日本からの観光客は回復せず=円安・バーツ高が足かせに
タイと日本の海外旅行動向は、為替相場の影響を強く受けている。タイ人の間では円安を追い風に日本旅行が人気を集める一方、日本人の訪タイ数は新型コロナ前の水準に戻っていない。タイ観光公団(TAT)のタパニー・キアットパイブーン総裁[=写真]は、今年の観光客数の伸びを抑制している主因の一つとしてバーツ高を挙げ、「安全性への懸念、世界経済の不確実性、タイ・カンボジア国境での武力衝突」と並ぶ主要因になっていると指摘した。

同総裁によると、バーツはドルに対して約7%、中国人民元に対して約4%上昇している。また、日本円は2019年の1バーツ=3.51円から2025年には4.61円へと約30%下落しており、日本人旅行者にとってタイ旅行のコストは上昇している。タパニー総裁は、「為替変動がタイ国内の観光商品の価格やサービス水準に対する市場の心理に影響を及ぼしている」と述べた。
TATのマトゥロット・ワタナコーメン大阪事務所長は、為替が唯一の要因ではないと指摘する。日本からの観光客は今年第1四半期(1~3月)に約15%の伸びを記録したが、3月28日の地震で建設中の建物が倒壊した事故を境に勢いを失った。その後、6~7月にかけてタイ・カンボジア国境で緊張が高まり、さらなる打撃となった。マトゥロット氏は「日本市場は安全への感度が極めて高く、懸念が生じると慎重な反応を示す。しかし、安全が確認されれば回復は速い」と述べている。
コロナ前の2019年には日本人観光客数は170万人に達し、過去最高を記録したが、パンデミックで激減。昨年にようやく100万人の大台を回復した。今年の明るい材料は、タイと東京、大阪、福岡、名古屋、札幌を結ぶ航空座席数が8.5%増の300万席に拡大した点。タイ・エアアジアXは12月1日から仙台路線を開設する予定で、日本の旅行業界が長く待望していた路線だという。
バーツ高に加え、他の観光地との競争の激化も日本市場の回復を遅らせている。日本政府観光局(JNTO)によると、2024年の日本人海外旅行者は1300万人で、渡航先の上位は韓国(322万人)、米国(154万人)、台湾(117万人)で、タイは4位だった。
TATは日本から125万人の誘致を目標とし、ミレニアル世代やZ世代、学生、「ボーイズラブ(BL)」ドラマのファン層など新たな市場の開拓を進めている。パタラアノン副総裁は主要ターゲットとして、ビジネス・レジャー兼用客、女性、アクティブシニア、ゴルフやマラソンを楽しむ層を挙げている。
今年1~9月の日本からの観光客は前年同期比5.39%増の80万3768人。9月単月では9万1610人で、前年同月比2.36%現となった、平均滞在日数は6.04泊、1人当たり支出は3万9108バーツに達している。9月25~28日に名古屋で開催された「ツーリズムEXPOジャパン」では、TATが東京圏外への販路拡大を図り、専門職や退職者、家族連れなど高消費層の取り込みを目指した。
マトゥロット所長は、円安や物価高にもかかわらず、未開拓層には潜在力があるとし、「パスポートを保有したことがない層」を一例に挙げた。TATの日本にある3つの事務所は若年層、特に学生やZ世代へのアプローチを続けており、タイ人教授と連携して研修旅行を企画し、学生にタイ文化を紹介する取り組みなどもある。ただし、この市場はベトナムとの競争が激しく、同国の手頃で目新しい観光商品が若者を惹きつけている。
4月13日から10月13日まで開催された大阪・関西万博期間中、多くの日本人が国内旅行を選択した。国際イベントの開催が海外旅行需要を抑制した形。開幕から最初の5か月間で、保健省が運営する「タイ館」には延べ150万人の来場者があった。TATは9月15~29日にタイ館併設エリアで臨時展示を開き、97万8280バーツの予算を投じて国内20の低炭素旅行ルートを紹介。伝統的な紙細工のワークショップも設け、日本人がタイ文化に触れる機会を提供した。
タパニー総裁は、5年後にサウジアラビア・リヤドで開かれる次回万博で、TATがタイ館の主催機関として参加を検討していると明らかにした。
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