2025年7月21日(月)号

タイの相互関税率20%以下か=ピチャイ財務相「米と建設的協議」

 ピチャイ・チュンハワジラ副首相兼財務相[=写真]は7月18日、タイから米国への輸出品に対する関税が20%を超えることはないとする見解を示した。米国の代表団との正式な交渉を終えた後のコメントで、協議は建設的なもので、全体的な雰囲気も前向きだったと述べた。米国との通商交渉の合意期限まで残り2週間となるなか、ピチャイ氏が率いる「チーム・タイランド」は、現行36%の相互関税率を可能な限り引き下げるべく、懸命な交渉を続けている。これに先立ち、ベトナムは20%、インドネシアは19%という有利な関税率で米国との合意に至っている。ピチャイ氏は、「我々はこの地域の一員であり、関税率も同じグループ内の水準になるとみている。20%を超えないというのが暗黙の理解だ」と語った。18日のタイ株式市場は、関税引き下げへの期待から株価が上昇し、SET指数は1200ポイント台を回復した。ただし、ピチャイ氏の発言は、確かな手ごたえに基づくものか、単なる希望的観測なのかは不明で、過度な期待は禁物だとする声もある。


 ピチャイ氏は、最終的な回答がすぐに得られるわけではないとしつつも、今回の協議内容はすでに米政府の上層部に報告されていると述べた。協議中の雰囲気は非常に建設的で、米国側も我々の提案を「非常に大きな改善」と評価したと話している。
 米国がベトナム、インドネシアの2か国に提示した関税引き下げの条件には、米国製品の輸入拡大に加え、あらゆる品目に対して関税を0%に設定することも含まれていた。トランプ大統領の方針でもあり、米国製品への全面的な関税撤廃を求めている。
 タイ側にとって、すべての輸入品に対して0%関税を適用するという条件は受け入れがたい。タイは1万点以上の品目について、米国からの輸入に対して関税0%を適用する意向を示したが、国内の農業従事者や製造業者に悪影響を及ぼさないこと、また既存の自由貿易協定(FTA)に影響しないことを条件としている。財務省筋によれば、タイが米国に対して関税0%を適用しないと明言している品目の多くは、農業部門への影響が懸念される農産品。豚肉および内臓、米、乳製品などが含まれる。以前から米国が市場開放を求めてきた品目だが、タイ側は農家を競争から守り、国内価格の安定を図るため、関税撤廃には応じない方針だ。
 すべての米国製品に対する関税の撤廃は、ベトナムやインドネシアのように応じることはできないというのがタイ政府の基本姿勢で、たとえその結果として、関税引き下げ交渉の成立可能性が下がるリスクがあっても、国益を優先する姿勢を崩していない。
 ピチャイ氏は、「我々は明確な方向性を持って臨み、米国の期待に沿った内容を提示できた。これまで協議してきた事項すべてが網羅された」と強調した。また、最新の提案内容については、「市場を開放するには、攻めの姿勢を取る必要がある。単に米国からの輸入を増やして貿易赤字を縮小するだけでは不十分であり、我々自身の経済規模も拡大しなければならない」と述べた。タイが米国からの輸入を約束した品目は、農産物、工業製品、中小企業による製品などで、金額的にはさほど大きくないと説明した。「我々の提案は、国益を損なうものではない。より広範な市場開放は受け入れるが、それは両国にとってウィンウィンの成果だと確信している」とも語った。
 一方、野党民衆党のシリガンヤー・タンサクン副党首は、実質的な進展はまだみられないと指摘。米国製品の90%を関税ゼロにするという提案は、ピチャイ氏が初期段階から言及していたもので、今回の交渉の実際の成果は不明確だと述べている。シリガンヤー氏は、実際のところ、何が起こるのかは誰にも分からないと述べたうえで、トランプ大統領を相手にしているという事実が、事態をより一層予測困難にしていると指摘した。
 タイ米交渉にあたって、もう一つのリスクとして浮上しているのが、タイ政府の指導者に関する問題だ。米国とインドネシアの関税合意が成立した際に注目された。トランプ大統領はベトナム、インドネシアとの合意に際し、両国の政府の最高指導者と直接話したと明言しており、タイに関しても同様の「最高指導者」との対話を求めている可能性がある。
 トランプ大統領はベトナムとの交渉では、ベトナム共産党中央執行委員会書記長兼中央軍事委員会書記のトー・ラム氏と会談したと発表している。インドネシアについても、トランプ氏自身がプラボウォ・スビアント大統領と直接話をしたと述べている。
 こうした動きを受け、改めて問われるのが、タイでは誰がトランプ氏と直接話すのかという問題だ。チーム・タイランドが交渉を大きく前進させ、最終段階に至った場合、国の指導者がトランプ氏と電話会談する局面が想定されるが、その際に誰がその役を担うのかが問われている。
 コーン・チャーティカワニット元財務相は自身のFacebookに「トランプ氏は、インドネシアのプロボウォ・スビアント大統領と直接話をしたと述べ、フィリピンのマルコス・ジュニア大統領も来週、トランプ氏に会いに行く予定とされる。一方、我が国にはトランプ氏が話すべき首相がいない」と投稿している。トランプ氏が「全権を持つ国家指導者と話す」と明言している以上、現在のタイで誰がその相手を務めるのかが問題となっている。
 米国が求める米国製品に対する完全な市場開放にタイが応じられないこと、タイにおける「国家代表」となる人物が不明確であることは、8月1日を期限とするタイ・米国間の通商交渉において、大きなリスクとなっている。

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