2025年10月14日(火)号

経済記者協会セミナーで首相が講演=4つの「リセット」で経済再生

 アヌティン首相は経済記者協会のセミナーで講演し、経済・社会構造を4分野で「リセット」する改革方針を表明した[=写真]。民間との協働を通じて持続的成長を目指す。


 経済記者協会は10月8日、「CEOオブ・ザ・イヤー2025」授賞式と併せて経済セミナーを開催した。メインテーマは「経済の回復に向けた国の構造改革」で、アヌティン首相が特別講演を行なった。
 首相は冒頭、「適応が遅い国は、経済的機会と国際舞台での交渉力の両方を失う」と述べ、政府が新たな基盤を築くために4つの柱で経済改革を進めていると説明した。
 第1の柱は「経済のリセット」。政府は「コンラクルン(半分ずつ)プラス」と「国家福祉カード」を通じて1000億バーツを経済に注入する。このうち「コンラクルン」には440億バーツを充て、即効性の高い景気刺激策として位置づける。福祉カード事業には227億8000万バーツを追加し、草の根の経済システムに資金を循環させる。スマート農業や家庭・農業部門での太陽光エネルギーの導入も進め、エネルギーと農業の安全保障を強化してグリーン経済を育成する方針を示した。AIやビッグデータを生産、貿易、サービス分野に応用し、半導体やクリーンテクノロジーなど未来産業の育成も掲げた。
 第2の柱は「潜在能力のリセット」。タイ経済がインドシナ諸国、特にベトナムに遅れをとっている現実を「悪夢」と表現し、「地理的優位を生かして貿易の中心地としての地位を維持する必要がある」と強調した。また、高齢化社会に対応するため、高齢者が働き収入を得られる仕組みの構築を提唱。健康産業を支援し、ユニバーサルデザインを取り入れた都市やインフラ整備を進める方針を明らかにした。
 第3の柱は「安全保障と法の拘束力のリセット」。薬物、オンラインギャンブル、越境犯罪などの社会問題への対応を強化し、経済的信頼を損なう汚職の撲滅を最優先課題に掲げた。タイは経済協力開発機構(OECD)への加盟を申請しており、法の支配に基づいた司法制度の確立は、国際的信頼を得るうえで不可欠と述べた。
 第4の柱は「環境とデジタルのリセット」。2050年までにネットゼロを実現するという国際公約の達成は、タイ製品の競争力維持に直結すると指摘。国内にカーボンクレジット取引市場を設立し、「クリーン大気管理法」や「気候変動法」など主要な環境法を整備する方針を示した。これらの施策は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の原則に沿った長期的投資につながるとした。また行政機関が連携する「デジタル政府」を構築し、透明性向上と汚職防止を図る考えを示した。
 首相は講演の締めくくりで「政府だけでは国をリセットできない。民間、一般市民社会、メディアを含むすべての部門の協力が必要だ」と述べ、「タイには潜在能力があり、それを最大限に発揮する仕組みが欠けている。近隣諸国を追い越し、この地域でナンバーワンを目指す」と呼びかけた。
 セミナーにはタイ銀行協会(TBA)のパヨン・シーワニット会長も登壇した。同会長は、「IMFが今後5年間のタイの成長率を2.7%と見込む一方、アセアン平均は4.5%に達している。かつて地域の盟主だったタイとしては残念な数字だ」と述べた。経済が伸び悩む要因について、誰も国内に投資したがらない構造があると指摘し、補助金や短期的な景気刺激策に依存する現状に警鐘を鳴らした。
 上場企業の65%以上が株価純資産倍率(P/BV)1倍を下回っている点を「信頼欠如の象徴」と指摘。国内の流動性が海外ファンドに流出し続ける一方で、タイ企業による海外累積投資額が数兆バーツにのぼることから、「流動性を巡る罠」への警戒を促した。銀行業界が平均5兆バーツの流動性を保有しているにもかかわらず、零細事業者には資金が行き届かない「構造的なゆがみ」にも言及した。
 パヨン会長によると、経済3団体合同常任委員会(JSCCIB)は、タイ経済の根本課題を「構造的問題」「生産性の問題」「政府効率性の問題」の3つに整理している。国がこの罠から脱するには、先端技術の導入と、脱炭素や環境保護など持続可能性に基づく行動という2つのアプローチを早急に実行する必要があるとした。国の弱体化を招いている主な要因は、家計や零細事業者が収入を生み出す力を欠いていることだとも語った。
 新政権の「クイックビッグウィン政策」については、民間や他の経済機関の方向性と一致しており、評価できると述べ、最も重要なのは「優先順位を明確にし、政策を透明性をもって推進することだ」と指摘した。さらにインフォーマルセクターの実態や制度外債務、汚職による経済損失の数値化などについて、JSCCIBを通じて政策提言したことを明らかにした。

その他のニュース
[経済ニュース]
アッタポン・エネ相が政策方針=エネルギー費軽減と太陽光発電の普及

私立病院の医薬品料金公開=商業省が協会と合意

商業会議所が商業相と会談=関税対策と新市場開拓を協議

[社会ニュース]
CPFが環境団体を提訴へ=外来魚流出巡り言論と名誉対立

インフルエンザ流行を警戒=今年に入って死者60人超

都知事と平和首長会議事務総長=「平和記念碑」設置で連携強化

バンコク都=喫煙規制取締りを強化へ

[閣議決定]
2025年10月7日

[先週の為替・株式市況]
25年10月6日~10月10日

あわせて読みたい
無料トライアル 【無料トライアルのご案内】 タイ経済パブリッシングは毎日(土日祝を除く)、A4サイズのPDF版ニュースレターを定期購読者様にメール配信しております。 購読料金...
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次