OECDがタイ経済に改革促す=高債務・低成長の構造問題が焦点
OECDと国家経済社会開発評議会(NESDC)は「OECDエコノミック・サーベイ・タイランド2025」を発表した。タイがOECD加盟候補国として正式な地位を得て以来、初の報告書で、アヌティン首相兼内相に手渡された[=写真]。

OECDのフランティシェク・ルジカ事務次長は、過去5年間のタイ経済は生産性の伸びが鈍化しており、改革の必要性を示していると指摘した。タイ経済は今年2.0%成長した後、2026年には1.5%に減速し、2027年には米関税の影響が和らぎ、国内消費と輸出が持ち直すことで2.6%に回復するとの見通しを示した。インフレ率は引き続きタイ中央銀行の目標レンジ(1~3%)を下回る見込みで、必要に応じて緩和的な金融政策の余地があるとした。
最も懸念されるリスクは民間部門の高水準の債務で、家計と企業の債務を合わせるとGDPの約160%に達する。マレーシアの約157%に近く、インドネシア(40%)など周辺国を大きく上回る。
ルジカ事務次長は、強固な経済基盤の構築と将来の課題への対応に向け、報告書に4つの主要政策を盛り込んだと説明した。
第1は、財政改革と規制緩和を含む行政改革の推進。公的債務はGDPの65%に達し、債務上限70%に迫っている。急速な高齢化で社会保障費など歳出圧力が増している一方、税収はGDPの17%とOECD平均(34%)を大きく下回る。OECDは、公的年金と財政負担軽減のための定年引き上げ、個人所得税の納税基盤拡大、歳入増加のための付加価値税(VAT)率引き上げなど、抜本的改革を提言した。
第2は、生産性向上と規制改革の加速。労働生産性の伸びが懸念される水準に鈍化しているため、競争を阻害する規制の見直しや、外国直接投資(FDI)に対する制限緩和を促した。
第3は、零細自営業などインフォーマルセクターが全労働人口の63%を占める状況への対応として、教育とスキル向上による持続的対策を求めた。
第4は、気候変動への適応。気候変動による経済損失は年間GDPの平均0.7%に相当すると推計され、早期警報・災害管理システムの整備、気候変動に強いインフラ投資、エネルギー部門における脱炭素化の加速が必要。
NESDCのダヌチャー・ピチャヤナン事務局長によれば、第14次国家経済社会開発計画(2028~32年)の策定が進んでおり、産業構造改革(潜在力の高いターゲット産業育成)、法整備・ガバナンス改善(デジタル政府への移行促進)、人的資本開発(教育の質向上と生涯学習促進)、天然資源・環境管理(気候リスク対応)、イノベーション・技術促進(R&D重視と中小企業支援)の5つの戦略枠組みを盛り込む予定だ。
一方、キアットナーキン・パトラ・ファイナンシャル・グループ(KKP)の主任エコノミスト、ピパット・ルアンナルミットチャイ氏は、26年のタイ経済は引き続き停滞し、脆弱な状態が続くと分析した。成長率は1.6%にとどまり、今年の予測2%を下回り、潜在成長率をも下回る水準に落ち込むとした。今年上半期の高い比較ベースの影響で、今年第4四半期から2026年初めにかけて成長率が1%近くまで鈍化するとの見方も示した。回復の本格化は来年後半と想定し、通年成長率は1.5~2%、2027年にようやく2%前後に戻るとの予測を示した。
過去の3~7%成長と比べて水準が低いだけでなく、周辺国すべてに遅れを取っている点が懸念されるとした。シンガポールは過去3年間で平均4%成長し、マレーシア(一人当たり所得1万4000㌦)も同水準を維持。かつてタイより遅れていたベトナム、インドネシア、フィリピンも力強く成長し、近い将来タイを追い越す可能性があると指摘した。
「タイはアセアン第2の経済規模だが、構造問題を放置すれば数年で5位に転落しかねない。周辺国がすでにコロナ前を上回る回復を達成する中、タイは同水準にとどまり、回復力が地域と比べ明らかに弱い」と警鐘を鳴らした。
さらに、製造業、観光、金融、人口といった主要エンジンが同時に問題を抱えている点も重視すべきとした。製造業と輸出は弱含み、国内生産の後退もみられる。農業からの労働移動が未完了のまま、工業部門の役割が早いペースで縮小しており、生産性向上や技術適応も十分ではない。低コスト国との競争激化も加わり、既存産業の維持と構造調整を急がなければ生産基盤を恒久的に失う可能性を指摘した。
観光ももはや国を支える十分な力にはなり得ない可能性がある。中国人観光客の回復が遅れ、今年は460万人にとどまる見通し(以前は1100万人)。「観光は維持力にすぎず、成長の柱とは言えなくなる」と述べた。
金融部門でも融資が5四半期連続で縮小し、中小企業向け融資は13四半期連続でマイナス。不良債権も増加が続く。
最大の問題は急速な高齢化であり、「人口構造は最も深刻な要因で、国内市場が縮小する」と指摘した。
ピパット氏は、2026年のタイ経済は公的債務が70%に接近し財政赤字が拡大する分、政策余地が限られ、財政・行政改革と汚職削減を並行して進める必要があると結んだ。
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