中期財政枠組みを閣議決定=財政再建で格付け維持へ
アヌティン政府は11月18日の閣議で2026~2030年の中期財政枠組みを決定した。予算の赤字を削減し、財政規律(公的債務残高のGDP比70%以下)を維持し、歳入の比率を引き上げることで持続可能な財政運営を目指す。カシコンリサーチセンター(Kリサーチ)は、財務省が今後数年以内に財政赤字をGDP比3%未満に抑えることに成功すれば、タイのソブリン格付けの見通しは「安定的」に戻る可能性があると報告している。
Kリサーチのナッタポン・トリラタナシリクン副社長[=写真]は11月14日、同社主催のセミナーで講演し、タイの財政状況は依然として主要なリスクで、信用格付け機関によるさらなる精査につながる可能性があると述べた。同氏によると、財務省は今後3〜5年以内に財政赤字をGDP比3%未満に引き下げる取り組みを加速する必要があり、より広範な構造改革も同時に必要となる。

ムーディーズとフィッチ・レーティングスは、タイのソブリン格付けを「BBB+」に維持した一方で、格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。見通しの引き下げは、コロナのパンデミック後におけるタイの慢性的に悪化した財政基盤への懸念を反映している。このような状況下では、1、2年以内に格下げが行なわれる可能性も排除できない。ナッタポン氏は、国際的な経験則では、財政赤字の縮小が不可欠だと指摘した。
財務省は中期財政枠組み(MTFF)の見直しを進めており、2029年までに財政赤字をGDP比3%未満に抑える目標を掲げている。財務省が計画どおりに実行できれば、タイのソブリン格付けの見通しは安定的に戻る可能性があるとした。11月13日には、財政金融政策委員会がMTFFを承認しており、18日の閣議に提出した。
アヌティン政府は2027年度予算枠組みの準備を進めており、19日にも財務省、国家経済社会開発評議会(NESDC)事務局、予算局、タイ中央銀行と協議する。歳出総額は3.78兆バーツ、編成時赤字は7880億バーツとする。27年度歳出予算の編成を急ぐのは、総選挙に備えたもので、予算の編成が遅れた場合、予算の執行に影響が出る。予算案は、内閣が承認した中期財政枠組みに基づき、財政の強化と厳格な予算執行を目標として作成される。
27年度歳出予算の枠組みは18日の閣議で承認された。歳出総額は今年度予算から0.2%増となる。歳入見込みは3兆バーツで、7880億バーツの赤字予算。この結果、期末の公的債務残高は13.79兆バーツとなり、GDP比69.36%に達する見通し。27年度の財政赤字はGDP比3.9%で、今年度の4.4%から縮小する。
内閣が承認した中期財政枠組みにおける2028年度の歳出は3.145兆バーツに設定されており、27年度から1%増となる。財政赤字は6810億バーツを見込み、歳入は3.145兆バーツと想定している。期末時点の公的債務残高は14.4兆バーツ。GDP比69.78%となる見込み。財政赤字はGDP比3.3%で前年度の3.9%から低下する。
エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相は、内閣が承認した中期財政枠組みは、クイックビッグウィン政策の基盤の一つで、財政の安定を重視したものだと述べた。財務省、NESEDC、予算局、中銀で構成する財政政策委員会は、財政規律を強化することで合意しており、例えば従来比較的幅のあった中央予算の比率を歳出の3%以内に抑制するとしている。債務返済予算は歳出の4%以上とし、年度ごとの債務保証や長期契約等の上限は歳出の5%以内とする。
また財政規律法28条に基づく準財政措置の使用に関しては、これまで各機関が個別に要請していた状況を改める。この日の閣議は財政政策委員会、予算局長、財務省次官に対し、明確な手続きを設定するよう指示した。エークニティ氏は2029年度には財政赤字をGDP比3%以下に減らす目標が設定されており、公的債務残高についてもGDP比70%以内という財政の持続可能性枠組みを維持するとした。
歳入増と歳出の削減に関しては、財務省と予算局に、歳入構造と歳出構造の見直し案を作成するよう指示しており、歳入比率はGDP比15.1%以上(現在14.8%)、歳出比率はGDP比18%以下(現在19%)を目標とする。
