中銀のMPC議事録要旨=中小企業の脆弱性が鮮明に
タイ中央銀行は8月27日、金融政策委員会(MPC)の8月8日と13日会合の議事要旨を公表した。タイ経済は、2025年から2026年にかけて、従来の評価と概ね近い成長を示す見通し。今年前半の経済は、輸出と生産活動の拡大を背景に堅調に成長した。しかし、今後を見通すと、米国の関税措置の影響により、年後半は成長が減速する可能性があり、これが構造的課題や国の競争力低下に拍車をかける懸念がある。さらに、近距離市場からの観光客数の減少が加わり、特に中小企業(SME)を中心に一部の経済セクターは脆弱性が増すと指摘した。
年前半におけるタイ経済は、引き続き拡大基調にある。電子製品を中心とする輸出がテクノロジー製品のサイクルに沿って増加したほか、米国の相互関税が発効する前の駆け込み輸出がみられた。輸出の好調は、関連する製造業にもプラスの効果を及ぼした。しかし、先行きを見通すと、タイ経済は年後半に減速し、2026年には潜在成長率を下回る成長にとどまりそう。
輸出部門は、米国の関税措置の直接的・間接的影響や、上半期における駆け込み輸出の反動から減速すると予測される。タイが受ける相互関税率は競合国と大きく変わらないものの、米国の輸入関税の大幅な引き上げは米国の輸入需要や世界貿易に影響を及ぼす。さらに、迂回輸出(トランスシップメント)に対する課税リスクもあり、域内付加価値比率(RVC)といった条件が未だ明確でない点も懸念材料。国境紛争については、経済全体への影響は大きくないとみられ、主な影響は第3四半期における国境貿易の縮小に限られるとした。
製造業は、輸入品の氾濫が市場を圧迫するリスクや、米国製品への国内市場の開放により競争が強まることで影響を受ける。現時点の評価では、米国に対する市場開放の影響は、経済全体として大きくないが、農業や農産加工業といった幅広い事業者や労働者が従事する部門に追加的な圧力をもたらす可能性がある。
観光部門は、近距離市場(short-haul)からの旅行者数が域内での競争の激化によって減少するため、成長ペースが鈍化する。一方で、長距離市場(long-haul)からの旅行者は依然として収入増を支えるが、その恩恵は高級ホテルなど大規模事業者に集中する傾向にある。こうした旅行者の消費行動は、宿泊中心で、それ以外の支出が比較的少ない。
民間消費と投資は、輸出、生産、観光の動向に連動した労働者の所得の伸びが鈍化することで減速しそう。特に、サービス業に多く従事する自営業者層が影響を受けやすい。
MPCは、通商政策の影響については評価が難しいと考えている。タイに対する相互関税の水準は、競合国と比べて不利ではないものの、従来よりも高い関税率は、将来的に輸出産業、生産拠点の移転、新規投資に影響を及ぼす可能性がある。
複数の業界の事業者は、先行受注が一部鈍化しているものの、概ね予測通りで、これまでの駆け込み輸出と整合的だとしている。例えば、食品・飲料産業では受注が鈍化したが、第4四半期には在庫の消化を経て徐々に戻ると予想している。一方、電子産業は拡大を続けるエレクトロニクスのサイクルに沿って、先行受注を引き続き獲得している。委員の一部は、輸出の見通しは事務局の評価する第3四半期に急激に落ち込むというよりは、緩やかに鈍化していくと予想している。タイの関税率が競合国と大きな差がないためで、実際の影響は輸出部門の調整に伴い、時間をかけて徐々に現れると見積もった。
MPCは、今後の経済成長を潜在成長率以下に押し下げかねない主要な成長エンジンの減速に懸念を示している。その要因として (1)米国の関税措置や輸入品の流入の影響を受ける輸出部門、(2)観光客数や構成が変化し、特に近距離旅行者の減少により収入が中小事業者に分散しなくなった観光部門、(3)所得の減少に伴い鈍化する民間消費を挙げた。こうした要因は、構造的問題をさらに深刻にする一方で、経済成長が一部産業に依存し、大企業に集中する傾向を強めることになる。
事務局は、中小企業が直面している多方面の課題を提示している。特に輸入品の流入の影響が顕著で、同時に国内消費の減少が事業運営への圧力となっている。さらに、中小企業は大企業に比べて借入コストが高く、資金調達へのアクセスにも難を抱えている。事業者からの情報によれば、多くの中小企業は事業を維持するためにコスト削減や事業規模の縮小といった「守り」の対応を取っているが、ビジネスモデルを転換して競争力を高めるといった「攻め」の対応にはなお制約が多い。MPCは、中小企業が一段と脆弱になっており、その影響が雇用や家計の収入、さらには債務返済能力へと波及するおそれがあるとの見解を示している。
◆低インフレに対する評価
