データセンター/クラウド事業=投資額1600億バーツ超え
世界的なIT企業によるタイでのデータセンター、クラウド・サービス事業への投資が拡大している。投資委員会(BOI)事務局によれば、これら事業には46件の投資申請があり、合計投資予定額は1679億8900万バーツを数えている。ナリット・トゥードサティラサック事務局長はタイがデジタル経済の地域ハブになる可能性は高まったと述べている。
グーグルは9月30日、タイにデータセンターとクラウド・リージョンを構築する投資計画を発表した。第1フェーズの投資額は10億㌦、約360億バーツ。ナリット事務局長は、タイが地域のデジタル・ビジネスのハブになる可能性があり、そのための基盤が整っていることを示すものだと述べた。
同事務局長はデータセンター/クラウド・サービスに対する投資誘致で、タイが持つ強みとして、①インフラ、②安全保障と地政学的優位、③人材、④国内市場、⑤投資優遇を挙げている。インフラでは高速インターネット網と5Gネットワークの充実、電力の安定供給、クリーンエネルギーへのシフトにおける高いポテンシャルを挙げた。タイは東南アジアの中心に位置し、特に2億5000万人を超える人口規模があるCLMV諸国との接続ハブになる可能性がある。国際標準を備えたデジタル規制も整備されている。地政学的対立が増す中、中立を保っていることも強みの一つに挙げた。
デジタル・スキルを備えた人材の育成も進む。民間企業はデジタル・トランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させ、政府はクラウド・ファースト政策を打ち出している。消費者もQRコード決済などでデジタル・システムを通じた金融取引のスキルを身に着けている。投資優遇は法人税の免除などの税制優遇に加え、ビザや労働許可取得に便宜を図っている。高度なスキルを持つ人材を呼び込むための税制優遇を柱とする政府の政策もある。
BOIに投資申請したデータセンター/クラウドサービス関連プロジェクトは合計46件、投資予定額は1600億バーツを超える。事業地は大半がバンコク、サムットプラカン、チョンブリ、ラヨンとなっている。投資計画を発表し、BOIに投資奨励を申請したグーグルのほかでは、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が2037年までにタイに2000億バーツ以上を投資すると発表している。AWSはすでに第1フェーズで3か所のデータセンター建設に250億バーツ以上を投資している。
オーストラリアのネクストDCは137億バーツ、インドのCtrlSは50億バーツ、シンガポールのSTT・GDCは45億バーツ、同じくシンガポールのエボルーション・データセンターは40億バーツ、米国のスーパーナップ(スイッチ)は30億バーツ、日本のテレハウスは27億バーツ、香港のワン・アジアは20億バーツを投資する。クラウド・サービスでは、アリババ・クラウドが40億バーツ以上、ファーウェイ・テクノロジーズが30億バーツ以上投資する計画を発表済み。
これら外資に加え、トゥルー・インターネット・データセンター、インターネット・タイランド、ガルフとシンガポール・テレコム、AISの合弁会社のGSAなどタイ企業もデータセンター/クラウド ・サービス事業に投資している。
データセンター/クラウドサービス事業のほか、BOIはソフトウェア開発、デジタル・サービスのためのプラットフォーム開発やイノベーションパーク、メーカー・スペース、ファブリケーション・ラボ、スマートシティ/同システム開発などのデジタル・エコシステムを支援する事業を含むデジタル産業全体で投資を奨励している。
経済3団体合同委員会=中銀に利下げ求める
商業、工業、銀行の経済3団体合同常任委員会(JSCCIB)は10月2日の月例会見で、金利の引き下げをタイ中央銀行に要請する考えを明らかにした。委員長を務めるタイ銀行協会のパヨン・シーワニット会長(クルンタイ銀行頭取)は米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を0.5%幅で引き下げたことを理由に、中銀が政策金利の引き下げを検討することを望んでいると語った。
パヨン氏は中銀にJSCCIBとの協議の場を設けるよう求めたほか、ペートンターン首相にも協議を求めたことを明らかにした。低迷する経済を浮揚させるため、JSCCIBがとりまとめた対策案を首相に示す。中銀との協議、首相との協議ともに日程は未定。
タイ商業会議所のサナン・アンウボンクン会頭は、経済を刺激し、中小企業が低迷する経済の中で生き残るのを手助けする方法について首相と議論したいと語った。洪水被害の影響や中国からの安価な商品の輸入急増の問題も議題になるとしている。
金利の引き下げは、購買力を高め、経済成長を刺激することで実体経済に利益をもたらすというのがJSCCIBの見解。特にバーツの対ドル・レートは3か月前に1ドル=36バーツ台後半だったのが、32バーツ台前半へとわずか3か月間で12%も上昇しており、利下げによるバーツ高抑制効果に期待している。タイの政策金利は今年、0.25%幅で引き下げられ、来年にはさらに0.25~0.5%幅で引き下げられると予想した。
一方、ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相は3日午後に中銀が開く「Your Data」プロジェクトのキックオフ式に主賓として出席する。この機会にセータプット・スティワートナルプット中銀総裁と会談し、25年のインフレ・ターゲットの枠組について協議する予定で、あわせて最近のバーツ高や金利政策について意見を交換する。
ピチャイ財務相は長期的な経済と金融の安定を維持するという中銀の責務を理解し、中銀が独立して政策を決定する必要があることを認める一方、財務省が懸念する短期的な問題についても考慮する必要があることはタイ中央銀行法にも明記されていると指摘している。
中銀と財務省の対立は経済状況に対する見解の相違によるもので、中銀はタイ経済が緩やかながらも回復軌道にあり、潜在成長率に向かっていると見ている。インフレ率も誘導目標範囲に戻しつつあるというのが中銀の判断。中銀が最も懸念しているのは家計債務の膨張で、金利を引き下げれば、家計の借金がさらに増えることを警戒している。
これに対し、財務省(政府与党)は景気が悪化していると見ている。政府は財政出動で景気を下支えしているが、公的債務残高が財政規律上の上限(GDP比70%)に近づきつつある中、財政的手段には限界があるため、金融政策からの経済の刺激を求めている。
なお中銀の金融政策委員会(MPC)は10月16日に政策決定会合を開く。MPCが今月の会合で利下げに動くかどうかで民間のシンクタンクの見方は割れている。サイアム商業銀行系のSCB・EICは0.25%幅で利下げに踏み切る可能性を見ているが、多くは据え置きを予想している。
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