アセアン連結戦略を発表
タイの商業銀行の中で、資産量1位であるバンコク銀行(BBL)が、24年初めに「コネクティング・アセアン」と称する戦略を発表した。アセアン域内の事業網の連結を強化し、政府の政策に応え、外国からの直接投資(FDI)の誘致を支援し、タイ経済の繁栄促進に寄与する。合わせて、タイ企業がこの地域で持続的な成長の機会にアクセスできるようにする。
■コネクティング・アセアン
チャートシリ・ソーポンパニット頭取は年頭会見で次のように述べた。
「長期的な経済刺激に向けた政府のFDI誘致政策を踏まえ、このコネクティング・アセアン戦略を策定した。同時にイノベーション開発やバイオ、サーキュラー、グリーンのBCG経済、東部経済回廊(EEC)の開発の促進に向けた政策の支援にも取り組み、タイが東南アジアの製造業と物流分野におけるスマート・センターになれるよう力を貸すつもりだ。
喜ばしいことに、電気自動車(EV)工業を中心とするタイ国内の未来産業に投資する外国企業の顧客が増え始めている。とりわけ比亜迪(BYD)、長城汽車(GWM)、長安汽車といったEVメーカーがEECを新たな生産拠点に定めて投資しており、国内の自動車部品工業のサプライチェーンにまで好影響が及びつつある。こうした投資は、新たな雇用の創出に加え、新世代の起業家を生み出す刺激ともなるだろう。
過去10年にわたり、アセアン地域の貿易と国境越えの投資に対する支援を重要な戦略の一つとして取り組んできた。地政学的な対立やサプライチェーンの混乱、気候変動その他の問題から世界経済が減速する中で、アセアンは多くの工業が力強い成長を続けており、市場としての魅力も高まっている。そこでアセアンの中心に位置するタイの地理的優位性を生かし、域内における当行の事業網の連結を強化する戦術を推進することで、アジア、ひいては世界中の他の地域で活動する事業者や投資家とアセアンを結びつける重要な架け橋となり、タイ経済の成長繁栄を促進するという戦略を定めた」
アセアンは、世界の他の地域と比較して事業者にとって最も開かれたビジネス・チャンスの地であり、その魅力は多岐にわたる。市場的には人口が合計で6億5000万人を超える規模を持ち、人口の多くが若年層で、文化的な多様性をともなって発展しつつある。天然・自然資源にも恵まれている。しかもインドと中国という世界の2大人口超大国と接しており、海運貨物を太平洋側とインド洋側の両方に輸送するのにも都合が良い。経済成長を遂げつつあり、30年には世界4位の経済規模を持つ地域に成長すると見込まれている。
「当行は地域レベルの市場拡大を目指す事業者への支援態勢が最も整ったタイの商銀と断言できる。地域レベル、さらには世界全体に事業網を張り巡らせているからで、特に東南アジア諸国に関しては各国で事業を展開する上で必要な詳細なデータ・情報を有している。加えて、80年にわたり各国のビジネス・パートナーとも良好な関係を築いてきた」
同行の強みは、アセアン10か国中9か国をカバーする支店網を構築していることに加え、子会社がそれぞれの国で活動を行なっているところにある。アセアン域外では、香港、台湾、日本、英国、米国に支店を開設している。こうしたネットワークをもって外国での事業展開を志向する顧客に総合的な金融サービスを提供することができる上、アセアン地域全体で事業提携に向けた仲介を行なうことも可能である。
80年にわたり、各層の顧客が潜在力を十分発揮して目標を達成し、成長繁栄するよう支援してきた。個人顧客に対しては財務面での安定性を、事業者顧客に対しては競争力の強化と持続的な成長を重視し、支援の柱としてきた。とりわけ中小企業(SME)に対しては、事業活動に必要な金融サービスに加えてデータ・情報や専門知識も提供し、事業提携に向けたアドバイスや関係作りの支援も行ない、企業基盤の強化を促した。結果、アセアンやアジアの国/地域を中心に、外国へと事業を拡張し現地に進出した企業も数多い。
■環境と気候変動への対応
チャートシリは続けて「脆弱な一部の顧客の支援も重視している」と述べ、『ア・フレンド…バイ・ユアサイド』のスローガンに変更はないと強調した。『プアン・クー・キット・ミット・クー・バーン(共に考える友達、家を共にする友人)』の立場から、バンコク銀行はコロナ禍の傷がなかなか癒えない中小企業顧客や個人顧客に対する追加援助措置も行なっている。
タイ中央銀行は国内で活動する商銀に対し、環境と気候変動を重視する金融機関の事業活動基準にしたがった実践を24年から始めるよう指導している。タイランド・グリーン・タクソノミーに沿った融資データの収集と報告、自行の事業活動により直接的に排出される温室効果ガスと与信、投資を通じて間接的に排出される温室効果ガスの排出量の算出とデータの報告が求められるようになる。さらには気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のアドバイスにしたがって環境や気候変動に関する情報を開示し、関連するリスクの低減に向けた取り組みを管理監督し、課題の克服に向けた対応を進めるよう顧客を促す戦術の策定を義務付けられる可能性がある。今後は国内外で環境、社会、ガバナンス(ESG)関連の規則・ルールや措置が次々と定められる見通しにある。その先陣を切って26年にはEUで炭素国境調整メカニズム(CBAM)が発効するため、商銀も顧客も対応を急ぐ必要がある。
このような状況を受けチャートシリはこう語っている。
「事業活動を修正しようとする顧客が効果的な取り組みを推進できるよう支援する。化石エネルギーの使用削減や再生可能エネルギーへの投資拡大を進めることで、厳格化する規則・ルールに対応できる実践力を培ってほしい。合わせて、低炭素ビジネスに資する諸外国の貿易・投資措置からビジネス・チャンスを捉えられるようにするつもりだ」
