カンボジア国境紛争巡り=2つの覚書の破棄論強まる
下院外交委員会は10月7日、シーハサック・プアンケートゥケーオ外務大臣[=写真]を招き、カンボジアとの間で締結された2つの覚書(MOU43、MOU44)が持つ意味合いについて問い質した。2つのMOUは両国政府が2000年と2001年に陸上及び海上国境の画定に関して締結したもので、国境での緊張が高まる現在、その破棄を求める声が強まっている。アヌティン政府は破棄についての国民投票を実施する方針を打ち出している。

◆外交委、破棄方針に懸念
同委のサラサナン・アンノッポン委員長(コンケン県選出プアタイ党所属下院議員)は2つの覚書が、国家安全保障の問題を中心に、非常に複雑でセンシティブな問題に関わるものであり、慎重かつ周到に検討すべき問題だと指摘した。「個人的な好みや政治的立場、あるいは人気取りの問題に矮小化されるべきではなく、このような複雑で戦略的に重要な問題を国民投票に委ねることは、タイにとって最良の結果をもたらさない可能性がある」とも述べている。
覚書は両国間の緊張緩和に向けた協議の枠組みを提供しており、「これらがなければ既存の紛争が暴力にエスカレートしないという保証はない。公式なメカニズムが存在しなければ、平和的な対話の場を失うことになる」との懸念も表明した。
サラサナン委員長は上下両院が現在合同特別委員会を設置して両覚書の破棄の可否を検討する作業を進めていることから、性急に国民投票を行なうよりも、委員会の結論を待つ方が有益と主張した。下院外交委員会も既にMOU44については、徹底的な見直しを行ない、安全保障機関や法務機関を含む利害関係者から意見を聞き取っているという。また、この覚書は政府に無制限の権限を与えるものではなく、両国間の交渉結果は、如何なるものであれ、最終的には議会の承認を得なければならないことも付け加えた。
委員長は「シーハサック外相にMoUを破棄すべきか否かについて直接聞きたい」と述べたうえで、もし破棄された場合、平和的な交渉のためのメカニズムがどのようなものになるのか、あるいは存在するのか疑問を呈した。
これに対し、シーハサック外相は9日、初めてとなる国会での質疑に臨み、MOUに関しては、国家主権と国境に関わる重要な問題であるため、国民がその是非や国民投票の実施方法について意見を表明できるべきだとし、「あらゆる側面から慎重に社会の声を聞く必要がある」と述べた。議会がMOU廃止を検討する特別委員会を設置したことも、「真剣な議論が行なわれるのは良いことだ」と評価した。
国民投票を実施する際には、公開すべき情報、報道、補償措置、民間部門への影響などを総合的に考慮する必要があると述べた。さらに、「廃止後に何を代替策とするのかを明確にすることが必要だ」と述べた。準備や代替計画なしに投票を行なえば、国益が損なわれかねないため、外務省としても、MOUがなくなった場合の選択肢を慎重に検討する考えを示した。廃止によって正当な権利を持つ人々に影響が出る場合には、補償を検討する必要があるとした。
外相は、「外交は国家の利益に直結する問題で、政治的争点にすべきではない」と強調し、政府として責任ある対応を取ると述べたうえで、「政府の方針が固まった際には、再び国会で詳しく説明する用意がある」と語った。
外相は、近くボウォーンサック・ウワンノー副首相が中心となり、国民投票の実施に向けた手続きを検討する会議を開くことを明らかにした。すべての建設的意見を考慮し、明確なロードマップを国会に報告すると述べた。
カンボジアとの国境線解釈を巡る対立は、20年以上に渡って周期的に軍事衝突を引き起こし、ナショナリストの緊張を煽ってきた。複雑で重なり合う領土主張をどのように管理するかというこの問題は、タイの国家安全保障政策の中で最もセンシティブな問題の一つとなっている。
◆国民投票めぐり賛否
アヌティン首相が打ち出した国民投票については、意見が鋭く二分されている。
国民投票支持論者は、主権問題について国民に直接意見を表明させる民主的な解決策だと見なしている。一方、反対派は、国境や海洋条約は、ポピュリズム的な投票ではなく、専門的な交渉と法的精度を必要とする高度に技術的な問題と反論する。政府批判派はまた、与党プームチャイタイ党が、次の選挙を前に、ナショナリスト的な選挙運動の道具として国民投票を利用していると非難している。愛国心をアピールし、保守的な有権者の間で政治基盤を固めるための戦略とみられている。
国民投票が実施されれば、タイの地域外交と国内政治の両方を再構築する可能性がある。協定を破棄すれば、カンボジアとの緊張が再燃し、アセアン内の協力が複雑になる可能性がある。一方、協定を維持すれば、ナショナリストの有権者を怒らせるかもしれないが、安定と国際的な信頼性を維持することになる。
なおこの問題について、国立経営大学院(NIDA)が全国の18歳以上の男女1310人を対象に10月1~2日に実施した世論調査結果が発表されている。それによると、回答者の44.1%がMOU43の機能について「全く理解していない」、24.9%が「少しだけ理解している」、23.1%が「ある程度理解している」、7.7%が「よく理解している」と回答した。
MOU44については、「全く理解していない」が45.7%、「少しだけ理解している」が24.9%、「ある程度理解している」が22.4%、「よく理解している」が6.8%だった。「両覚書についてより明確な理解を得たいか」という問いには65.5%が「理解したい」と回答した。34%は「理解したいと思わない」で、いずれか一方の覚書のみ理解したいという回答はそれぞれ0.23%ずつだった。
国民投票の実施については、60.7%が「実施に賛成」、20.9%が「反対」、12.6%が「回答拒否または無関心」、4.9%が「わからない」と答えた。いずれか一方の覚書のみの投票実施を支持したのはいずれも1%に満たない少数派だった。
9日の国会質疑では、野党指導者のナッタポン・ルアンパンヤーウット民衆党党首が、2つの覚書の破棄を問う国民投票の実施について、NIDA調査の結果を引用して国民への十分な説明が欠如していると指摘した。同氏は、透明性の確保と同時に、カンボジア側に不必要な情報が漏洩しないよう配慮が必要だと強調した。
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