2025年9月17日(水)号

オンライン詐欺対策で波紋広がる=無実の預金口座が次々と凍結

 オンライン詐欺対策で当局が取締を強化した結果、新たな問題が生じている。架空口座としてマークされた預金口座からの振込先口座が自動的に凍結される措置が導入されたことで、犯罪と無関係の口座が予告なしに凍結されるケースが多発している。商品・サービス代金の支払いをQRコードなどで振り込んだ正規の口座にも被害が出ており、金融当局が緊急会合を開いて対応策を協議する事態に至っている。
 タイ中央銀行のダラニー・セーチュー総裁補[=写真中央]は、「凍結されているのは不正口座から送金を受けた口座に限られる」と説明した。オンライン詐欺対策センター(AOC)と商業銀行は、不正利用された資金を回収し可能な限り被害者に返還するため調査を拡大しているという。警察庁中央捜査局サイバー犯罪捜査部(CCIB)、商業銀行、デジタル経済社会省などと協議し、無実の口座への影響を軽減するため凍結・解除手続きの調整で暫定合意に至ったことも明らかにした。「疑わしい口座の凍結は資金返還に不可欠だが、解除手続きを改善し一般顧客への影響を最小限に抑える」と強調した。凍結された場合はまず銀行に連絡し、解決しない場合は中銀のホットライン「1213」で支援を求めるよう呼び掛けた。


 中銀は15日、オンライン詐欺や資金洗浄対策に伴い凍結された預金口座の取引解除を迅速化する取組を開始した。犯罪と無関係な口座が不当に凍結される被害の軽減を目指す。
 ダラニー総裁補が15日の記者会見で明らかにしたところによると、中銀は関係機関と協力し、架空口座と潔白な口座をより正確に区別する新たな業務プロセスを導入した。銀行が当該取引に犯罪との関連がないと確認すれば、凍結解除は従来の3~7日から1日以内、最短で3~4時間に短縮される。すでに措置は一部導入済みで、さらに今月中には各銀行で順次展開される予定。銀行は凍結と関連金額について、顧客に事前通知を行なうことも義務づけられる。
 CCIBのトライロン・ピウパン部長によれば、最新のオンライン詐欺では、架空口座に振り込まれた金を商品購入に充て、いったん資金を洗浄する手口が増えている。犯罪者は商品を転売して現金化しており、仕入れ代金を振り込んだ口座が巻き添えで凍結されている。「銀行は通常と異なる出所からの多額入金があった口座を自動的に凍結している。このため家電製品などを販売する正規業者でもフラッグが立ち、不当に巻き込まれる可能性がある」という。中には詐欺師と意図的に共謀し、不正な手数料を得るために偽取引をでっち上げる業者も確認されている。また詐欺師が10万バーツを子供の口座に送金し「誤送金」と偽って転送を迫り、その結果口座が凍結される事例もあった。CCIBは苦情処理と凍結解除の迅速化に人員を増強したが、苦情受付のホットライン1441や095-425-7478は電話が殺到し不通同然となっている。
 今回の影響は、架空口座経由で商品代金を受け取ったオンライン販売業者や個人事業者に集中しており、被害は広範囲に及んでいる。苦情がメディアやネットを通じて相次いだことから、当局は対応を急いでいた。中銀はデジタル経済社会省、資金洗浄防止取締委員会事務局(AMLO)、タイ銀行協会(TBA)、CCIBなどと連携し、「特別対策室」を設置。各事案を精査し、無実の口座保有者を詐欺犯と切り離す作業を進めている。
 ダラニー氏は、銀行と当局が引き続き不審な資金の流れを追跡しており、調査は電子マネーやデジタル資産にまで拡大していると説明した。8月以降、規制当局が電子マネー取引を精査したことでフラッグ対象口座は増加し、8月17~23日の一週間には約1万4000件が凍結された。9月7~11日には約1万件に減少したが、依然として無関係の口座が巻き込まれる事例は残っている。同氏は、「預金引き出しの急増は監視しているが、異常は検出されていない」と述べ、銀行部門の流動性に問題はないとの見方を示した。中銀は今後も状況を適切に管理し、無実の口座保有者を保護しつつ、詐欺対策を強化する方針だ。
 一方、デジタル省も苦情対応のため「特別対策室」を設置。ウィシット・ウィシットソラアット次官は「凍結は差し押さえではなく、疑わしい資金を一時停止する措置だ。他の残高や取引は利用可能であり、調査で不正がないと判明すれば解除される」と説明した。銀行は疑わしい資金を最大3日間停止でき、警察は7日間に延長可能。証拠が見つからなければ凍結資金は解除される。
 しかし実際には「預金全額が動かせない」との苦情が相次ぎ、説明と現実に乖離が生じている。凍結を恐れて銀行振込を避けたり、現金引き出しに走る動きも広がっている。特別対策室はTBA、CCIB、AMLOと連携し、無実の被害者と故意に関与した者を区別するため送金経路や取引パターンを精査する。犯罪と無関係と確認されれば即時に解除命令を出す。「事実が明確になれば数分で完了できる」と同次官は述べた。同省はある朝だけで600~700件以上の電話を受けたと明かし、解除は銀行から直接通知されるため、デジタル省やAOCが顧客に電話することはないとして注意を呼び掛けている。

消費への影響を懸念=業界団体が警鐘

 オンライン詐欺対策の一環として当局が強化した不正口座対策により、誤って口座が凍結される懸念が広がっている。飲食店、卸売、小売の各業界団体は、顧客に銀行振込やQRコード決済を提供することへの不安を表明した。
 タイ飲食店協会のチャーノン・クートチャルーン会長は、現時点で協会会員の口座が凍結された事例はなく、振込の提供を中止した会員もいないと説明。ただし地方の飲食店では、この問題が振込やQR決済に対する不信感を高める可能性があると警戒した。中大規模店は複数の口座を持ち掛売りも利用しているため影響を分散できるが、小規模店や屋台では単一口座への依存度が高く、凍結されれば事業に深刻な打撃を与えるという。
 タイ卸売小売業者協会のソムチャイ・ポーンラタナジャルーン名誉顧問も、「不正口座と無関係でも資金を受け取っただけで口座が凍結されるおそれがある」として、銀行振込やQR決済の提供にためらいが生じていると述べた。実際にパトゥムタニ県の卸売業者の口座が1週間凍結された事例も伝わり、懸念は強まっている。同氏は対策の一例として、個人が所有できるSIMカードの枚数制限を提案した。
 アナリストからも迅速な収拾を求める声が上がっている。カシコンリサーチセンターのタンヤラック・ワチャラチャイスラポン副社長は、小規模業者や高齢者といった弱い立場の人々が最も影響を受けていると指摘。「最も効果的なのは不正口座開設のコストを高めることだ」とし、当局に抜本策を求めた。また販売業者には、日々の取引を一つの口座に依存せず、複数の銀行口座を持つことを推奨した。
 サイアム商業銀行のエコノミック・インテリジェンス・センター(SCB・EIC)のプンヤワット・スリーシン氏も、事態が長引けば消費に打撃を与えると警告。特に新政府が経済刺激策として再開を計画する「コン・ラ・クルン(半分ずつ)」への影響を懸念している。

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