バーツの対ドルレート31バーツ台に=ドル安・金価格高騰で4年ぶり高値
外国為替市場でバーツが急上昇し、9月9日にはタイ中央銀行の参照レートで1ドル=31.662バーツを付け、過去4年超で最も高い水準となった。年初からの上昇率は7%を超え、アジアの主要通貨の中でも最高となった。中国人民元をはじめとするアジア通貨の動向と歩調を合わせたもので、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測を背景としたドル売りが強まったことが理由だ。市場では31.50バーツまでの上昇余地があるとの見方も出ている。
今回のバーツ高は、世界的なドルの下落と国際金価格の上昇が主因となっている。米国の雇用指標が相次いで悪化し、米経済の減速懸念が強まったことがドル売りにつながった。また、金価格は1オンス当たり3600㌦と過去最高を更新した。外国人投資家によるタイ国債の買い越しもバーツを押し上げた。短期的な見通しについて、カシコンリサーチはバーツがさらに上昇し、1ドル=31.50バーツを試す可能性があると指摘。FRBの利下げ観測がドル安心理を強めており、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表される新たなドットプロットが注目されるとしている。カシコンリサーチは、1ドル=30バーツ台に上昇する可能性は低いとみており、タイ中銀がバーツの過度な上昇を抑制する介入を行なうと予想している。
タイ中央銀行のピムパン・ジャルンクワン金融市場担当総裁補[=写真]は「年初からバーツは約7%上昇し、域内通貨の先頭に立っている」と述べ、今後も動向を注視しつつ、必要に応じてボラティリティ抑制のための措置を検討するとした。

中銀は為替市場の変動を抑えるため、対応策を模索中で、民間企業に対しては為替リスク回避の取り組みを継続すべきと注意を呼びかけている。
週明け8日、バーツは急速に上昇し、1ドル=32バーツの水準を突破して31.81バーツ前後まで強含んだ。特に9月5日以降の数日間での上昇幅は域内最大となっている。31バーツ台は、2021年半ば以来、4年超ぶり。クルンタイ銀行の資本市場担当者は、「2021年にFRBが政策金利を0.00~0.25%に引き下げた時期以来だが、当時とは状況が大きく異なり、ユーロや円と比較しても現在のバーツは強基調にある」と語った。
バーツ高の要因には、国内のファンダメンタルズと海外からの影響の双方があり、経常収支の黒字が続いていることも背景にある。現在、タイの経常収支の黒字幅はGDP比で2~3%に達しており、ファンダメンタルの強さを示している。マレーシアやインドネシアと比べても、タイの経常黒字の規模は大きい。
バーツ高は外貨準備の増加にも反映されている。過去8か月で外貨準備は約300億㌦(約13%)増加した。この一部は、中銀による覆面介入による。タイ中銀が市場介入に使った資金は約20億㌦で、外貨準備増加分の約5%に相当するとされる。
今後の見通しとしては、対ドルで31.50バーツまで上昇し、その水準を年末まで維持するとの予測が出ている。米国の経済指標が想定以上に悪化し、特に米国の雇用統計は2か月連続の悪化となり、当初の予想を大きく下回っている。FRB内で利下げを支持する声が明確になり、9月16、17日の会合で利下げに踏み切るとの見方が強まっており、バーツの上昇基調は今後も続きそう。
カシコンリサーチは、バーツ高の背景には2025年に入り顕著となったドル安があり、トランプ大統領がFRBに介入したことが、ドルの信認の低下を招いたと分析した。新たに着任する中銀総裁や財務相の政策次第で、年末にかけてバーツが多少弱含む余地もあるとする一方、バーツ高は輸出に影響すると強調した。
タイ商業会議所(TCC)のポット・アラムワタナノン会頭は、バーツの急激な上昇は実体経済と逆行するもので、輸出事業者に深刻な打撃になっていると述べ、当局に対し早急な対応を要請した。
ポット会頭は、バーツのここ数年で最も急速かつ大幅な上昇に懸念を表明。バーツ高が輸出、観光、農業というタイ経済を牽引する主要部門に直接的な打撃を与えていると述べた。
輸出部門では、商品の価格が競合国より高くなり、販売や海外収益に影響を及ぼしている。観光部門もバーツ高により、外国人旅行者にとってタイ観光のコストが上昇し、タイ旅行への意欲が減少している。農業部門も輸出に依存する農家は、コストと収入の不均衡に直面しており、特に稲作や畑作物に深刻な影響が出ていると指摘した。
TCCの分析では、今回のバーツ高は、ドル安と金価格の上昇にある。タイは多くの金を保有しており、世界市場で金価格が上昇し続けていることから、金を売却して外貨に替え、それをバーツに転換する動きが強まり、結果としてバーツの需要が増加した。資金流入も起きており、その一部は暗号資産による可能性もあるとした。
米国の関税措置は、タイの輸出業者の競争力を低下させ、バーツ高による打撃を一層深刻にするおそれがある。一方で、中銀がバーツ相場に強く介入すれば、米国から「為替操作国」として注目されるリスクがある。この問題は、現在進行中のタイ米間の通商交渉や経済関係とも密接に関連することから、ポット会頭は慎重な政策対応が求められるとしている。
為替がタイ経済の実力を反映せずに変動すれば、企業は競合国に対して競争力を失う。TCCは金関連の国際収支を分離して明示することで、為替への影響を正確に把握できるようにすべきと提案してきた。ポット氏は、状況が長引けば、当局が介入をしても巨額の資金が必要となり、効果が得られないおそれがあると警告している。
タイ荷主評議会(TNSC)のタナコーン・カセートスワン会長は、輸出に甚大な影響を及ぼし、売上が大きく失われたと危機感を示している。同会長は、例えば1000万㌦の輸出契約では、為替が34バーツなら3億4000万バーツとなるが、32バーツでは3億2000万バーツに減り、2バーツの上昇で2000万バーツ(5.8%)の目減りになると説明。「特に原材料を国内調達している業者にとって打撃が大きい」と指摘した。大企業は為替ヘッジでリスク管理できるが、中小企業は資金余力がなく対応に苦慮しており、仕入れ先や顧客との価格交渉に追われているとした。原材料を輸入に頼る企業では、バーツ高が有利に働くケースもあり、輸入依存度の違いにより、業界ごとに影響の度合いは異なると述べた。
また、今回のバーツ高は、新政権の発足で外国人投資家の信頼感が高まり、経済チームによる政策運営への期待から、短期資金が流入して投機的な取引が増えたことも背景にあると分析してみせた。タナコーン氏は、タイが輸出依存度の高い国であり、中銀はバーツ高を抑制すべきで、政府も一時的現象か構造的問題かを慎重に見極める必要があると訴えた。
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