バーツ高がタイ経済のリスクに=エークニティ副首相、「許容範囲超え」
外為市場でバーツの騰勢が続いている。バーツの対ドルレートは31バーツ台前半で推移する。エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相は、過度に強く、タイ経済の構造が対応できる範囲を超えて上昇しているとの認識を示した。タイ中央銀行は、バーツの急な上昇に歯止めをかけるため、金取引関連の事業者によるバーツ購入目的のドル売り取引に対する監督を強化した。
エークニティ氏によると、足元のバーツ高は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを決定したことを主因とし、これに伴いタイへの資本流入が増加した結果だという。タイ経済が純輸出に依存する構造であることから、現在の為替水準は経済が合理的に受け入れられる範囲を超えていると指摘した。
バーツは最近、対ドルで4年超ぶりの高値水準に達している。エークニティ氏は、現在のバーツの水準は、タイ経済の構造が耐えられるものではないとし、こうした認識をタイ中央銀行との協議でも伝えたと明らかにした。政府は、国営企業に輸入活動を前倒しするよう指示を出したほか、公的債務管理事務局には外貨建て債務の返済を急ぎ、為替市場に圧力をかけることで、さらなるバーツ高を抑制するよう指示した。
タイ中央銀行は12月15日、金取引業者による先物為替売却取引がバーツのボラティリティを高める可能性があるとして、金融機関に対し、こうした取引の審査を厳格化するよう指示した。中銀は現在、外為管理規則の改正案について一般からの意見聴取を行なっている。改正案では、大口の金取引業者に対し、取引データを当局へ報告するよう義務付け、取引の監視を強化するとともに、バーツへの影響を評価し、適切な政策対応につなげる。
中銀は、商業銀行に対し、金取引業者が外貨を売却してバーツを購入する外国為替取引について、関連書類を厳格に確認するよう指示した。ウィタイ・ラタナコーン総裁は、大口の金取引業者に関する外国為替取引データを中央銀行が取得できる権限を付与するよう財務省に求める方針で、あわせてバーツの購入を目的としたドル売り取引の監督を一段と強化する考えを示した。
ウィタイ総裁は、「特定の時期には、金取引事業による外為取引が全体の20%を占めることがあり、バーツの変動に影響を与えている」と指摘した。中銀は財務省と協議し、取引量が急増し、為替変動に明確な影響を与えているオンライン・プラットフォームを通じた金取引を含め、適切な監督権限の確立について検討していく。
また、望ましくない資本流入や、通常の事業活動や個人の資金移動とは無関係な資金の流入を防ぐため、バーツの購入を目的とした外貨売り取引を精査する方針を示した。商業銀行には、流入する外貨の動きをより厳格に監視するよう求めた。
カシコンリサーチセンター(Kリサーチ)は、ドルが短期的に反発する可能性は低いとして、バーツが近い将来、一段と上昇する可能性があるとの見方を示している。バーツは15日に1ドル=31.5バーツで取引を開始し、前週金曜日の終値31.59バーツから上昇し、4年半ぶりの高値を付けた。中国人民元も同日、オンショア市場で1ドル=7.0508元のレンジで取引され、2024年10月8日以来、約14か月ぶりの高値水準となった。
年初来で見ると、バーツは8.4%上昇しており、主要なアジア通貨のなかで最も高い上昇率となっている。Kリサーチによれば、12月に入ってからも2.5%上昇した。主因はドル安だ。今月初めの利下げを受け、FRBが来年も利下げを続ける可能性が高いとの見方から、ドル売り圧力が強まり、バーツを含む域内通貨が上昇している。これに加え、年末にかけて観光や輸出による資本流入が増える季節要因や、株式・債券市場への投資マネーの流入といった要因も、バーツ高圧力となっている。金取引業者によるバーツの購入を目的としたドル売りが大幅に増加しているという。ただし、金取引業者協会のヂッティ・タンシットパクディ会長は、バーツ急騰の主因が金取引にあるとの見方を否定している。10月に金価格が1オンスあたり4381㌦と過去最高値を付けた後、投機的な価格上昇を受けて取引業者や購入者が慎重姿勢を強め、金取引はむしろ低調になっているとした。金の価格はその後、1オンスあたり4300㌦を下回る水準まで下落している。ヂッティ会長は、今回のバーツ上昇の背景に金価格があるとは考えていないと述べた。
