2024年10月9日(水)号

信用収縮が一段と鮮明に=商銀貸出残高が減少見通し

 商業銀行が融資条件を厳格化し、貸出残高が減少する信用収縮(クレジット・クランチ)が進行している。特にリテール向けは自動車ローンや住宅ローンの拒否率が上昇し、中小企業向けの融資は残高の減少傾向が続いている。大企業向けのホールセールも民間投資の減少を背景に伸び悩む。景気は回復軌道にあるが、銀行が融資に慎重になっていることが下押し要因となり、回復のペースは上がりそうにない。
 タイ中央銀行によれば、6月末時点の商業銀行の貸出残高は前年同期比で0.3%減。大企業向け融資が横ばいとなった一方、中小企業向けの融資は引き続き減少した。信用リスクの高まりを受け、家計向けの貸付も伸びが鈍化している。
 不良債権(NPL、ステージ3)は5408億バーツへと微増した。家計向け貸付の焦げ付きが目立ち、不良債権比率は2.84%となった。要注意債権(ステージ2)の貸出残高に対する比率は6.50%で、3か月前から上昇している。
 カシコン銀行(Kバンク)のカティヤー・イントラウィチャイCEOは同行が当初設定した3~5%増という今年の貸出目標の達成は困難で、むしろマイナスになる可能性があることを認めている。投資が減速しているため顧客の融資申請が低迷していることが理由と説明している。不良債権については貸出残高に占める比率を経営目標とする3.25%未満に維持できるとの見通しを示した。ただしポートフォリオの中には、債務返済が3か月未満滞っている要注意債権が増加傾向にあり、今後の不良債権の増加につながる可能性がある。
 カシコン銀は不良債権の整理回収会社のバンコク商業アセット・マネジメント社(BAM)と合弁会社成立で合意している。来年初めから有担保/無担保の不良債権を合弁新会社に移管することで、オフバランス化する。
 TMBタナチャート銀行(ttb)のピティ・タンタカセームCEOは融資の伸びが減速しているため、今年末時点の貸出残高はマイナスになる可能性があると述べている。特に自動車ローンと住宅ローンが足を引っ張る形でローン全体の伸びが鈍化しているという。家計債務の膨張と家計の債務返済能力の低下を受け、リテール向けでは新規の融資実行額は債務の返済額を下回っている。リテールを主力とする同行が貸出残高を増やすことは難しい情勢。融資の実行にはより慎重にならざるを得ないと述べている。
 ピティCEOは今年下半期に不良債権が増加すると予想しているが、全体として制御可能な水準にとどまると見ている。債務返済に難を抱え始めた顧客を債務リストラでサポートするプロアクティブ・リストラと呼ぶ予防的リストラを実施していることを示した。
 アユタヤ銀行(クルンシー)のパイロート・チューンクルット経営戦略・事業計画責任者は景気がまだ完全には回復していないため、融資には慎重になっていると述べている。大企業向けの融資に大きな影響はないが、中小企業向けは懸念が大きい。個人向けは、タイ中央銀行が定める「責任ある融資」という融資基準もあるため、慎重に進めているとした。不良債権は安定的な水準で推移しているという。
 政府は経済システム内の流動性を創出しようと努めているが、その一方で財務規律は維持する必要があると指摘。短期的には家計債務の増加を防ぐため、新規融資よりも問題を抱えた顧客を支援することに重点を置いていると説明した。パイロート氏は、同行の不良債権が相対的に安定しているのは、顧客の債務返済能力を考慮して融資には細心の注意を払っているからだと述べている。貸出残高は今年末時点で前年比増を維持すると予想したが、貸出が顕著に伸びることはなく、横ばいないしは微増にとどまるとした。
 サイアム商業銀行(SCB)のクリット・チャンタノートックCEOによれば、タイ経済が困難な時期にあることから、どの銀行も安定を重視した経営に努めている。SCBは成長を続けるセグメントに注力する一方、債務リストラを通じて債務者を支援していく。クリット氏はどの銀行も弱い立場にある顧客を見捨てるようなことはしていないと強調した。

独コンチネンタルが追加投資=タイヤ新工場に134億バーツ

 投資委員会(BOI)は10月9日、世界第4位のタイヤメーカーであるドイツのコンチネンタルによる大規模追加投資を認可したと発表した。ラヨン工場の拡張に134億1100万バーツを投資する。高性能なラジアルタイヤを生産するプロジェクトで設備能力は年間300万本を予定している。


