アヌティン首相がFTI訪問=バーツ高と米関税に対応急務
アヌティン首相は9月15日、タイ工業連盟(FTI)と会合を持ち、経済・産業政策の連携強化に向けた民間との対話を本格化させた。首相は、物価高や中小企業支援、米国の関税措置、カンボジア国境問題などへの迅速な対処を約束し、FTI側はバーツ高や米関税を見据えた支援策の早期実施を求めた。新政権の任期は4か月間しかなく、官民連携による具体策の構築が急務となる。

アヌティン首相はこの日、FTI本部を訪ね、経済や産業分野での協力強化の方向性について協議した。クリアンクライ・ティアンヌクン会長以下、幹部が首相とスチャート・チョムクリン氏、エークニティ・ニティタンプラパート氏、スパチー・スタムパン氏、タナコン・ワンブンコンチャナ氏、ウォラパック・タンヤーウォン氏、クリット・ソムバットシリ氏らの随行者を迎え入れた。
今回の協議において、クリアンクライ会長は、タイの産業界が直面する全体的な課題を指摘するとともに、FTIが進める「4GO」政策について説明した。(1)デジタルとAIによる産業の高度化を進めるGO Digital & AI、(2)起業家の創出を支えるGO Innovation、(3)世界市場への拡大を目指すGO Global、(4)環境に優しくカーボンフットプリントを削減する工業開発を進めるGO Greenが、世界経済の変化に産業界が対応していくための主要な推進力となると述べた。
アヌティン首相率いる政府は、4か月の任期において、緊急政策を策定し、4つの主要課題の解決に取り組む方針を示している。第1に、経済分野では、国民の支出負担、生活費、エネルギー費、交通費や各種輸送費を軽減するための措置を実施するとともに、農民や低所得者の債務問題の解決を目指す。第2に、安全保障分野では、タイとカンボジア間の紛争を平和的手段によって解決し、両国国民の損失と影響を減らす。第3に、自然災害分野では、内相在任時に開始した警報システムの開発を発展させるとともに、自然災害を受けた国民への補償を迅速に実施する。第4に、社会的脅威の分野では、麻薬取引、人身売買、詐欺、賭博、オンライン賭博組織を取り締まり、近隣諸国や友好国との協力を通じて、あらゆる形態の社会的脅威を一掃することを目指す。
アヌティン首相は、「喫緊の課題に重点を置かなければならない。事業者の問題であれ、あるいはタイとカンボジア国境貿易の問題であれ、あらゆる手段を用いて解決する必要がある。それは軍事面、外交面、そしてカンボジア側との緊密な協議によって行なわなければならない」と述べた。
事業者に関しては、国内での投資や製品の生産をより一層推進していくとした。投資振興に関して、投資委員会(BOI)と早急に協議すると伝えた。首相は、「ドリームチームはリアルチームになる。党派を分けることはしない。我々はチームとしての働き方の原則を用いて国を発展させていく」と述べた。
FTIは、緊急的に推進すべき産業振興の方向性として、(1)米国の輸入関税措置と貿易戦争への対応準備、(2)中小企業の資金繰りと資金アクセスの促進、(3)電力料金構造の調整による事業者のコスト削減、(4)タイ・カンボジア国境貿易問題の影響への対応と事業者支援策、(5)バーツ高による影響の管理を要請した。
米国の輸入関税措置と貿易戦争への対応に関する課題について、ナワー・チャンタナスラコン副会長は、米国の基準や条件について事業者の理解を深めさせること、域内生産価値比率(RVC)算定に関する相談窓口を設けること、さらに事業者がサプライチェーンを柔軟かつ現代的にトランスフォーメーションできる支援を求めた。加えて、国際貿易分野で積極的な措置を講じ、製品が法律を厳格に遵守するよう監督するとともに、国産品(Made in Thailand: MiT)の利用促進にも力を入れるよう求めた。
タイは米国から8月7日以降、19%の関税を課されている。関税は2つのケースに分けて課される。第1のケースは、19%の税率で、この措置の範囲に含まれる全ての商品に適用される。ただし、通商拡大法232条の対象となる自動車、自動車部品、鉄鋼、アルミニウム、銅などは別途課税される。第2のケースは、40%の税率で、トランスシップメントと判断された場合に適用される。米国の税関・国境警備局(CBP)による調査と検証を経なければならず、不正利用と認定されれば、40%の税率が課されることになる。
ただし現時点では、RVCの算定基準が明確に定められていないため、タイ政府は米国の運用方針を注意深くフォローし、事業者が迅速に対応できるようにする必要がある。
