23年は純利益で業界トップに
住宅開発大手のセンシリ社(SIRI)が、23年10月末に大規模な事業改革の実施を発表した。新たにCEOに就任したアピチャート・チュートラクンの下で改めて事業戦略を策定し、新世代の人材を登用して経営陣を強化し、新たな10年の成長を目指す。
■新組織構造
センシリの取締役会は新たな組織構造を23年11月13日から実施に移すと決定した。プロジェクト開発業務部門は従来どおりウタイ・ウタイセーンスックCOOが率い、法律・行政手続き業務部門も従来通りノッポン・ブンタノーム上級法務顧問が統括する。ウタイは住宅プロジェクトの実施と質の管理、カスタマー・リレーションシップに、ノッポンは法令遵守、行政手続き、開発用地の選択と確保に引き続き責任を持つことになった。その一方でマーケティング業務部門の責任者には新たにシーアムパイ・ラタナマユーンが任命され、CMO(最高営業責任者)としてマーケティング、ブランド・キャンペーン、企業イメージの刷新、外部とのコミュニケーションに責任を持つことになった。戦略部門のヘッドも新たにプミパック・チュラマニーチョーティが任命され、CSO(最高戦略責任者)として戦略・戦術の立案のほか、財務・会計やセールス・マネジメント、人事、情報通信技術など内部業務の管理にも責任を持つことになった。
アピチャートは次のようなコメントを発表した。
「今度の事業改革は将来のニュー・ビジネス・ランドスケープを見据えた重要な転換点の一つとなる。合わせて、各部門の責任者が業務を円滑に指揮するよう促すエンパワーメント的な意味合いもある。当社のDNAである、スピード・トゥー・マーケットの意識を各部門の責任者に根付かせる目的も持っている。慎重に精査されたデータと適切な根拠に立脚して、断固たる決断を下す。タイをリードする不動産開発会社を目指すというビジョンにしたがって、全てのステークホルダーの意見に耳を傾ける。全ての人々がアクセスできる多様な住宅と関連する総合的なサービスを提供し、ステークホルダーに持続的に利益をもたらす。責任者にはそうした意識を常に基本に据えて担当部門の業務を指揮してもらう。今回は従来の2つの業務部門に新たに2つの業務部門を追加し、責任者を2名任命した」
■シーアムパイ
シーアムパイはセンシリに20年以上勤め、本社での住宅不動産開発業務のほか、子会社のプラス・プロパティ社に出向し、アフター・サービス業務にも携わった経験を持っている。特にマーケティング戦術の専門家で、「センシリ・ラグジュアリー・コレクション」シリーズの成功をもたらした人物として社内で知られている。このシリーズの成功はセンシリがスーパー・ラグジュアリー・クラスの住宅不動産市場のリーダーとして認知される効果をもたらし、プロジェクトの質に関する顧客の信頼感を揺るぎないものとした。
高級コンドミニアムの「98ワイヤレス」プロジェクトは、1平米あたりの平均販売価格が国内最高、1平米あたりの平均リセール価格が100万バーツを記録した。高級一戸建て住宅のブランド「BuGaan」は、価値ある生活体験を追求する若い富裕層の人気が高い。こうした実績からシーアムパイはハードワークを厭わず、常に自らプロジェクト・サイトに出向いて工事の状況をチェックする新世代の経営者の代表として評価され、センシリのマーケティング業務全般を監督・指揮するよう託された。取締役会は、センシリの立場を堅固なものとし、同業他社とのさらなる差別化を図ることで顧客のトップ・オブ・マインド・ブランドとなることを期待している。
■プミパック
プミパックはセンシリに18年間勤め、住宅不動産開発で重要な役割を果たしてきた。加えて戦術面でセンシリの成長に貢献し、国内外の顧客から広く受け入れられる存在とした。「センシリHRトランスフォーメーション」戦術の策定と従業員の若返り計画の立案に参加し、新世代の人材が最も多く入社する不動産会社として広く認められる結果をもたらした。プラス・プロパティの社長を務めた時にプロパティ・マネジメントに関する戦術を策定し、同業他社とは異なる大きな強みを持つ契機をもたらした。プミパックは様々な業務に携わった経験を持っており、各業務に対する理解が最も深い経営者の1人と見られている。特に高層住宅の開発と外国人に対するセールス業務管理の経験が豊富で、外国人への売上高が最高を記録した時期に重なる。戦略部門の責任者に就任する前は、情報通信部門の管理に従事していた。こうした経歴と会社の基本方針を踏まえた戦略策定への期待から、取締役会は内部管理全般に責任を持たせるとともに、センシリの持続的な成長目標に向けた重要な戦略の策定を託すことにした。
■過去最高の業績
年初に発表した23年のビジネス・ダイレクションに基づき、センシリは社会と環境保全を重視しながら、さらなる成長に向けてプロジェクト開発に推進した。目標は過去最高のプレセールス550億バーツ、収入400億バーツと定めた。業績は純利益が1~9月で22年通年を上回り、23年通年での純利益は不動産業界トップになったと推定されている。第4四半期には住宅購入のハイシーズン入りを見越して多くの新規プロジェクトの実施が発表され、各セグメントの需要拡大に対応した。加えて第4四半期は不動産購入刺激措置が23年末で期限切れを迎える直前の時期だったこともあり、業績は過去最高を記録した。
