エッソ・タイの製油所/給油所を買収
石油元売り2位のバンチャーク・コーポレーション(BCP)が24年の投資計画を発表した。各事業部門の投資を通じ、連結ベースでの販売・サービス収入を過去最高の3600億バーツだった前年からさらに増やし、5000億バーツを目指す。エッソ(タイランド)社の買収により、23年の業績はタイの業界の伸びを上回って飛躍的な向上を遂げた。しかしそれに満足することなく、7年間で1500億バーツの投資予算をもって、低炭素社会の中で持続的に成長するエネルギー会社への進化を目指している。
■投資予算500億バーツ
BCPのチャイワット・コーワウィサーラット社長兼CEOはこう語っている。
「24年は前年を大幅に上回る収入が期待できる。子会社となったバンチャーク・シラチャー社(旧エッソ・タイ)からの収入を通年にわたり計上できる。
23年は当社の事業活動が大きな成果を収めた年だった。全ての事業部門が業界の平均以上の成長となった。重要な事業取引の進展もあった。各種石油製品の販売額は、タイ全体では伸びが1%増だったが、当社は26%増と市場を大きく上回った。
エネルギーの3つの課題(エネルギー安全保障の確保、安価でクリーンなエネルギーへの公平なアクセス、持続可能な地球環境の実現)に対応するために、エネルギー会社にはバランスのとれた成長が求められている。そこで系列各社のシナジー効果、生産性向上とコスト削減を通じ最高の経済価値を生み出すよう注力する。プラットフォーム・フォー・グロースの開発に取り組むことで、持続可能な成長、競争力強化、公正な価格での消費者によるエネルギーへのアクセスの促進、ひいてはタイ社会の堅固化と持続化を実現する。
24年の重要な投資計画としては、500億バーツの予算を用いて様々な分野に投資する。天然資源関連に170億バーツ、クリーン・エネルギーに140億バーツ、製油/石油取引に90億バーツ、バンチャーク・シラチャー・リファイナリー社(BSRC)に17億バーツ、新ビジネスに50億バーツ、石油製品の市場開拓に17億バーツ、バイオ・ベース製品に8億バーツを投じる」
■製油/石油取引部門
製油所2か所で合計1日あたり26万6000バレルの原油の精製を目標とする(前年の1日あたり15万5000バレルから72%増)。うちバンチャーク・プラカノン製油所は良質の石油製品を生産できる。生産性向上に向けた改修も継続的に実施され、製油コストは1バレルあたり約1.3㌦と低い。精製工程でのエネルギー使用も効率的で、エネルギー使用率を25%以内に抑える目標が設定されている。長期的には、2年ごとに行なわれている操業を停止してのメンテナンス期間を4年ごとに拡大する計画を立てた。二酸化炭素回収の研究にも取り組む。化石燃料並みの第2世代バイオ燃料を生産するバイオ・リファイナリーに進化させるための研究も実施する。最初の生産は持続可能な航空燃料(SAF)を予定している。
バンチャーク・プラカノン製油所における取り組みの成果は、バンチャーク・シラチャー製油所にも応用される。24年の目標は、前年の1日あたり15万5000バレルの約72%増に相当する1日あたり26万6000バレルの原油の精製に定めた(シラチャーが1日あたり15万5000バレル、プラカノンが1日あたり11万1000バレル)。これが達成できれば、製油プラントの稼働率が過去最高になる。
23年10月には2製油所の生産性向上とコスト削減を目的として、新たに子会社のリファイナリー・オプチマイゼーション&シナジー・エンタープライズ社(ROSE)を設立した。
■マーケティング部門
系列のサービス・ステーション(SS)が全ての年齢層のユーザーのニーズに応えるよう、各種の商品とサービスの提供に努める。SSの数は23年末時点の2221か所を30年には2500か所に増やす目標が定められた。「プレミアム97」と「プレミアム・ディーゼル」という高品質の石油精製品の販売に注力する。ノンオイル・ビジネスでは、カフェ店の「インタニン」を年140店のペースで増やし、30年には2000店とする。合わせて各種商品も取り扱う。SS内のコンビニや提携店舗の数も増やし、カバー範囲を拡大する。潤滑油「FURiO」の市場シェア拡大にも取り組む。
エッソ・タイの買収により、エッソ・タイ系列のSSをバンチャーク・ブランドに統合するにあたり、円滑な統合のためにロゴ・マークを一新し、会社のカラーの緑を前面に押し出したカラーリングとした。「全ての世代のユーザーのニーズに応えるグリーン・イノベーティブな目的地」という理念を、新たなロゴ・マークとカラーリングに反映させた。SSの統合と外観の変更は24年6月末の完了を目指す。
■発電部門
子会社のBCPG社はクリーン・エネルギーを用いた発電事業をコア・ビジネスとする。24年は発電容量を倍増させる目標が定められた。合わせて、EVやクリーン・エネルギーの使用を志向する工場または大規模工業団地用のエネルギー・ストレージ事業、スマート・エネルギー管理運用事業も推進する。
エタノール生産のコンケン・シュガー・インダストリー社との合弁会社であるBBGI社は、24年にエタノール販売量を前年比40%増やし、5億6000万㍑とする目標を定めた。提携先のネットワークの拡大を通じ、コア・ビジネスの成長を加速させるほか、高付加価値のバイオ製品の生産にも取り組み、BCPと共同でSAFを生産する。
米国のインド系企業であるファームボックス・バイオ社との共同投資により建設されているハイテク・バイオ工場では、エンザイムの生産からスタートし、各種バイオ製品への生産へと事業の拡張を図る。
■天然資源・新事業開発部門
