2024年7月3日(水)号

EVの価格競争激化=BYD「ATTO3」も値下げ

 EV市場での価格競争が激しさを増している。国内EV市場首位のBYDがエントリーモデルの「ドルフィン」の期間限定での大幅値下げに続き、フラッグシップ・モデルの「ATTO3」でも7月末までの期間限定で値下げキャンペーンを開始した。
 BYDは「ドルフィン」で14万~16万バーツの値下げキャンペーンを6月末まで実施。「ATTO3」では9万~34万バーツの値下げキャンペーンを開始した。BYDがキャンペーンを発表した直後、NETAはエントリーモデルの「Neta V-Ⅱ」を5万バーツ値下げした。価格は発売当初の54万9000バーツから49万9000バーツに下がっている。
 EVの価格競争の影響はエンジン車やハイブリッド車の市場にも及びそう。EV市場でも、ドルフィンやATTO3以外のモデルを買い求めようと考えている者が、もう少し待てば価格はさらに安くなると考え、購入を躊躇するようになり、負の影響が及ぶ。
 BYDはこれより前、「ドルフィン」で4月末まで4万90バーツの割引キャンペーンを実施しており、キャンペーンで駆け込み購入した消費者からの苦情が殺到している。キャンペーンが終了した後も価格は定価に戻されることなく、無料特典でさらに1万バーツの実質値下げがなされていた。
 消費者保護委員会の委員長を務めるヂラポン・シントゥプライ総理府相は7月2日、消費者保護委員会事務局にBYDのキャンペーンが1979年消費者保護法と広告内容の規制を定めた2021年省令に抵触していないかの調査を命じている。

ヂラポン・シントゥプライ総理府相


 タイ国内の新車市場は1~5月合計の販売台数が26万台にとどまり、前年同期比で24%減少している。乗用車の販売台数は10万台、18%減、タイの自動車市場の主力車種である1トン・ピックアップ・トラックは10万台、41%減と厳しい状況にある。5月単月では新車市場は5万台を切るまでに収縮している。EVに限っても5月の販売台数は5573台で、前年同月比28.8%減となっている。
 EV市場は年初来、勢いに陰りが見えている。陸運局のデータによると1月のEVの新規登録台数は1万3231台を記録したが、これは政府のEV普及促進策「EV3.0」が定める要件にしたがって登録が加速したことが理由。物品税率2%、販売補助金15万バーツの特典が得られる「EV3.0」は、今年1月末までに登録された車が対象になっていた。2月には反動からEVの新規登録台数は3530台に激減。3月は4722台、4月は4009台にとどまっている。5月は5274台。昨年のEVの新規登録台数は7万6000台。1~5月の売れ行きからは今年の登録台数は前年並みにとどまる可能性もある。
 一方、EVメーカー各社の今年の販売目標を見ると、BYDは5万台、NETAは3万台、GACアイオンは2万台、長安は2万~3万台を見込んでいる。このほかにもMGや長城(GWM)の先行2社、オモダ、ヴィンファストなどの新規参入組もあり、今年通年のEV市場規模が10万~13万台に達しても、各社の販売目標の達成は難しく、価格競争の一因になっている。