チャートシリによれば、同行は太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱を全て含むあらゆるクリーン・エネルギーを用いた発電プロジェクトの投資を支援する融資活動を国内外で展開している。さらにはエネルギー・ストレージ・システム、マストランジット、EV輸送機械への投資や、エネルギー使用効率向上に向けた事業構造調整プロジェクトの支援も積極的に行なっている。タイ、アセアンのエネルギー産業向け金融支援のリーダーとして、その活動はオーストラリアや米国、EUにも及び、再生可能エネルギーの生産を目指す顧客に対し、ファイナンシャル・パートナーの立場から支援を行なっている。
「顧客の事業の持続的な成長促進に寄与する重要な鍵となるESGを考慮し、当行は再生可能エネルギー産業を含む事業活動の支援に取り組む。省エネや温室効果ガスの排出削減に向けた事業全体の効率向上まで視野に入れた、ESGのトレンドに見合った生産工程、業務プロセスの修正が重要だと考えている。電力コスト削減を目的とした事業者、個人によるソーラー・パネルの設置に対する金融支援も行なう」
■デジタル化
24年は「コネクティング・アセアン」以外に、経済・社会の変化を念頭に置いた次のような3方面の取り組みも重視する。
1つはデジタル時代への対応で、デジタル・プラットフォームの開発とデジタル・サービス拡充の取り組みを続ける。23年には顧客サービスの効率向上に向けた新しいプラットフォームとして「キャッシュ・マネジメント・サービス」と「トレード・ファイナンス・サービス」のプラットフォームを発表し、合わせてモバイル・バンキング・サービスのプラットフォームを改善し、各種取引の利便性を向上させた。24年はこれらの能力向上に取り組み、サービスの利便性をさらに高める。同時に顧客サービスの完全なデジタル化に向けた移行期と捉え、DXを進めることで顧客の支援をさらに円滑に行なえるようにする。
2つ目はチャイナ・プラス・ワンの支援で、米中の貿易戦争や中国経済の減速、中国での労働コストの上昇がもたらす影響を回避するための大企業による中国からタイを含む東南アジアへの生産拠点の移転、拡大を支援する。
3つ目は持続的な成長に向けたESGの重視で、顧客サービスを金融支援に限定せず、適切なアドバイスと種々の長期的な支援に取り組む。多様な層の国民に対する金融サービスにアクセスする機会の創造、環境と社会に対する責任ある事業活動の推進に注力する。
これらを踏まえ、質のともなった成長、パートナーと共同でのプラットフォーム開発、顧客支援、スマート・バンクへと至る開発、事業構造調整という5項目の事業戦術が定められた。国内外の顧客を支援するためのイノベーションと技術の開発に注力するとともに、自行のデジタル・プラットフォームとパートナーのプラットフォームの連結を進める。
専門性を有する人材開発に取り組み、顧客の財務面の目標達成と財政の強化を支援できるようにする。AIやマシン・ラーニングといった先端的な技術を駆使し、効率的で状況に即応できる事業活動を支援するデータ・システムを開発する。デジタル技術を用いて業務制度の効率向上を進め、作業プロセスを柔軟化するとともに資源の効率的な利用を支援する。また顧客がいつでもどこでも便利に取引を行なえるようにする自動化作業システムの開発を推進する。
■業績
23年の連結ベースでの業績を見ると、純利益は416億3600万バーツで前年比42.1%増だった。正味利息収入が28.0%増えた。最近の金利動向を反映して、正常債権のリターン・レートが上昇した。しかし預金金利の上昇により預金引き受けコストも増加した上に、金融機関債券開発基金(FIDF)への拠出率も23年初めから従来の水準に戻された結果、純利息マージン(NIM)は3.02%となった。正味手数料・サービス収入はやや減少した。株式市場での売買総額の減少にともなう証券事業の不振の影響を受けた。他方、バンカシュアランスやミューチュアルファンド・サービスの手数料収入、クレジットカード事業の収入は上向いた。営業支出は18.5%増えた。事業活動の拡大にともなうもので、一部は経営効率向上に向けた取り組みの経費が占めた。コスト・インカム・レシオは48.8%に低下した。慎重な経営方針に基づき23年第4四半期に貸倒引当金の積み増しを続けたためで、この四半期の予想信用損失(ECL)は前の四半期よりも18.1%少なく設定され、結果、23年通年のECLは前年と近似した水準である336億6600万バーツとなった。
バンコク銀行は慎重かつ周到に事業活動を行なっており、堅実で持続的な成長に向け財務ポジション、資金流動性、自己資本を適切な水準に維持している。23年12月末時点の貸出残高は2兆6719億6400万バーツで前年末と近似した水準となった。大規模事業顧客向け融資が増えた一方で、中規模事業顧客向け融資と小口融資が減った。不良債権(NPL)比率は2.7%。貸倒引当金の計上を慎重かつ周到に行なう方針から、引当金挿入率は314.7%と堅固な水準にある。23年12月末時点の預金残高は3兆1842億8300万バーツで、前年末からやや減少した。預金/貸出比率は83.9%。自己資本Tier1の比率、株主資本Tier1の比率、連結ベースでのTier1リスク資産比率はそれぞれ順に19.6%、16.1%、15.4%と、いずれもタイ中央銀行が定める最低自己資本比率を上回る水準にある。
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