事業拡張を通じエネルギー安全保障の確保を目指す。石油探査・生産事業は、24年に資本参加しているノルウェーの石油探査・生産会社オケア(OKEA)が日産4万バレルの原油生産能力を持つよう、74%増の成長目標を定めた。30年までに原油生産能力を日産10万バレルに引き上げる。さらには他の大陸でも新たな天然資源開発事業に参入する機会を追求する。
BCPは30年までを範囲とする長期的な戦略計画も策定しているが、将来のニーズに応える新しい事業への投資分散の機会を追求することで、事業のさらなる堅固化を図る新事業の開発計画が含まれている。うち天然ガス事業は、エネルギー面の転換期の橋渡し的なエネルギー事業に位置付けられている。ほかにはEV自動二輪車ハイヤーパーチェス事業やEV自動二輪車用バッテリー・サービス(バッテリー・アズ・ア・サービス/BaaS)のプラットフォーム事業がある。これとは別に、17年に開設されたバンチャーク・イニシアチブ&イノベーション・センター(BiiC)は、気候変動への対応技術や持続的なエネルギー、シンバイオ技術などの研究に注力している。
■BCPRとBCPG
チャイワットは、3~5年後にはエネルギー源の確保が最優先に取り組まなければならない課題になると見ている。輸入化石燃料に多くを依存するタイはエネルギー安全保障の先行きが不明瞭だ。エネルギー源のバランスが重要になる。一方でシラチャー製油所の開発に取り組み、25年半ばには円滑に移行期を迎えられる態勢を整える。
「50年のネットゼロの目標は維持する一方で、カーボン・ニュートラルに向けた円滑な移行を実現するために、使用済みの油を原料とするSAFの生産も進める」
石油/天然ガスの資源探査・生産子会社であるBCPR社のコームット・マニーチャーイ社長によれば、BCPRが資本参加するノルウェーのオケアは現在4つの鉱区で石油を生産している。生産能力は合わせて日産1万6000~2万3000バレルだが、24年中に日産4万バレルに引き上げられる。BCPRは次のステップとして、オケアの経験と技術をアセアン域内の天然資源探査・生産に応用する。本社の目標に沿って、30年には原油換算で日産10万バレル分を確保する態勢を整える。
「タイはさらに多くのエネルギー源を確保しなければならない。電力料金が上昇したのも国内の天然ガス鉱区からの供給量が減ったためで、輸入を増やさざるを得なかった。ロシア・ウクライナ戦争も、状況次第ではエネルギー危機の再燃につながりかねない。イスラエルとハマスの戦闘も影響を及ぼしている。エネルギー安全保障の確保には川上事業への投資が重要となる」
BCPGのニワット・アディレーク社長兼CEOによれば、発電容量は24年中に3700ギガ㍗、来年にはさらに2倍に引き上げられ、30年までに9400ギガ㍗に増やす目標が設定されている。BCPGは現在7か国で投資を行ない、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力)や他のエネルギーを用いた発電を行なっている。また2000か所を超えるBCP系列のSSに太陽光パネルの設置を進めている。加えて、EV用バッテリー開発に投資する機会も探っている。年6000㌧ンの生産能力を持つカナダのリチウム鉱山の開発会社リチウム・アメリカ・コーポレーション(LAC)の株式は売却したが、BCPは引き続き同鉱山からリチウム鉱を輸入する権利を得ており、BCPGが輸入を担当することになった。そこで港湾施設のインフラ投資の準備にとりかかる。BCPGはこのほか、アンモニアや水素の生成に向けた投資計画も立てている。
■業績
23年第3四半期には連結ベースで過去最高となる110億1100万バーツの利益を記録した。販売・サービス収入は945億2800万バーツ、前年同期比26%増だった。オイル事業が原油と石油製品の価格上昇の恩恵を受けた。この四半期の製油マージンがシンガポール市場の1バレルあたり9.60㌦を上回る1バレルあたり14.67㌦に増えた。加えて23年9月1日付けでエッソ・タイの収入と利益の76.34%を計上できるようになった。特別益の73億8900万バーツの計上もあった。
23年の9か月間の利益は142億1000万バーツで、前年同期の121億200万バーツから17%増えた。販売・サービス収入は合計で2429億3100万バーツ、7%増だった。23年9月30日時点の手持ちの現金・準通貨は317億9800万バーツ。資産額は合計3288億5700万バーツで、22年12月31日時点から865億1300万バーツ増。負債額は合計2224億7000万バーツで、635億400万バーツ増となった。
■コスモ石油との提携
24年1月10日に、BCPはバンチャーク・プラカノン製油所敷地内の8.9ライの土地にSAF生産プラントを建設する定礎式を挙行した。タイ初となるSAF生産プラントは、家庭や企業から提供される使用済み食用油を原料とする。25年第1四半期には日産20万㍑の生産能力をもって操業を開始する予定で、27年には生産能力を日産100万㍑に引き上げる。これに先駆けBCPは22年9月に、BBGI、タナチョーク・オイル・ライト社と合弁でSAF事業を手掛けるBSGF社を設立する覚書を締結していた。プラントの建設費用は約100億バーツと見込まれている。すでにSAFを供給する合意書がコスモ石油との間で締結されており、日産100万㍑の30%をコスモ石油を通じて日本に供給する。ほかに、コスモ石油とは低炭素水素の活用と輸送、二酸化炭素の回収・貯留・有効利用(CCUS)、潤滑油基材の研究も共同で実施する。
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