Kリサーチによると、タイの財政状況は同じ格付け帯(BBB+またはBaa1)に属する他国と比べて弱い。主に、公的債務の急増と、長期間にわたる高水準の財政赤字が理由とされる。今後、タイ経済が年率2%しか成長しない場合、財政赤字はGDP比4%以上が続き、公的債務は2027年までに70%の上限近くに達する可能性がある。
Kリサーチは、政府がGDP比1%相当の追加歳入を確保するため、税制を調整すべきと提案している。(1)付加価値税(VAT)を現在の7%から1ポイント引き上げる、(2)個人所得控除の上限を10%引き下げる、(3)法人税を世界最低税率15%に合わせて調整する、(4)1500バーツ未満の商品に適用されている免税制度を撤廃する、の4点を提言し、長期的な財政の持続性を確保するには、包括的な経済の構造調整と税制改革が不可欠だと強調した。
ナッタポン氏は、国際的な事例として、イタリアが数年で財政赤字をGDP比8%から4%未満に削減し、歳入増、歳出削減、政府支出の効率化を実施した例を紹介した。これに対し、フランスは財政赤字の拡大により格付け見通しの引き下げとその後の格下げを経験し、政府関連機関の資金調達コストが上昇した。
S&Pは見通しを据え置き
S&Pグローバル・レーティングは、ムーディーズ、フィッチとは異なり、タイのソブリン格付けと見通しを維持している。エークニティ副首相兼財務相は、透明性と厳格な財政規律を重視する政府の経済政策に対する信頼を裏付けていると述べた。
S&Pは11月13日、外貨建て長期負債で「BBB+」、短期負債で「A-2」、自国通貨建ての長期で「A-」、短期で「A-2」に格付けし、見通しは「安定的」とした。
政府の財政措置が不確実な外部リスクや国内の政治的不安定のなかで景気の回復を下支えするとの見方から、タイ経済の成長率を2025年に2.3%、2026年に2.0%と予測した。
S&Pは、政府が引き続き東部経済回廊(EEC)や運輸インフラを中心とした戦略的な公共投資を優先していると評価した。公共投資は2024年後半から強まっている。
国営企業や官民連携(PPP)による投資も、インフラ開発の推進と政府の財政負担の軽減において重要な役割を果たすとし、これらの投資の継続がタイの競争力向上につながるとした。
観光面では、今年1〜9月の外国人観光客数が2410万人(前年同期比7.6%減)となったものの、S&Pは2026年も観光が経済成長の主要な原動力であり続けるとの見方を示した。政府は安全対策の強化や旅行者向けサービスの改善など、観光復活に向けた施策を急いでおり、S&Pは信頼感の回復に寄与するとした。
政府債務については、2025年と2026年にGDP比で平均3%増加すると見込まれ、景気の回復を支えるための財政赤字主導の政策が続く。
政府は、世界経済の不透明感による輸出や企業への圧力緩和策、また国内消費刺激を目的とした「コンラクルン・プラス」なども導入している。
S&Pは、タイが経常収支の黒字を安定的に計上している点を高く評価した。2025〜2028年の経常収支はGDP比で平均2.5%の黒字が見込まれ、タイの対外純資産も経常支払い義務の約27%の水準を維持すると見積もった。潤沢な外貨準備を保有しており、対外安定性を下支えしている。
ただし、タイの経済成長が同じ格付け帯の他国と比較してどの水準を維持できるか、1人当たり所得の動向、財政再建の進捗を注視するとした。国内政治の安定性も、政策の継続性に影響する重要な要素として挙げた。
エークニティ副首相は、「今回の格付け評価は、政府の経済政策の方向性に対する信頼を反映している。その基盤は責任、透明性、そして厳格な財政規律にある」と述べた。政府の「クイックビッグウィン」政策は、景気刺激、国民負担の軽減、中小企業支援、家計の貯蓄の増加、将来への投資の5本柱に基づいていると説明した。コンラクルンや観光支出の税控除、公共投資プロジェクトの執行加速、個人債務の再構成策など、多くの施策はすでに実施済みだと強調した。
その他のニュース
[経済ニュース]
商業相がカナダ・韓国と会談=FTA交渉の前進を確認
スターリンク提案却下=外資100%は容認せず
エネ省が地方に政策指示=農村向け太陽光揚水を加速
26年の成長率、IMF予測は1.6%=構造問題と債務が回復を抑制
工業部門信頼感指数=前月比で微減に
[社会ニュース]
タクシン氏に支払い命令=総額176億バーツ
タクシン氏=仮釈放の見通しが不透明に
ポイペト詐欺拠点=タイ人の拷問死相次ぐ
タイ猫を国の愛玩動物に認定=5純血種の保全を促進
[特集]
持続可能な未来のためのビジネスの適応=変化の時代に挑むタイ大手企業
[レポート]
タイのホテル産業
[データ]
BOI投資概況


コメント