2025年10月15日(水)号

ウィタイ中銀総裁が初会見=金融安定と家計債務解決を最優先

 タイ中央銀行のウィタイ・ラタナコーン総裁[=写真]は10月10日、就任後初めて記者会見を行ない、中銀の業務運営の方向性と今後の主要政策について語った。経済・金融の長期的安定を基本使命に据えつつ、デフレ回避と金融システムの健全性確保に取り組む方針を示した。家計債務の再構成や金融包摂に向けた具体策を次々と打ち出し、デジタル・グリーン時代に対応する金融基盤の構築を急ぐ。政府・民間との連携強化を通じて、政策の実効性と国民への浸透を目指す構えだ。


 中銀の業務運営の方向性として、まず中央銀行としての基本的な使命である「経済・金融の長期的安定の維持」を引き続き果たしていくと述べた。とりわけ、金融の安定の面では、中期的にインフレ率を低位安定した水準に維持し、デフレを回避するとともに、物価を中期的に目標レンジへと戻すことを重視する。また、金融機関システムの安定を確保するため、各金融機関が強固で健全な経営を維持し、債務者、国民、企業に対して継続的にサービスを提供できるようにし、金融システム全体に脆弱性が生じて将来的な危機に発展することを防ぐ。決済システムの安定についても、効率性を高め、国民、企業、政府のニーズに応えられるよう管理し、利便性、迅速性、安全性を備え、合理的なコストで利用できる体制を維持していくとした。
 新総裁は、法的枠組みのもとで独立性を維持しつつ政策を遂行する方針だが、今後は政策の実現に向けて、政府や民間部門など関係機関との協働を一層強化していく必要があるとした。そのうえで、金融政策と財政政策の調整を重視し、経済の回復と持続的な成長を支えるとともに、構造的課題への具体的な対応を後押しし、国の潜在成長力を高めていくとしている。
 今後の主要な政策の方向性(policy priorities)は、次のような内容で構成される。
 第1に、金融セクターの発展に関する政策の継続。特に、デジタルと環境面での持続可能性という世界的潮流に対応できるよう、金融セクターの基盤を具体的に整備することを重視する。たとえば、「Your Data」プロジェクトの推進や、効率的で安全性と柔軟性を兼ね備えたデジタル決済システムの開発、実体経済部門がより幅広く金融サービスへアクセスできるよう支援すること、さらにバーチャルバンクの設立を例に挙げた。
 次に、中銀の運営方針として、国民や社会との距離をこれまで以上に縮めることを挙げている。社会のさまざまな立場から寄せられる意見や要望を幅広く受け止め、問題を真に理解したうえで、国民全体と国に利益をもたらすような政策判断につなげていく方針を示した。国民に対してより分かりやすく情報を伝えていくことも重視する。あわせて、経済・金融全体を管理する金融政策を補完する形で、その時々の状況に応じた個別の支援策を講じ、国民や企業を適切に支えることを目指すとしている。不良債権問題の解決を目的とした不良債権の整理回収会社(AMC)を通じた再構成の仕組みを設ける方針で、現在、財務省や金融機関と協議を進めているところ。来年初めにも運用を開始できる見通しだ。
 また、中小企業が適正なコストで融資を受けられるよう、より効果的で柔軟な信用保証制度を整備するほか、借り手のリスクに応じた金利を設定するリスク・ベースド・プライシング(RBP)の仕組みも導入する。さらに、金融サービスに関する各種手数料についても、適正かつ公平な水準に見直していく方針を示した。
 最後に、国民の金融知識と金融リテラシーの向上を、関係機関と連携して推進していく。貯蓄の促進やお金の使い方に関する教育などを通じて、人々がより高い金融面の規律を身につけられるように支援していく。
 中銀は、このような使命の遂行とあわせて、政策や各種の施策を実行することで、タイ経済がバランスよく潜在力を発揮し、国民と国家全体に最大の利益がもたらされることを目指していく。
 ウィタイ総裁は、金融政策に加え、より的を絞った具体的な支援策を併用し、実効的で国民に実感をもたらす支援を行なう方針を明らかにした。金融の安定を維持しつつ、経済を下支えするためのターゲット型政策を継続して実施し、政策全体の効果を高めていくと述べた。
 特に家計債務問題は中銀、政府、財務省、金融機関を含むすべての関係機関にとって最優先課題で、AMCを通じた債務再構成は、社会的AMCモデルに基づいて実施すると強調した。AMCによる債務再構成の枠組みは今月中に取りまとめ、来年初めから実施する。
 財務省の指針に基づき、AMCを通じた家計債務問題の解決では、債務残高が1人あたり10万バーツ以下の不良化した借り手を主な対象とする。この定義に該当する借り手は200万人以上にのぼる見通しだ。対象となるNPLは、商業銀行、政府系金融機関(SFI)、銀行系ノンバンク、独立系ノンバンクの4つのカテゴリーで生じた債務で、段階的に再編を進めるという。
 初期段階では、銀行、銀行系子会社、政府系金融機関の不良債権を対象とする。銀行とその子会社のNPLは国営のスクムウィット・アセット・マネジメント社(SAM)が、政府系金融機関の不良債権は政府貯蓄銀行(GSB)とバンコク商業アセット・マネジメント社(BAM)が共同で設立する「アリAMC」がそれぞれ処理を担う。
 ウィタイ氏は会見で、通貨高対策としてソブリン・ウェルス・ファンドを設立する予定はないと明言した。そのような手段ではバーツ高を抑制する効果は期待できないとし、為替の管理は外貨準備と米ドル建ての海外投資を通じて行なう方針を示した。
 タイ銀行協会(TBA)は、健全なクレジット文化の醸成と健全な借入・貸出慣行の促進を目的として、個人信用スコア制度の整備を提案している。家計債務問題の中長期的な解決策の一環。貯蓄組合や学資ローン基金を含むあらゆる貸金業者に対し、借り手の信用情報をナショナル・クレジット・ビューロ(NCB)に報告する義務を課すことを想定している。金融システム全体でのデータ共有を改善することが狙いだ。TMBタナチャート銀行(ttb)ピティ・タンタカセムCEOは、債務再構成の実行力が高まり、金融システムの透明性が一段と向上すると述べている。

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