バーツは、世界的な金価格の高騰やテクニカルな要因もあり、域内通貨のなかでも特に速いペースで上昇している。バーツは短期間で1ドル=32.0、31.8、31.6バーツといった抵抗線を次々と突破し、これがトレーダーのパニックを誘発し、ドル売りが続いたことで、さらにバーツ高が進んだ。
FRBの最新のドットプロットは2026年に1回の利下げの可能性を示しているが、Kリサーチは米国経済の脆弱さを背景に、複数回の利下げを予測している。このため、ドルの回復には時間がかかる可能性があるとしている。
短期的に、バーツは1ドル=31.0~31.4バーツのレンジで推移する可能性がある。Kリサーチは2025年末のバーツ相場を1ドル=32.0バーツと予測しており、従来予測の33.7バーツから大幅に引き上げた。ただし、2026年は、タイ経済の減速が下押し圧力となり、1ドル=32.8バーツ程度まで弱含む可能性があるとした。
サイアム商業銀行(SCB)のチーフ・エコノミストのヤンヨン・タイチャルーン氏は、来年第1四半期にかけて短期的にはバーツがさらに上昇する可能性があると予測した。上昇圧力は、米国の利下げといった外部要因に加え、金価格の再上昇など国内要因を理由に挙げている。
ただし、米国が金融緩和サイクルの終盤に近づき、経済成長を背景に資本が米国へ回帰すれば、2026年後半にバーツは下落する可能性がある。また、FRBに対する政府介入を巡る市場の懸念も和らぐとみられ、これらがバーツ安要因になる可能性があるとした。
タイ荷主協議会(TNSC)のタナコーン・カセートスワン会長[=写真]は、バーツ高が輸出部門に、収益、競争力、事業の持続性の面で直接的な影響を及ぼしていると述べた。特に、小規模輸出業者は、コストの大半がバーツ建てである一方、収入は外貨建てであるため、影響が大きいとしている。

TNSCは、為替レートを単なる数値の問題ではなく、国全体の競争力に影響を与える構造的要因と捉えている。世界経済が低迷するなか、経済のファンダメンタルズを超えた急激かつ過度なバーツの変動は、事業運営コスト、金利、物流費が高止まりする状況下で、輸出業者への圧力を一段と高めているとした。
多くの輸出企業が、為替換算後のバーツ建て収入の減少、利益率の縮小、ベトナム、インドネシア、インドなど、バーツほど上昇していない通貨を持つ域内競合国と比べた価格競争力の低下に直面していることが分かったという。
経済の先行き不透明感のなかで製品価格を引き上げることはできず、事業運営や雇用計画、サプライチェーンに影響が及んでいる。タナコーン氏は、問題の核心は、バーツの水準ではなく、過度な変動を抑え、特に金融商品へのアクセスに制約がある中小企業が為替リスクを効果的に管理できるよう支援することだと強調した。
TNSCは、輸出業者がコスト構造改革、市場の多角化、価格競争への依存を減らすことと並行して、為替ヘッジ手段の活用を含む適切な為替リスク管理を重視すべきだと指摘した。また、製品の品質、基準、信頼性に一層注力する必要があるとした。
TNSCは、政府ならびに関係機関に対し、金融、財政、通商政策を連携させ、バーツの安定を維持しつつ、短期的な変動圧力を抑制すること、適正コストでの為替リスク管理手段へのアクセスを改善し、体系的なリスク管理に関する知識を高めることで輸出業者を支援するよう提言した。長期的には、価格競争から価値創出、ブランド構築、技術、イノベーション主導へと輸出構造の高度化を加速させ、輸出部門の競争力を強化し、将来の為替変動に対する脆弱性を低減させる必要があるとしている。
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