2024年11月7日(木)号

経済3団体合同常任委員会=対米貿易のリスクを警戒

 商業、工業、銀行の経済3団体合同常任委員会(JSCCIB)は11月6日に開いた月例会見で、米国の大統領選挙に関連して対米黒字が大きいタイの輸出製品に及ぶリスクを警戒した。会見時点ではトランプ氏勝利の報は届いていなかったが、トランプ氏の勝利で米国の輸入関税引き上げや新たな貿易障壁によってタイの輸出が影響を受けることは確実な情勢で、政府と民間事業者は変更される可能性がある米国の通商政策への対処方を見つけなければならないと指摘した。

左からパヨン銀行協会会長、サナン商議所会頭、アピチット工業連盟副会長


 JSCCIBはハード・ディスク・ドライブ(HDD)、半導体、タイヤ、エアコン、太陽光パネルなど対米輸出額が急増し、タイ側の大幅黒字となっている製品群について、米国の通商政策を引き続き注視していく必要があると指摘している。
 米国はタイにとって最大の輸出市場で、輸出額はタイの輸出額全体の約18%を占めている。商業省統計によれば、今年1~9月の米国向け輸出額は406億1098万㌦、前年同期比12.48%増を記録している。これに対し、米国からの物品輸入はタイの輸入額全体の6%超を占めるに過ぎず、中国、日本、台湾についで4番目の輸入先にとどまっている。1~9月の米国からの輸入額は150億7021万㌦で、前年同期比3.29%増。タイ米貿易は1~9月でタイ側の255億㌦の黒字となっている。
 米国は対タイ貿易での大幅な赤字を理由に2019年にタイを為替操作国に指定した。後に解除されたものの、依然として為替監視リストに載せられている。為替操作国に指定されると、米国は必要に応じて関税による制裁を発動できる。
 世界経済は明らかに減速しており、今年の世界経済は低成長が予想されている。米国、欧州、日本など主要国の工業生産の指標は10月も引き続き収縮している。国際通貨基金(IMF)は今年の世界経済の成長率を3.2%と予測している。JSCCIBは今後の世界経済が①保護貿易主義の激化②地政学的問題によるインフレの加速③中国の不動産セクターの問題などのリスクにさらされると警告した。
 一方で今年のタイ経済は以前の予測よりも高い2.6~2.8%増が見込まれるとした。エレクトロニクスの上昇サイクルによる物品輸出の拡大が主な原動力で、今年の物品輸出は当初予想を上回る2.5~2.9%増と見積もった。
 政府部門による脆弱な層や中小企業への支援措置を通じた購買力の刺激という下支え要因もある。また海外からの投資を呼び込むため、99年の長期借地を認める法改正などの政府の短期、中期、長期の政策も徐々に打ち出されている。JSCCIBはタイ経済が抱える構造的問題を解決し、今後の経済成長への信頼感を築く重要なメカニズムになると評価した。
 タイ経済は政府の購買力刺激策により回復の兆しを見せているが、国内の多くの地域で深刻な洪水被害が発生したこともあり、経済全体や観光業はいまだ完全には回復していない。また中国からの安価な製品の流入の問題も引き続き国内企業の売上を圧迫している。このためJSCCIBは政府が年末年始の観光振興策など、引き続き経済を刺激する政策を打ち出すよう求めている。国民の購買力を高めるため、今年初めに実施した消費刺激策「イージーeレシート」の実施を求めた。

脆弱な借り手の利払い猶予

 家計債務問題では、タイ銀行協会(TBA)のパヨン・シーワニット会長が住宅ローン、自動車ローン、中小企業ローンを含む脆弱な借り手の利払いを猶予する準備をしていると明らかにした。自動車ローンは70万バーツ、住宅ローンと商工ローンはそれぞれ300万バーツまでの債務が対象で、最長3年間、利払いを猶予する。債務返済で困難に直面している脆弱な借り手のみが対象になる。借り手を特定するための基準は追って明らかにするとした。信用情報機関のナショナル・クレジット・ビューロ(NCB)によれば、家計債務の要注意債権と不良債権の総額は1.4兆バーツに達している。
 パヨン会長は、利払いの停止が家計債務問題を緩和するための短期的な措置で、債務問題解決の出発点に過ぎないことを強調した。TBAは今月14日にタイ中央銀行と脆弱な債務者の救済プログラムについて協議する予定。パヨン氏は、TBAが家計債務を管理するための基金を設立する予定でいることも明らかにした。
 商銀は97年経済危機で生じた金融機関再建開発基金(FIDF)の損失穴埋めのため、預金残高の0.46%を減債基金に拠出している。政府が0.23%への減額を認め、減額分を新たに設置する基金に組み込む構想。
 モラルハザードを回避するため、猶予を受ける借り手は、債務リストラ計画を遵守し、3年間は新たな融資を受けることができないようにする。

マリット外相=「タイ米関係は強固」

 マリット・サギアムポン外相は11月6日、米国の大統領選挙の結果にかかわらず、タイと米国の関係は引き続き強いと述べ、選挙結果が米国とタイの長年の外交関係に影響を与えないとの見解を示した。拡大メコンサブリージョン(GMS)首脳会議に出席するペートンターン首相に随行するため、ドンムアンの軍用空港ターミナルで記者団の質問に答えたもので、この時点ではトランプ氏勝利の報は届いていなかった。外相はタイ米関係は堅固で長年にわたって続いていると指摘、「誰が大統領になっても相互の目標と協力は不動のままだ」と語った。
 プアタイ党主導の政府は、西側諸国陣営のOECD加盟申請に続き、ロシア主導のBRICSへの加盟も申請するなど、全方位外交を進めている。外相はタイが公正な相互利益をもたらすバランスの取れた国際パートナーシップを優先していると述べ、このアプローチがタイの国際関係の安定と公平を維持すると表明した。トランプ氏の大統領就任により、タイ米関係は変化すると予想されているが、タイの外交戦略の調整は当局と様々な部門のオープンな対話に基づいてなされると説明した。
 一方、在タイ米国大使館はこの日、大使公邸で「2024年選挙ウォッチ」レセプションを開催した。ロバートFゴデック駐タイ米国大使は「タイはアジアでアメリカの最初の友人」と述べ、選挙結果にかかわらず、二国間関係は強いままだと強調した。
 マリット外相はタイ湾の領海主張重複地域(OCA)問題について、今後の交渉の結果として生じる合意は、法に従って内閣の事前承認と国会の承認を必要とすることを強調した。2001年の覚書(通称MOU44)をベースとした交渉がカンボジア側に有利という批評は根拠がないと主張した。MOU44は領海の確定と資源共同開発に関する議論を同時に行なわなければならないと規定していこと付け加えた。覚書に含まれる地図は、両国が領海主張する大陸棚を示すだけで、海洋境界線を示すものではないとした。
 2019年の選挙後に発足したプラユット民選政府はMOU44の下での交渉再開に合意したが、会議は1回しか開催されなかった。最初の会議で、カンボジア側がタイのトラート県に属するクード島の半分の領土を自国領とした1972年の同国の宣言をタイ側が認め、クード島を共同経済開発地域にするよう提案したため、タイ側は次回会合の延期を要請し、以後、会合は開かれていない。

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