2025年12月18日(木)号

タイ中銀の金融政策委員会=政策金利0.25%幅引き下げ

 タイ中央銀行の金融政策委員会(MPC)は12月17日の政策決定会合で、政策金利を年率0.25%幅引き下げ、年1.50%から年1.25%とすることを全会一致で決定し、即時適用した。書記を務めるサッカポップ・パンヤーヌクン総裁補[=写真]が会見で発表したところによれば、MPCは経済の減速傾向が明確となり、リスクが高まる状況から、金融政策をさらに緩和する余地があると判断した。


 MPCによれば、2026年と2027年のタイ経済が、2025年上半期と比べて鈍化する見通しにある。民間消費の伸びが所得動向に沿って減速するほか、米国の関税措置の影響を受けて輸出部門が圧迫される。観光部門の回復は緩やかなペースにとどまっている。
 一般インフレ率は、主にエネルギー価格と生鮮食品価格の低迷により低水準で推移する見通し。また、経済成長が潜在成長率を下回る状況にあるため、デマンドサイドからのインフレ圧力も限定的になっている。貸出は引き続き縮小し、脆弱な借り手向け債権の質は低下している。特に中小企業は、資金アクセスの問題とバーツ高から資金繰り面の圧力を受けている。
 金融緩和を通じて経済の回復を下支えし、脆弱な層の債務負担を軽減するとともに、政府による財政措置やその他の政策の効果を高めるため、今回の会合では政策金利を0.25%幅引き下げることが適当と判断した。
 タイ経済は、2025年、2026年、2027年にそれぞれ2.2%、1.5%、2.3%の成長が見込まれている。2025年後半の経済は、製造業における一時的要因、近距離市場からの観光客数の減少、ならびに南部で発生した大洪水により減速しており、来年初めまで経済活動に影響を及ぼすものとみられる。
 2026年の経済は、所得動向に沿った民間消費の減速や、米国の関税措置の影響を受けた物品輸出の減速により、今年を下回る成長となる見通しだ。一方、観光部門は段階的に回復していくとみられている。
 2027年の経済は回復基調に向かうものの、依然として潜在成長率を下回る水準にとどまると予測した。主な牽引役はサービス業の回復だが、物品輸出と製造業は激しい競争の影響を受け、引き続き圧力にさらされる。
 また、追加導入される可能性のある米国の関税措置、2027年度予算の編成プロセスの遅延、競争環境や資金アクセスの問題に直面している中小企業を中心とした企業部門の状況といったリスクを注視する必要があると指摘した。
 MPCは、タイ経済の低成長の一因が構造的要因にあるとの認識を示しており、企業部門の競争力を高めるためには、複数の政策を組み合わせて実施する必要があるとしている。
 2025年、2026年、2027年の一般インフレ率は、従来の予測から下方修正され、それぞれマイナス0.1%、プラス0.3%、プラス1.0%となる見通し。2027年上半期には誘導目標範囲に回帰すると見積もった。
 インフレ率が低水準にとどまるのは、世界的なエネルギー価格の下落と政府による生活費補助策に加え、デマンドサイドからのインフレ圧力が限定的なことにある。ただし、商品・サービス価格が広範に下落していないことから、デフレリスクは低い水準にとどまっていると強調した。サッカポップ氏は、デフレリスクを引き続き注視する方針を示した。
 2025年、2026年、2027年のコアインフレ率は、それぞれ0.8%、0.8%、1.0%と予測。おおむね横ばいで推移する見通しにある。一方、中期的なインフレ期待はやや低下しているものの、依然として目標レンジ内にとどまっている。
 金融機関システムと金融市場における金利は、これまでの政策金利の引き下げに沿って低下しており、企業部門と家計の金融コストが低下し、債務負担の軽減に寄与している。とは言え、与信は引き続き収縮している。金融機関は、信用リスクの高い債務者、特に中小企業や低所得世帯に対する融資に依然として慎重な姿勢を取っている。貸出の減少は、高い不確実性のもとで民間部門の支出と投資が減速していることを反映している可能性もあると指摘した。MPCは、与信状況を引き続き注視するとともに、脆弱な層を支援するための的を絞った金融措置を後押しするとした。
 バーツの対ドルレートは、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利見通しの修正とタイ固有の要因を背景に、域内通貨のなかで最も速く、高いペースで上昇している。MPCは、バーツ相場の動きを注意深く監視するとともに、バーツ相場に有意な圧力を及ぼす取引に対する対応策を検討する必要があるとした。
 MPCは、物価安定の維持を主な目的とし、持続可能な経済成長の支援と金融システムの安定確保をあわせて追求する金融政策運営の枠組みのもと、経済の回復を支えるため、金融政策は緩和的な水準にあるべきと判断している。今後、経済・金融情勢と関連するリスクの動向を注視し、経済とインフレ見通しの変化に応じて金融政策を適切に調整する用意があるとした。ただし、その際には、長期的な金融システムの安定の維持と、予期せぬ事態に対応するうえでの金融政策の限られた余地にも配慮する必要があるとしている。

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