インフレ率は主にサプライサイドの要因によって低水準にとどまる見通し。背景には、(1)生鮮食品の価格下落、とりわけ果物の価格が、好天による市場供給量の増加に加え、他国との競争激化による輸出の減少を受けて下がったこと、(2)原油供給の増加に伴い世界の原油価格が下落傾向にあることによるエネルギー価格の低下が挙げられる。ただし、その他の商品・サービスの価格は広範に下落しておらず、コアインフレ率は従来の見通しに近い水準で推移すると予測される。中期的なインフレ期待も依然として目標レンジ内で安定している。
MPCは、現在の低水準のインフレ率が経済成長の妨げにはならず、むしろ生活費や事業コストの上昇を抑える役割を果たしていると評価した。ただし、国内需要の減速によりインフレ率が一段と押し下げられるリスクには注意が必要との認識も示している。会合では、サプライサイドの要因によってインフレが低位にある状況下での金融政策運営について議論し、この文脈においては金融政策のインフレ抑制効果は限定的とする意見の一致をみた。
一部の委員はさらに、柔軟なインフレ目標の下では、中期的にインフレ率を目標レンジ内に維持し、低位かつ安定した状態を実現することが重要で、常にレンジ内に収める必要はないとの見解を示した。金融政策に関して考慮すべきは、インフレの要因や推進力、それが中期的なインフレ予測に与える影響にあると指摘した。
MPCは、低インフレの理由の一部は、指標上の制約による可能性があると指摘している。消費者物価指数(CPI)の中には長期間変動が少ない、あるいは変わらない品目があり、こうした品目はデータ収集の網羅性や質の変化を反映させるうえで課題がある場合が多い。例えば、住宅賃料は古い借家が中心で、価格調整が難しい。このため、事務局に対し、関係機関と協議してCPIを改良し、消費者が直面する商品やサービスの価格動向をより的確に反映できるよう検討を要請した。
◆金融環境と金融システムの安定性に関する評価
商業銀行の貸出金利は、これまでの政策金利の引き下げに連動して低下した。タイ国債の利回りも、タイ経済が減速するとの見通しを背景に低下した。為替レートについては、ドル安を主因としてバーツが対ドルで上昇した。米国の経済指標が予想を下回ったことに加え、米国政府の予算や減税計画を受けて米国の財政の持続可能性に対する市場の懸念が強まった。
貸出は全体として引き続き縮小している。大企業の資金需要が経済の不確実性を背景に減少し、また債務者の信用リスクが上昇していることによる。中小企業向け融資や住宅ローンの債権の質も引き続き低下している。とりわけ、中小企業は流動性の低下や高水準の債務負担により脆弱性が強まっており、また大企業に比べ資金調達コストが高止まりしている。金融機関のデータによれば、中小企業向けの新規融資の金利は依然として高く、大企業向けに比べて低下幅が限定的。相対的に信用リスクが高いことが理由だ。
MPCは、流動性の逼迫や経済的な圧力の増大から中小企業の脆弱性に懸念を示している。債権の質が悪化していることが、金融機関の融資判断に影響を及ぼし、中小企業の資金調達機会を狭め、事業の継続が困難になるおそれがある。
事務局は、金融機関が融資の審査基準を引き締めたり、広範に融資を制限したりしているわけではないが、債務者のリスク水準に応じて新規融資に一層慎重になっていると説明した。たとえば、金融機関は中小企業向け融資の審査基準を明確に厳格化したわけではないが、リスクの低い中小企業を中心に融資を実行する傾向が強まっている。また、担保を持たない、あるいは担保不足の小規模事業への融資には慎重さが増している。
◆金融政策の検討
金融政策の運営枠組みは、物価の安定を維持することを目標とすると同時に、経済の持続的な成長と金融システムの安定を図ることを重視している。
MPCは、経済全体が見通しどおりに成長する可能性はあるものの、今後は多くの要因から圧力を受け、一部の経済部門では脆弱性が高まるとの見解を示した。特に、米国の関税措置の影響は長期に及び、構造的な問題や競争力の制約をさらに増大させる。観光業と民間消費からの押し上げ効果も弱まりつつある。さらに、多くの中小企業は、競争の激化と偏在する経済成長から追加的な圧力を受ける。
一方、一般インフレ率はエネルギーと生鮮食品価格の低下により低水準にあるが、物品・サービスの価格全般は広範に下落していないため、金融政策判断の主要な要因ではないと評価した。
また、中小企業の債務返済能力の低下と資金調達難に懸念を示した。信用リスクの高まりにより、金融機関が融資に一層慎重になる可能性があり、これが将来の経済活動に波及するおそれがある。企業や家計による負債圧縮の進行、経済の不確実性に伴う資金需要の低下、金融機関による信用リスクの高い借り手への融資の慎重姿勢を背景に、信用供与は依然として低水準にとどまると見積もった。
◆政策金利の引き下げ