◆EV保険にも異変

 タイ国内のEV市場には新たなリスク要因も浮上している。タイ自動車工業会(TAIA)のスワット・スパカーンデーチャクン会長によれば、2つの保険会社がEVに対する保険の提供を中止した。2社の社名は明らかにしていないが、東京海上保険(タイランド)は7月1日から新規顧客へのEV保険の提供を事実上停止した。保険料率の調整が必要なためと説明しており、既存顧客は更新できるほか、新規についても問い合わせがあれば担当者が保険金額を検討し、個別に保険料率を提案するとしている。
 スワット会長は、EVメーカーとタイ損害保険協会の緊急会議を開き、EV保険の問題を調査すると述べている。保険業監督委員会事務局(OIC)筋は、EV保険提供の取りやめを正式に発表した保険会社はないとし、23の保険会社がEV保険を提供しているとした。東京海上保険(タイ)のEV保険停止の報道は誤解があった可能性があると指摘している。タイ損害保険協会のソムポーン・スープタウィンクン会長は、会員保険会社にEV保険料の計算方法の提示を求めていると述べた。
 欧米や中国、日本におけるEV保険は、エンジン車よりも30~40%割高な保険料設定になっている。現在、タイで販売されているEVの大半は中国からの輸入で国内で生産されているものは少ない。国内のEV市場は価格競争に突入しており、車両価格の下落も保険料の算定に影響を及ぼしている可能性がある。EVはバッテリーの経年劣化のため、エンジン車と比べて価値の劣化ペースが速く、保険料の算出はエンジン車よりも複雑になる。

エナジー・アブソルート=財務の健全性を強調

 エナジー・アブソルート(EA)社のソムポート・アフナイCEOとアモン・サップタウィクン副CEOは7月2日に開いた記者会見で、EAの財務状況が健全なことを強調した。ソムポート氏は1日の自身の株式売却に関する釈明会見から2日連続で会見した。
 EAは元々、再生可能エネ発電企業で、太陽光/風力発電の売電料金加算期間が徐々に終了することで、キャッシュフローが減少している。ソムポート氏はこの問題について、新しいものではなく、加算金がなくなっても、売電収入は定期的に入ってくることを強調した。
 ソムポート氏によれば、ロッブリ県の8メガ㍗、ナコンサワン県の90メガ㍗の加算金は23年に終了しており、ラムパーン県の90メガ㍗は25年、ピッサヌローク県の90メガ㍗は26年に終了する。風力発電はハートカンハンの126メガ㍗が27年、ハヌマーンの260メガ㍗が29年に終了する。ロッブリとナコンサワンの2件は昨年来、加算金はなくなったものの、引き続き売電収入は計上されている。売電収入は25年から29年にかけて徐々に減少し、年間90億バーツから50億バーツに下がるが、加算金収入がなくても基本売電料金は十分に高く、キャッシュフローに貢献するとした。
 アモン氏は、EAが借入金の返済や社債の償還に問題を抱えていないことを強調した。懸念されるのは今年8月に返済期限を迎える15億バーツの社債だが、財務は健全で問題はないとした。TRISレーティングによる格付も「BBB+」の評価で、償還の準備は整っていると語った。
 EAの私募発行の新株をカニット・シーワチラプラパー氏(ネクスポイント社CEO)が引き受けていることに関して、ソムポート氏は、EAの事業推進に必要であればカニット氏による追加資本注入の意思を確認していると述べた。
 EAが東南アジアで最初に手掛けたリチウムイオン・バッテリー事業は、バッテリーの価格が下落しており、投資家が同社の競争力に懸念を抱いている。これについては、EAと台湾のパートナーがこの問題を認識し、生産工程で使用する技術を研究し、改善を続けてきたと述べ、コストは競争可能なレベルまで削減できたと説明している。
 新規事業では廃棄物発電への投資を増やしている。プーケットでの廃棄物発電は出力9.9メガ㍗で、26年までに完成予定。タイ空港社(AOT)、バンコク航空燃料サービス社(BAFS)と提携し、使用済み食用油からの持続可能な航空燃料(SAF)製造にも進出する。日量10万㍑の工場は今年第3四半期にも完成する。
 タイ・スマイル・バス社の電動バスは合計2000台が運行しており、現在の乗客数は1日あたり35万人で、向こう1年以内に損益分岐点に達する見通し。商用EVではネクスポイント社(NEX)が国内市場の首位を走る。ソムポート氏は、NEXの大規模増資には十分な資金を用意したとしている。
 海外事業ではラオス政府と持ち株会社を設立し、同国での再エネ関連事業を拡張していく。

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