 コンチネンタルのタイヤ工場[=写真]はラヨン県のWHAイースタンシーボード4工業団地にあり、車用タイヤを生産している。現在の設備能力は年間480万本。追加投資で生産能力は年間780万本に増える。追加投資での雇用創出は600人、天然ゴムや合成ゴムなどの原料の国内調達量は年間1700㌧以上増える。
 ドイツで操業150年を超えるコンチネンタル・グループは世界16か国に20のタイヤ工場を持つ。昨年の売上高は約140億ユーロで、世界第4位。タイでは15年前から事業を展開している。5年前にラヨン県に開発した工場は同グループの大規模工場の一つで、エネルギーを節約する最新の機械を使用し、最高水準のエネルギー効率を達成しているという。6.7メガワットの太陽光パネルを設置し、工場内の電力使用量の13%を再エネ電力で賄っている。
 タイとアジア太平洋地域でEV産業が成長し、タイヤ需要が伸びていることから追加投資を決めた。自動車メーカー向けのOEM供給のほか、一般ユーザー向け交換市場(REM)にも供給する。EVは車体重量が重いことやエンジン車とは異なる動力伝達方式と加速度のため、耐久性のある高性能タイヤが欠かせない。EV用タイヤの価格は、通常のタイヤの2〜3倍になっている。 
 BOIのナリット・トゥードサティラサック事務局長は、コンチネンタルの大規模追加投資は、タイが世界クラスの品質と高い標準を備えたタイヤの生産拠点としてのポテンシャルを示すもので、信頼感の強化につながるとコメントした。欧州森林破壊防止規則(EUDR)で、ゴム園は森林を破壊していないことを証明しなければならないが、ナリット氏はタイが持続可能な農業を目指しており、同規則に従う準備はできているとしている。タイヤ生産の増強は天然ゴム原料の高付加価値化に加え、タイの農民の生活の質の向上とタイの自動車産業のサプライチェーン強化にも寄与する。
 タイは現在、中国に次ぐ世界第2位のタイヤ生産・輸出国。2020年以降のタイヤ生産への投資申請プロジェクトは41件、投資額は1120億バーツ以上を数えている。ミシュラン(フランス)、ブリヂストン(日本)、グッドイヤー(米国)、コンチネンタル(ドイツ)、住友ゴム(日本)、横浜ゴム(日本)、Zhongce Rubber(中国)、Prinx Chengshan(中国)、Shandong Linglong Tyre(中国)、センチュリー・タイヤ(中国)、Maxis(台湾)などが進出している。

社債の発行市場が収縮=発行額14%減、7040億B

 タイ債券市場協会(TBMA)のソムチン・ソーンパイサーン会長によれば、今年1~9月の社債の新規発行額は7040億バーツにとどまり、前年同期比14%減となった。社債市場の信頼感の低下に加え、金利の先安観から企業が発行を控えたことが理由。国債など政府部門による債券の発行額は約6000億バーツで、この結果、債券市場の発行残高は17.2兆バーツとなり、昨年末時点から3.9%増加した。ただし長期社債の発行残高は4.7兆バーツで、同2.8%減となった。
 社債の発行市場では、ハイイールド債の起債額が大幅に減少した。1~9月の発行額は397億バーツで、前年同期比59%減となった。投資適格級の社債の発行額は6640億バーツで前年同期比8%減。
 アリヤ・ティラナピラキット副会長によれば、TBMAはタイ証券取引所(SET)に上場する中堅以下の企業の業績を追跡している。社債が償還できなくなる問題が発生するおそれがあるためで、特に不動産会社の資金繰りを注視していると語った。
 TBMAによれば、今年1~9月に償還に問題を抱えた社債の総額は287億6600万バーツ。デフォルトは4社(PPホリデー社、CISSAグループ社、アイリス・グループ社、ウェストテック・エクスポネンシャル社)あり、総額で18億7600万バーツ。規模が小さいため社債市場に広範な影響は及ぼしていない。
 償還日を延期したのは12社で、総額268億9000万バーツ。イタリアンタイ・デベロップメント社(ITD)が144億5500万バーツ、エナジー・アブソルート社(EA)が62億バーツ、ナワラット・パタナカン社(NWR)が9億1200万バーツ、イースタンパワー・グループ社(EP)が5億7000万バーツ、アジア・プレシジョン社(APCS)が3億8500万バーツ、グローバル・コンシューマー社(GLOCON)が3億バーツ、プロエン・コーポ(PROEN)が5億バーツ、イースト・コースト・ファーニテック社(ECF)が3億8900万バーツ、サイアムヌワット社(SNW)が5億2000万バーツ、JCKインターナショナル社(JCK)が6億1200万バーツ、JCケビン・デベロップメント社(JCKD)が3億7500万バーツ、カントリー・グループ・デベロップメント社(CGD)が16億2700万バーツ。
 なお昨年は5社の22本の社債、163億6300万バーツがデフォルトとなり、14社の37本の社債、124億4300万バーツが償還日を繰り延べしている。
 アリヤ氏は前年に比べて社債の償還状況は改善する方向にあり、問題のある社債の大半がデフォルトではなく、繰り延べで合意していると指摘した。今年に入ってから償還繰り延べで合意した社債の合計額の約7割はITDとEAの2社となっている。

その他のニュース

[経済ニュース]

首相がラオス訪問=ソーンサイ首相と首脳会談

政府とタイ中央銀行=中銀理事長人事で衝突も

アセアン経済共同体(AEC)=7日に閣僚会議開催

タイ製太陽光パネル=米商務省がダンピング調査

ソラウォン観光相=F1レース誘致に本腰

[社会ニュース]
生態系破壊の外来魚問題=プラーラーの原料に

19県で洪水まだ収まらず=首都圏は大気悪化の兆し

タイ・セントラル・ケミ=化学肥料の啓蒙活動

デジタルマネー政策=政権支持率につながらず

[トピックス]
中国大使が商業大臣と会談=貿易収支改善で協力を約束

[レポート]
24年第2四半期の社会状況=1.生命・財産の安全=2.消費者保護

[BOI認可事業]
9月9日認可43事業

あわせて読みたい
無料トライアル 【無料トライアルのご案内】 タイ経済パブリッシングは毎日(土日祝を除く)、A4サイズのPDF版ニュースレターを定期購読者様にメール配信しております。 購読料金...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次