じている。
なお、少数意見の裁判官2名は、申立てに基づく事実が明確ではなく、疑いは十分でないとしたが、重大な損害を未然に防ぐため、裁判が終わるまで、安全保障、外交、財政に関する職務権限の行使を禁ずる一時的な措置を提案した。
裁判所の命令が出る数時間前、官報に新内閣の正式な人事が公示され、ペートンターン氏は文化相に任命されている。閣議は通常よりも1時間早い午前9時に前倒しで開催され、閣議後の首相会見は行なわれなかった。
首相の職務執行停止を受け、ひとまずスリヤ・ジュンルンルアンキット副首相兼運輸相が代行を務めることになる。筆頭副首相のプームタム・ウェーチャヤチャイ氏は改造内閣に関する勅命に基づき、副首相と国防相の地位を離れており、副首相兼内相への正式な就任は7月3日の拝謁と国王宣誓式を終えてからとなるため。プームタム氏が一旦、副首相職も辞任したのは、上院議員選出での不正疑惑に対する特別事件捜査局(DSI)による調査命令をめぐる憲法裁への訴えが背景にあるとされる。
プームタム氏とタウィ・ソートソーン法相は、DSIを使って選挙不正調査に関する選挙委員会(EC)の権限に不当に干渉したとして、職権濫用の疑いで憲法裁に訴えられている。憲法裁は今年3月、この訴えを全会一致で受理し、プームタム氏とタウィ法相に書面提出を命じ、あわせてタウィ法相にはこの件に関する職務権限の停止を命じている。法務省を監督する副首相ポストをいったん辞したことで、憲法裁はこの日の審議でプームタム氏に職務停止を命じることはできなくなっていた。憲法裁はこの日、この訴訟で、ECに追加書類の提出を命じるにとどめた。
3日は、スリヤ氏が新任閣僚を引率して、国王に拝謁することになる。新閣僚の国王拝謁と宣誓式の手続き中に首相が職務停止となる前例のない状況に内閣官房は懸念を示し、枢密院に照会している。宣誓式にはペートンターン氏も文化相として列席する。3日の宣誓式を終え、新閣僚が正式に就任すれば、筆頭副首相のプームタム氏がスリヤ氏に代わって首相代行を務めることになる。なお、首相代行は完全な権限義務を有するとされ、法的には下院の解散権も行使できる。
ペートーンターン首相はこの日午後2時、首相官邸で記者会見を開いた[=写真]。首相は、自身が常に国のイメージを守ることに努め、国のために最善を尽くして働いてきたという思いを説明したいと語った。憲法裁判所の判断は受け入れるとし、今後は首相としての職務は停止するものの、一タイ国民として国のための行動は止めないと表明した。15日以内に憲法裁に出頭する予定で、自身の真意を明らかにし、流出した音声クリップの件についても詳しく説明すると述べた。

首相は、すべての行動が100%以上、国のため、タイの主権を守るため、タイ軍の兵士の命を守るためだったと強調した。自身の行動については、手法の面で賛否があるかもしれないが、誠意と真意、国家のために尽くそうという努力を示すものだったと主張した。自らの行動に私利私欲はなく、国の安定を望み、軍人が血を流す事態を避けたい一心だったと説明。説明を聞いてもらえば、悪意がないことを理解してもらえるはずだと述べた。
首相は、これまで寄せられた多くの励ましに感謝を表明し、今回の件で国民に不安を与えたことを謝罪した。
憲法裁が最終的な判断が下すまでには1〜3か月かかると予想されている。セーター・タウィーシン前首相の国務大臣資格をめぐる審理は、昨年5月23日に受理してから8月14日に資格喪失の最終判断を下すまで約3か月を要している。
ペートンターン氏が、職務停止命令を見越して文化相を兼務したことや、この日午後の会見内容からも、辞任の意思はなく、向こう1~3か月の政局は現状維持で、小康状態を保つ可能性が高い。首相辞任を求めるデモの勢いも減じる見通し。
首相退陣を求める「主権を守る国民の力」は憲法裁による職務停止の判断を肯定的に受け止めている。次回の大規模なデモ集会は8月半ばに開催すると発表している。混乱が深まれば、軍の介入の余地が生まれるおそれもあるだけに、首相の職務停止は最善の結果と評価されており、1日のタイ株式市場は前日比1.88%高で大引けた。ある証券アナリストは、抗議が過激になるのを抑えることができ、市場にとっては好材料とコメントしている。
憲法裁が最終的に首相資格喪失の判断を下した場合、現時点ではプアタイ党の第3の首相候補であるチャイカセーム・ニティシリ氏が首相になる可能性が最も高いとされる。
その他のニュース
[経済ニュース]
政治空白が経済に重圧=関税交渉や投資判断に懸念広がる
商業相にチャトゥポン氏=民間部門は手腕に期待
BOIが国産部品の使用促進策=EV、家電に2年間の追加減税
原産地偽装に対処=輸出監視品目を拡大へ
タイ大林とサハがホテル開発=西武系経営の複合施設
WHAグループ=ネットゼロへESG加速
「鎌倉ねこサロン」=タイに初上陸
タイの米輸出額が大幅減=価格下落と数量減
[社会ニュース]
ビル倒壊原因の内務省の調査報告=「設計と工法のミス」
国防相ポスト空席に憶測
南部の連続爆弾放置事件=BRNの犯行と断定
サラブリ県の製紙工場で出火=8人死亡、2人が行方不明
警察庁航空機2度の墜落事故=反汚職団体が汚職を指摘
北バンコクに新道開通=都心と空港結ぶ新たな経路に期待
[インタビュー]
ダヌチャー・ピチャヤナン=国家経済社会開発評議会(NESDC)事務局長
[レポート]
バーチャルバンク事業者発表と海外における事業事例=タイの銀行システムにおける新たなイノベーション
[BOI認可事業]
5月19日認可39事業
コメント