MPCは、金融政策について、もう一段の緩和が可能で、金融環境を企業部門の適応に資する水準とし、脆弱な層の負担軽減にも寄与できると判断した。同時に、長期的な金融システムの安定性に対するリスクを高めるものではないと結論づけた。
政策金利の引き下げは、企業の負担を和らげ、一定の適応を促す効果がある。ただし、金融政策単独では経済や与信の拡大を十分に回復させることはできず、中小企業の信用アクセスの改善や構造的課題の解決を支える施策と併せて進める必要があると指摘した。信用保証のメカニズムや中小企業の適応と競争力の強化を支援する政策が求められるとした。
また、現下の局面における金融緩和は、金融の安定性を大きく損なうものではないとしつつも、中期的な安定維持を考慮する必要があると強調した。政策金利は過度に低水準で長期間維持すべきではなく、家計や企業の過剰債務、貯蓄意欲の低下、実質的な経済効果の乏しい投資の増加、リスクを軽視した高利回りを追い求める行動、資産価格バブルなど、将来のシステミック・リスクを防ぐ観点からも適切な水準を保つ必要があるとした。さらに、金利が低位にある場合には金融政策の効果が低下するほか、構造問題の解決に対する効果も限定的であるため、構造改革政策、財政政策、金融政策、ターゲットを絞った金融措置などを組み合わせ、企業部門が世界の新たな貿易構造やサプライチェーンに適応できるよう後押しする必要性を指摘した。
なお、一部の委員は、今後の不確実性を踏まえ、予期せぬ事態に備えるため、限られた政策余地を維持することを考慮すべきだとの見解を示した。
タイ経済は2025年と2026年において、概ね予測に近い成長を示すものの、米国の関税措置が構造的課題や競争力への制約を一層深刻化させ、加えて一部の経済部門、特に中小企業の脆弱性が高まると評価した。インフレ率はサプライサイドの要因により低水準で推移する見通しであることから、金融環境が企業部門の適応を後押しし、脆弱な層の負担を和らげるよう、金融政策にはさらなる緩和余地があると判断した。このため、8月13日の会合では、政策金利の0.25%幅での引き下げを決定した。今後について、金融政策は緩和的な水準を維持して経済を支援する一方、中期的な経済・金融の安定と限られた政策手段の持続性を考慮すべきだとの見解を示した。
ペートンターン氏=憲法裁判所判断を官邸で傍聴へ
首相の職務停止中のペートンターン・チナワット首相兼文化相[=写真]は、カンボジアのフン・セン氏との会話音声流出問題に関する8月28日の憲法裁判所の判断を首相官邸から傍聴する予定だ。裁判には出廷しない。

ペートンターン氏は、28日正午ごろ官邸に入り、閣僚や与党プアタイ党の大臣らとともに判断を待つ。党所属の国会議員も午後3時から4時にかけて総理府に集まる見通しだ。ペートンターン氏の弁護団は裁判所に出廷し、裁判はテレビ中継される。
今回の裁判は、36人の上院議員がペートンターン氏を「首相としての倫理基準に違反した」と訴えたことを受けて開始された。ペートンターン氏はフン・セン氏との電話会談中のやり取りが流出した件で職務を停止されている。倫理違反と判断されれば、ペートンターン氏は、父のタクシン氏(2006年クーデターで失脚)、叔母のインラック氏(2014年憲法裁の判断で失職)に続き、チナワット家で3人目の失脚となる。
ペートンターン氏が失職した場合、プアタイ党は、党の最後の首相候補で、元検事総長のチャイカセーム・ニティシリ氏(77)を擁立する構え。プアタイ党筋は連立の結束は揺るがないと強調している。
今回の裁判はタイ政治の帰趨を大きく左右する可能性がある。政治評論家の多くは、ペートンターン氏に不利な判断を下すとみており、失職となれば、セーター前首相に続く形でプアタイ党は再び打撃を受ける。党はすでに影響力を大きく損なっており、チャイカセーム氏を擁立した新内閣の組閣では不利な立場に追い込まれる。ペートンターン氏が失職した場合、下院は9月3日に召集され、新首相を選出する。候補者にはチャイカセーム氏(プアタイ党)、アヌティン・チャーンウィラクン氏(プームチャイタイ党)、ピーラパン・サーリラットウィパーク氏(ルアムタイ・サーンチャート党)、チュリン・ラクサナウィシット氏(民主党)が含まれる。政治が行き詰まった場合、ルアムタイ・サーンチャート党の首相候補として名簿に名前が残るプラユット前首相の復帰の可能性も捨てきれない。
野党第一党の民衆党は、連立政権には加わらないが、憲法改正と年内の解散総選挙を約束する候補を支持すると表明している。
仮にチャイカセーム氏が首相に就任しても、プアタイ党はカンボジアとの国境紛争への対応で国民の信頼を失っており、経済運営の稚拙さも指摘される。危機が山積するなか、厳しい政権運営を迫られる。
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