中小企業(SME)の資金繰り改善と資金アクセスの促進に関して、アピチット・プラソップラット副会長は、今年6月時点での中小企業の脆弱な状況について説明した。中小企業向け不良債権は2430億2600万バーツにのぼる。FTIは「SME向けファストトラック措置」を提案した。3~7日以内に承認される「緊急信用保証」が含まれ、政府が保証料を補助し、通常よりも高い保証割合、例えば80~100%)を設定することで、銀行が迅速に流動性を必要とする中小企業に融資できるようにする。
また、「特別緊急の中小企業流動性強化融資」を中小企業振興機構の基金を通じて、政府系銀行が実施する。さらに、500万~1000万バーツ規模の融資に対応する「エクスプレスレーン」を開設し、税制下にあるSMEについては担保を不要とする。短期的な資金繰りを補填することで、事業の継続を可能にし、不良債権が膨張するリスクを抑える。不良債権の再構成では「ヘアカット」を講じ、債務者が残る債務を返済して口座を閉じられるようにするとともに、システム全体における不良債権を削減する措置を提案した。
イサレート・ラタナディロック・ナ・プーケット副会長は、事業者のコストを削減し製造業の競争力を高めるため、電力料金の構造改革を提案した。公平で実際の生産コストを反映し、産業界の競争を促進する電力料金構造の必要性を強調した。代替エネルギーと再生可能エネルギーの支援策を推進することで、事業者は環境対策を重視する世界市場で競争できるようになると述べた。
政府には、公正な価格とエネルギーの安定性を備えた新たな電源開発計画(PDP)を年内に策定するよう求めた。加えて、不要なコストを削減し、電力の自由化を促すため、電気料金の決定構造を見直すよう提案した。支払い履歴が良好な電力利用者については、電力使用保証金の額を引き下げ、資金負担を軽減するよう求めた。
ウェーティット・チョークワタナー副会長は、タイ・カンボジア国境貿易の問題が多くの事業者に影響を与えていると指摘し、政府に緊急・短期・長期の各段階で支援策を速やかに講じるよう求めた。支援策には、貿易の円滑化、税関手続きの問題解決、さらには国境貿易における規制の明確化に向けた二国間協議などが含まれ、これにより事業者が継続的に事業を遂行できるようになるとしている。
緊急段階においては、事業者の物流コスト削減に重点を置き、既存の物流ルートの補完、沿岸船舶による貨物輸送、原材料や部品といったサプライチェーンに組み込まれる商品について、チャンタブリやトラートなどの紛争のない通関での輸出入を認めるよう提案した。また、両国間に対立がある時期に輸送を余儀なくされた事業者については、輸送費を2倍の経費控除として認めるなどの補償が必要だとした。
短期的には、カンボジアに投資した事業者や、カンボジアとの継続的な取引の証拠がある事業者を対象にソフトローンを検討するよう提案した。タイ輸出入銀行が実施する既存の措置に加える形で行なう。BOIに対しては、この事態で影響を受けたサプライチェーンに属する産業に対して優遇措置を付与し、カンボジアから輸入される部品や原材料のタイ国内生産への投資を促すよう求めた。
長期的な施策については、安全保障の状況を踏まえ、両国が再び共同で貿易を行ない、合法的な経済的結びつきを構築し、地域全体の共通の成長を実現できるようにする。
クリアンクライ会長は、域内の競合国であるベトナムやインドネシアと比べた場合のバーツ高に対する懸念を表明し、輸出に影響を及ぼしていると述べた。そのうえで、政府に対し、金取引、暗号通貨取引、非公式な経路での外国人労働者の送金などの影響を早急に調査・分類するよう提案した。現在はこれらを明確に区分できていない。さらに、アセアン+3の枠組みに基づき、国際貿易における現地通貨の利用を促進するとともに、為替オプションや先物契約といった為替リスクヘッジ手段の利用を事業者に促すよう求め、その際には初期費用や手数料を軽減する支援措置を講じるよう提案した。
今後の協力枠組みについて、FTIは、経済問題を解決するための官民合同委員会を通じた協議を推進すべきだとし、米国の関税措置、タイ・カンボジア国境貿易、経済刺激策など、重要な経済課題に関する意見交換の場を設けることで、具体的な解決策を共に模索すべきだと提案した。クリアンクライ会長は、「今回の会合は、官民の積極的な協力関係を築くうえでの重要な出発点となる。FTIは政府を全面的に支援し、緊密に連携しながら、将来のタイ経済をより強固で安定的かつ持続可能なものに導く覚悟だ」と述べた。
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