国境紛争がもたらす影響=米国との関税交渉の行方に懸念も
12月7日、タイとカンボジア間で軍事衝突が再発した。アヌティン首相は8日、主権保護のために全力を尽くす姿勢を示し、必要で適切な軍事行動で対応する方針を明らかにした。国境での動きは、懸案の米国との関税交渉に影響を及ぼす可能性をはらむ。これに先立ち、米通商代表部(USTR)はタイに対し、交渉プロセスを一時停止するよう書簡を送付していたが、タイ側は協定交渉の継続意向を示している。
スパチー・スタムパン商業相[=写真]は、今回の衝突が米国との関税交渉にこれ以上の悪影響を与えることはないとの見方を示した。ただし、2025年中の交渉妥結という目標については確信が持てないと述べた。

「今回の出来事はタイに非がなく、タイから始まったものではない。USTRからは一時停止の書簡が届いているが、こちらはあらゆるチャネルで交渉を続ける。すでに継続の意思を伝える書簡を送付しているが、USTRからの回答はまだない」と語った。
スパチー大臣は、妥結に至っていない現状は「タイに柔軟性が残されているとも言える」と指摘した。マレーシアやカンボジアがすでに合意している状況と比較しても、この柔軟性が有利に働く可能性があるとした。「米国がタイに交渉停止を求めた要因としては、大統領令に関する最高裁の判断を待っている可能性もある」と述べ、今回の衝突とは無関係である可能性も示唆した。
一方、タイとカンボジアの国境紛争の貿易への影響については、すでにカンボジアとの国境貿易額が今年6月比で99.99%減少している状況から、これ以上悪化する余地はないとの見解を示した。ただし国境沿いの事業者の支援は急務で、商業省は国境7県の生産者の商品を年末年始イベントで販売する支援を行なうほか、各地で開催する「トンファー・フェア」などの販売促進活動に参加できる機会も提供していく方針だ。カンボジアに投資する事業者への支援については、財務省が運転資金融資や機械・設備の非課税移転などの措置を準備している。
タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ・ティアンヌクン会長は、USTRが交渉停止を通知したことは「米国が国境紛争を交渉条件として保持している表れ」として、商業大臣とは異なる見解を示した。タイは米国に対し明確な証拠を提示し、理解を得る必要があるとした。
「国境沿いのいくつかの県では何十万人もが避難を強いられ、国境経済への影響はさらに拡大した。国境貿易額は0.5%にまで減少し、貿易の99.5%が失われた。事実上の恒久的な国境閉鎖に等しく、損失は1日あたり5億バーツに達する」と述べ、早期の事態収拾を政府に求めた。
タイ商業会議所(TCC)のポット・アラムワタナノン会頭は声明を発表し、「民間部門はいかなる形態の暴力、対立、戦争も支持しないが、タイの主権が侵害され、国際協定が繰り返し破られた場合、タイは主権と国民の安全を守る権利がある」と強調した。国境閉鎖が半年以上続き、貿易と投資に影響が出て投資家の信頼を損ねているが、「安全保障と経済は切り離して考えるべきで、国家と国民の安全が最優先される」との立場を示した。そのうえで、政府が速やかかつ徹底した問題解決を進め、必要な場合には追加措置を検討することを支持するとした。また、今回の事態がタイ発ではなく、カンボジアによる協定違反と主権侵害の結果であることを国際社会に理路整然と説明し、理解を求める必要性を強調した。
「秩序と平和、国の安全保障につながり、タイと国民の長期的利益になる形で早期に事態が収束することを望む」と声明を結んだ。
キアットナーキン・パトラ・フィナンシャル・グループ(KKP)の主任エコノミスト、ピパット・ルアンナルミットチャイ氏は、国境紛争の直接的影響はすでに小さいと分析した。カンボジア向け輸出は総輸出の2~3%にすぎず、その7割はすでに閉鎖状態の国境貿易に依存していたためだ。ただし今回の軍事衝突による直接の損失は現時点で評価が難しく、間接的影響は無視できないと述べた。
「南部洪水に加え、今回の紛争が観光シーズンに発生したことで、二重の打撃となる可能性がある。長期的なタイへの投資を鈍らせる要因にもなり得る」と指摘した。
「国境紛争と洪水の2つの問題には数値化しにくい面があり、洪水の影響はGDPの0.1~0.2%との推計もあるが、経済の直接的影響が小さくても、観光の雰囲気や国への信頼に間接的影響をもたらす可能性がある」と述べ、情勢の推移を注視する必要性を強調した。
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