2025年5月16日(金)号

セータプット中銀総裁=包括策ではなく業種別対応を

 タイ中央銀行のセータプット・スティワートナルプット総裁[=写真]は5月9日、「第1/2568回Meet the Press」と題した記者会見で、現在の経済状況は極めて不確実性が高く、米国の相互関税措置や他の不透明な要因があると指摘し、現在の経済情勢は、まるでこれから嵐が来るかのような状況だと述べた。終息までに時間がかかり、すぐには解決しないとみていることを明らかにした。


 米国が関税措置の発動を90日延期しても、すべてが明確に解決するとは考えにくい。交渉相手国が多いため、交渉は容易ではなく、たとえ交渉が行なわれても決着に至らない可能性がある。総裁は、これが嵐がより深刻になり、解決に長い時間がかかるとみている理由の一つだと述べた。
 タイ経済については、広がりのあるV字型成長の可能性があるとみている。政策金利を2会合連続で引き下げたことは、来たる嵐に対処するのに十分と考えているとした。一方で、状況が予想と異なれば、適切に政策を調整する用意があることも付け加えている。
 総裁は、今の状況は危機とはいえないと述べている。経済成長率は低下する可能性があるもののマイナスにはなっていない。新型コロナの2020年、リーマンショックの2008年、アジア通貨危機の1997年のような状況ではないと強調した。
 今後は嵐が来るとみているが、現時点では経済指標に明確な影響はまだ出ていない。これは、貿易相手国が輸入を急いだことが大きい。影響の兆しは2025年第3四半期ごろから出てくると予測され、関税が上がることに加え、投資の停滞といった不確実性がみられるようになるとした。ただし、最終的に嵐がタイを直撃するかは、現在行なわれているタイと米国、また他国との交渉の行方次第で、影響が明確に出るのは第4四半期になるとしている。第4四半期は、タイ経済の底となる可能性があるが、それより早くはならないとした。また今回の嵐は長引くとみており、適応にも1年以上かかるとしている。
 総裁は、金融・財政政策の実弾は限られているため、慎重に使い、効果的かつ有益なものとしなければならないと指摘する。消費刺激策は効果が限定的で、タイ国内よりも海外製品を刺激する可能性があるため、規制の改革や投資の障害除去が有効だとしている。
 特にデジタルマネー給付政策に関しては、中銀の見解は変わっておらず、この種の経済刺激策は費用対効果をよく見極める必要があるとしている。政府も見直す方針を示しており、総裁は政府が中銀の意見を受け入れて、このプロジェクトの適切性を再検討するとしたことを感謝していると述べた。現在の状況は変化しており、トランプ関税や外国製品の流入も踏まえて見直しは妥当だと強調した。
 今回の嵐で影響を受けるのは、米国の関税に関連する輸出業者で、電機、加工食品、機械分野などが主な対象。加えて、輸入品の流入が懸念される。今後のタイの対応としては、単なる消費刺激策を講じるのではなく、金融・財政政策を通じて、影響を受ける電機、自動車部品、加工食品、機械といった製造業など特定のセクターに適した措置を取る必要がある。対応を怠れば、経済成長率は低くなる可能性があるが、これを機に構造改革を進めれば、かえって過去よりも高い成長も可能になるとした。
 米国以外の市場の拡大や、サービス業の付加価値向上などが必要で、タイはサービス業で他国より強みがあると述べている。
 影響緩和のための措置は、業種ごとの違いを踏まえ、包括的な政策を避けるべきだと指摘した。米国向け輸出企業の中でも、電機分野は外資が多く、他国に移転する可能性もある。一方、加工食品分野は主に国内の1万2千社超の中小企業が担い、農業や地域経済とも強く結びついている。雇用は30万人にのぼり、工場移転が困難なため、対応策も異なるべきだとした。
 特に懸念されるのは、外国の製品が大量にタイに流入することで、多様な業種に影響する。繊維・衣料業界は40万人を雇用している。影響を和らげるには、アンチダンピングやセーフガード、製品基準の厳格な運用が必要だとした。
 金融市場は高い変動性があり、中銀も継続的に監視している。金融面の対策として債務リストラが活用可能で、必要とあれば追加の措置も実施する用意があるとした。ただし、低利融資は、広く行なうべきではなく、対象を絞って適切に対応するべきだと述べている。コロナ期に5000億バーツのソフトローンを実行したが、包括的な方法で効果が薄かったこと、今回はまだ危機とはいえないことからも、同じ手法は使えないとした。
 観光業への対応については、外客数の増加ではなく、付加価値の創出が必要で、タイは観光基盤が整っていることからも付加価値の向上は可能だとしている。
 セータプット総裁はムーディーズの見解でも、慎重なマクロ経済・金融政策、法令順守の重要性が指摘されていることを指摘し、カジノはこの点でリスクがあり、タイのイメージに影を落とす可能性があると述べた。「エンターテインメント・コンプレックス」と「ウェルネス」のどちらかを選ぶなら、経済効果が高く、リスクの少ない「ウェルネス」が望ましいと述べている。
 総裁は、今回のショックは嵐のようで、船はこれまで通りの速度では進めないと述べ、今の政策課題は、刺激ではなく、衝撃を和らげて影響を軽減し、早期の適応を促すことにあることを強調。包括的な対策は適さず、影響の違いを踏まえた対応が重要だと訴えた。最終的に嵐が過ぎた後に重要なのは、変化への適応で、それがなければ、現在2%台後半にある国の潜在力はさらに低下しかねないと警告した。

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