2025年9月2日(火)号

政局混迷で新首相選び難航=チャイカセーム氏かアヌティン氏か

 新たな首相の選出をめぐり混迷する政局は、143票を握る民衆党の動向次第で、次期政権の枠組みが決まる構図になっている。民衆党は9月1日に党の会議を開いたが、プアタイ党陣営とプームチャイタイ党陣営のどちらを支持するかの結論を翌日以降に持ち越した。

アヌティン氏


 新首相は、憲法の規定により2023年総選挙時に各党が選挙委員会(EC)に提出した首相候補の中から選出される。民衆党には首相候補が存在しないため、他党の候補を支持するか、いずれの候補も支持しないという2つの選択肢がある。
 プアタイ党は3人いた候補の最後の一人であるチャイカセーム・ニティシリ氏を擁立し、連立与党の支持をとりつけているが、クラータム党とルアムタイサーンチャート党のスチャート・チョムクリン商業副大臣率いる派閥が離脱を決定したため、過半数に届かない。一方、プームチャイタイ党はアヌティン・チャーンウィラクン党首を擁立した。確保した議席は150議席に満たず、最大野党である民衆党の支持が欠かせない。
 民衆党は、首相指名での協力の条件として、4か月以内の下院解散、憲法改正の国民投票の実施を突き付け、連立政権には参加せず、野党として政府を監視するとしている。このため、どちらの陣営が勝っても少数与党になる。プアタイ、プームチャイタイ両陣営ともに民衆党の提示した条件をのむことを表明済みだ。
 タクシン元首相は、旧前進党の党首で、民衆党の精神的指導者とされるタナトーン・ジュンルンルアンキット氏と会談し、プアタイ党支持を求めた。両党の共通点は憲法改正と国民投票の実施で、プアタイ党は、憲法改正の遅れの原因はプームチャイタイ党の妨害にあると訴えている。23年総選挙後の首相指名投票では、プアタイ党がピター・リムジャルンラット前進党党首を推挙したが、プームチャイタイ党が反対し、当時の規定で上院議員もピター氏を拒否したため、前進党は比較第一党でありながら政権を樹立できなかった経緯がある。
 ただしプアタイ党はその後、前進党との覚書を破棄し、ルアムタイサーンチャート党やプームチャイタイ党と手を組んでセーター政権を発足させた過去がある。この「手のひら返し」は民衆党の支持層に深い傷を残している。プアタイ党のチョラナーン・シーケーオ党首(当時)が、「この憲法のもとで前進党と組むことはない」「手を組もうとしたのは誤りだった」と発言した経緯もある。
 今回の政局の発端となったペートンターン氏とカンボジアのフン・セン氏の音声クリップ流出問題をきっかけに下野したプームチャイタイ党は、以来野党として民衆党との関係を深めてきた。民衆党がアヌティン氏を支持する場合、プアタイ党と組むよりも憲法改正の国民投票の成立可能性が高まるとの見方がある。プームチャイタイ党が上院議員に影響力を持つことがそうした見方の根拠。プームチャイタイ党主導の政権は、150議席足らずの少数政権となるため、民衆党の閣外協力がなければ行き詰まる。一方、プアタイ党は議席が多く、民衆党以外の野党を引き入れることで、過半数を獲得し、解散を先送りすることも可能になる。ただし、保守色の強いプームチャイタイ党を民衆党が支持すれば、野合との批判を浴びることにもなりかねない。
 民衆党が両陣営の首相候補を支持せず、即時解散総選挙に追い込むシナリオもある。プアタイ党は、民衆党を牽制し、プームチャイタイ党を選べば解散カードを切ると圧力をかけているが、民衆党のスポークスマンは1日、「即時解散は7月にペートンターン首相の職務停止の仮処分が出た時点から民衆党が言い続けてきたこと」と一蹴した。即時解散が有力なシナリオの一つに浮上しており、この場合、民衆党には追い風が吹き、最も有利に選挙戦に臨むことができる。ただし、このシナリオではプアタイ党が解散を回避し、第3の首相候補として、プラユット元首相が返り咲く、またはクーデタの可能性も出てくる。
 解散総選挙となれば、プアタイ党には強い逆風が吹く。2000年代初めから多くの有権者の支持を集めてきたタクシン派政党の賞味期限はすでに尽きている。次回総選挙で比較第一党に返り咲くことは難しく、自党首班の政権枠組みを少しでも延命させたいというのがプアタイ党の本音だ。
 なお、タイにおける首相指名は、複数の候補に票が割れ、過半数に届かない場合には決戦投票に進む日本とは異なり、ある特定の候補を支持するかどうかを全議員が表明する形で行なわれる。一般的に、国会召集までに連立枠組みが固まり、首相指名で波乱は生じないが、2023年はピター氏が上院議員の不支持により首相になれなかった。この時は後日、第2の首相候補としてセーター・タウィーシン氏が首相に選出されている。一度否決されたピター氏をもう一度推挙することは国会規則上できないとされており、チャイカセーム氏とアヌティン氏も採決のチャンスは一度きりとなる。
 ワンムハマド・ノーマター下院議長は1日、国をリーダー不在にすべきでないとして速やかな首相指名投票を求めているが、9月3日の召集は間に合わない可能性を認めている。下院事務局によると、9月3~5日または10日のいずれかになるもよう。
 プアタイ党陣営は、国会議長・副議長を擁する立場を利用し、首相指名投票を先送りする引き延ばし戦術を取る可能性がある。その間に候補者の調整を行ない、チャイカセーム氏で勝負できないと判断すれば、プラユット元首相を推すことも選択肢に入る。これによりルアムタイ・サーンチャート党のスチャート派を取り込み、プラウィット・ウォンスワン元副首相を通じてパランプラチャーラット党の連立復帰も図るシナリオだ。
 混迷極まる政治情勢のなか、どのシナリオも現実味を帯び、何が起きても不思議ではない状況が続いている。

[経済ニュース]

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[社会ニュース]
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[論調]
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[データ]
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