ウィチャーン・ウィリヤプーシットCFO(最高財務責任者)によれば、23年1~9月期の純利益は47億6000万バーツで前年同期比91%増となった。第3四半期の純利益は15億5700万バーツ、前年同期比23%増だった。東急を中心とする提携先との合弁事業から得られる利益が増えた。このため将来に向けてさらに多くの提携先との合弁を通じたプロジェクト開発を推進していく方針を定めた。その結果、1~9月期の純利益は前年1年間の純利益42億8000万バーツを上回る過去最高を記録。合計収入は280億4700万バーツ、前年同期比28%増となった。第3四半期の合計収入は95億5400万バーツ、8%増だった。低層・高層住宅の新規プロジェクトの発表が続いたのが増収の主因だ。とりわけ得意分野である高級一戸建て住宅の実施が貢献した。
「通年の収入目標400億バーツに対し、1~9月ですでに280億バーツを超える収入を得た。残る120億バーツも、一戸建てとコンドミニアム・プロジェクトのバックログ(収入の計上待ち物件が)が多くあった上、レディ・トゥー・ムーブ・プロジェクトの新規プロジェクトも実施されたことから、達成は確実視している。23年第4四半期は年末に向けて住宅需要が高まりを見せるシーズンである上、顧客は不動産市場刺激措置の期限があったことから、急ぎ購入を決断していた。当社も数々のキャンペーンを実施し、プレセールスに刺激を与えた。全てのセグメントを通じ、タイ人、外国人を問わず顧客の住宅需要に対応するため、22件、合計資産価値360億バーツの新規プロジェクトの実施を発表した。うち低層住宅プロジェクトが14件、245億バーツ、コンドミニアム・プロジェクトが8件、116億バーツだった。その結果、過去39年で最高の業績を上げることができたと見ている」
■沿革
センシリは、84年9月28日にチュートラクン一族が登録資本金100万バーツでセーンサラーン・ホールディング社を設立したのを出発点としている。4年以上かけて戦略を策定した後にセーンサラーンは88年に不動産事業に進出し、まずフアヒンで当時の資産価値2億5000万バーツのコンドミニアム・プロジェクトを実施した。これが成功を収めたことで、セーンサラーンは高級コンドミニアムのデベロッパーとしての地位を得た。このプロジェクトを指揮したのが、カシコン銀行のオーナー一族のラムサム家出身の母親を持つアピチャート・チュートラクンと、チュートラクン一族出身の母親を持つセーター・タウィーシン(現首相)だった。93年には、都心のラチャダムリ通りのソイ・マハートレックルアンで6億1500万バーツを投じて高級コンドミニアム「バーン・センシリ」を開発。その翌年の94年にラムサム家がセーンサラーンの登録資本金の50%に相当する株式を取得し、社名を現在のセンシリに変更した。
95年には公開会社化し、96年7月にタイ証券取引所(SET)に上場。合わせてプラス・プロパティを設立し、センシリのプロジェクトのアフター・サービスと売買仲介事業に進出した。しかし97年にタイ発のアジア経済危機が発生したことで、センシリも大規模なリストラを断行せざるを得なくなった。実施中の全てのプロジェクトを売却して、膨張した債務の返済に充てる決断をし、数年かけて債務を返済した。00年になって不動産会社の中では比較的早く債務返済の目途が立つようになると、センシリは大規模な事業拡張計画を立てた。ただし重点はそれまでの都心部での高層コンドミニアムの開発から低層住宅、すなわち分譲住宅団地の開発へとシフトし、次々とプロジェクトを実施した。01年には、最初の戸建て住宅プロジェクト「ナラシリ・ワチャラポン」の実施を発表した。02~03年には都心のホテルやサービス・アパート、賃貸商業ビルといった事業への投資も開始した。直接投資のほか、事業買収、パートナーとの合弁といった形態で事業を拡張していった。
■セーター
10年にセーターが社長を務めていた持ち株会社がセンシリの株式を外国ファンドから買収し、その結果、この持ち株会社のSIRI株の持ち株比率が2.52%から24.10%に上昇した。これにともない、セーターのグループがセンシリの筆頭株主となった。
13年には中級のリゾート・ホテルのブランド「ESCAPE」を立ち上げ、フアヒンとカオヤイでプロジェクトを実施した。14年にはBTSグループ・ホールディング社と合弁企業を設立し、バンコクの電車沿線でのコンドミニアム開発を推進するようになった。17年には東急との合弁会社を設立し、バンコクで高級コンドミニアムや分譲住宅の開発を実施した。
サイアム商業銀行とは共同でベンチャー・キャピタルのシリ・ベンチャー社を設立した。登録資本金は1億バーツ、出資比率はセンシリ側が90%で、不動産関連のイノベーション開発を手掛ける企業に投資する。19年には米国の中堅ホテル・チェーン運営会社スタンダード・インタナショナルの株式を60%超保有する筆頭株主となり、収入源の多様化を進めた。21年にはプロスペクト・デベロップメント社との合弁でBFTZバンパコン社を設立し、賃貸用倉庫・工場の開発、物流関連インフラ事業にも進出した。加えてXスプリング・キャピタル社(XPG)に資本参加し、共同でデジタル通貨を開発して自社開発の住宅の購入やコンドミニアムなどの共益費の支払いにも利用できるようにした。22年10月には東急と不動産開発事業に従事する新たな合弁会社を設立したが、その後に東急側の持ち株を買収して子会社化した。
23年3月1日に、当時のセーター社長兼CEOは、22年にセンシリの純利益が前年比112%増を記録し不動産業界で最高だったと述べ、自らの経営手腕を誇った。そしてこれを最後に政界入りし、4月3日付けでセンシリと子会社、関連会社のポジションから退き、プアタイ党の首相候補の1人として5月14日に投票が行なわれたタイの総選挙に臨み、付与曲折を経て8月に首相に就任した。
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