家計債務の伸びが鈍化=GDP比89.6%に低下
カシコン・リサーチ・センター社(Kリサーチ)の10月16日付けレポートによれば、タイの家計債務は今年第2四半期の伸び率が前年同期比1.3%となり、四半期ベースでは2003年以降の最低水準となった。債務残高は16兆3200億バーツ。四半期ベースの伸び率は22年第3四半期に4.2%に達して以降、下降線を描いている。自動車ローンの減少、住宅ローンの伸びの鈍化によるもので、その他消費ローンと個人ローンは依然として増加している。またノンバンクや政府系特殊金融機関からの債務も増加傾向にある。
Kリサーチによれば、自動車ローンの伸び率はマイナス5.8%で、3・四半期連続のマイナスとなった。2012年に債務の種類別統計をタイ中央銀行が取り始めて以降で最大の下げ幅となった。家計債務残高に占める自動車ローンの割合は10.6%で、ピークだった22年第3四半期の11.5%から減少している。新車市場が縮小していることに一致した動き。
住宅ローンの伸び率は3.0%にとどまり、2012年以降で最低水準となった。22年第3四半期は5.3%。一方でその他消費ローン(クレジットカードを除く)は4.4%増で、22年第3四半期の2.1%の倍になっている。カード/個人ローンの残高伸び率は3.6%で、22年第3四半期の15.5%から大幅に減少した。金融機関が与信審査を厳格化する中で、消費者は過去3~6・四半期にノンバンクや政府系特殊金融機関からの借入を増やしている。貯蓄組合(4.0%増)、保険会社(4.3%増)、質屋(9.7%増)から借り入れるケースが増えている。
Kリサーチのカンチャナー・チョークパイサーンシン調査部長によれば、家計債務の伸び率が名目GDP伸び率を下回ったことで、6月末時点の家計債務残高の対GDP比は89.6%と過去4年間で最低水準に低下した。同比率はコロナ流行期に95.5%まで上昇し、今年第1四半期末時点では90.7%となっていた。
Kリサーチは第3四半期以降も家計債務残高の伸びはさらに鈍化し、通年では1%を切ると見ている。今年末時点の家計債務残高の対GDP比を88.5~89.5%と見積もった。前年末時点の91.4%から改善が見られるが、国際決済銀行(BIS)が健全な水準とする80%からはまだ程遠い状態。80%を超える状態が長期化すると経済成長と金融システムの安定に影響を及ぼすとされる。
今年第3四半期にKリサーチが全国963世帯を対象に実施した調査では、月収1万5000バーツ以下の世帯の債務返済率(DSR)は40.3%に達しており、預金に回せる資金は収入の10.5%にとどまっている。月収3万~7万バーツの層のDSRは40.8%。自動車ローンや住宅ローンを抱えているため、DSRが最も高い層になっている。調査からは月収3万バーツ以下の層の46%が、生活費が足りずに借金をしていることも明らかになった。
家計債務問題の解決=利下げは障害にならず
タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)の書記を務めるサッカポップ・パンヤーヌクン総裁補は10月16日の政策決定会合後の会見で、政策金利の引き下げは政治からの圧力によるものではないと強調した。MPCは5対2の多数決で政策金利を0.25%幅で引き下げて年2.25%とすることを決定している。利下げは2020年5月20日以来、4年ぶり。
サッカポップ氏は今回の利下げは、財務大臣との協議の上で行なわれたもので、政治的圧力によるものではないとした。中銀が様々なセクターからの情報や意見を聴くことは今に始まったことではなく、財務省とは継続的に協議していると強調した。
今回の利下げは金融政策のバランスを調整する余地があると判断した結果であり、景気に対して中立的な金融政策のスタンスに変わりはないとしている。サッカポップ氏は、MPCが経済成長、インフレ、金融の安定という3つの側面から金融政策を決定していると説明。今回の決定が利下げサイクルや金融緩和サイクルの始まりを意味するものではなく、継続的な引き下げではないと強調した。
利下げ決断の最大の理由は家計債務問題の解決にあり、多数派の委員は債務負担の軽減と債務削減プロセスとの間でバランスを取る余地があると判断した。金利の引き下げが債務者の債務返済能力の改善に役立つ一方、新たな債務の創出をもたらし、リスクが高まる可能性は低いと見積もった。金利を下げても家計の債務は増加せず、家計債務残高の対GDP比を引き下げる取り組みに対する障害にはならないというのが多数派委員の判断。
一方、タイ経済の全体像は前回会合での見積もりから大きくは変化していない。景気はMPCの予測通り、観光業と個人消費の拡大を原動力として回復軌道に乗っている。今年の成長率予測は前回見積もりの2.6%から2.7%へ上方修正した。物品輸出が前回予測から上振れしていることが上方修正の主な理由。個人消費は従来の予想に近似する一方で、投資は従来予想を下回る可能性があるとした。
サッカポップ氏はインフレ目標については、財務省と改めて協議すると述べた。インフレ率はMPCの誘導目標範囲(1~3%)を下回る水準にとどまっているが、インフレ目標は長期的なインフレに対処することを目的としていると説明した。またタイのインフレが主にサプライサイドの要因によって変動し、多くの対外要因がもたらしたことを付け加え、インフレ・ターゲットの枠組は柔軟でなければならないと指摘した。
「経済復興プロジェクト」=16日にキックオフ式
政府は中小企業や一般国民を対象とする「経済復興プロジェクト」を開始する。10月16日に開いたキックオフ式でペートンターン首相がプロジェクトの開始を宣言した[=写真]。商業省を主務機関とするプロジェクトで「支出を減らし、収入を増やし、機会を拡大する」がスローガン。首相は関係する政府機関に対し、あらゆる面で国民を励まし、支援するよう命じた。
政府が経済を刺激する政策に注力していることをアピールすることが狙い。式典にはプームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼国防相、ピチャイ・ナリプッタパン商業相、ピパット・ラチャキットプラカン労相や民間企業の代表が出席した。首相は9月下旬に1450万人の脆弱な層向け現金給付政策を実施し、経済システムに資金循環を生んだこyと、給付を受けた者からは非常に良い反応を受け取っていることを強調した。
首相によれば、最新の経済復興プロジェクトは事業者の95%を占める零細事業者に焦点を当てている。具体的にはバンコク都庁の協力の下、12か所の都営生鮮市場に出店している約1万1000人の商人と商業省その他政府機関の保有地内で営業する約3000の商人の家賃を今年末まで50%割り引く。また国防省、内務省が軍施設や郡役所前広場を開放して定期市を開催できるようにし、零細商人の販路拡大につなげる。国民の生活費削減では、大手メーカーや卸売業者、流通各社、オンライン通販プラットフォームの協力を得て、消費財を値引き販売する。
首相はこのプロジェクトが最大で1100億バーツの経済刺激効果を生むと述べている。総理府で開催した式典には、プロジェクトに協力するビッグC、ユニリーバ、PTTグループ、タイ・ユニオン、オーソトサパー、セントラル・リテールなど13社がブースを出しており、首相は展示を視察した。
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