2024年7月5日(金)号

タイの潜在成長率は3%=中銀総裁が構造改革訴え

 タイ中央銀行のセータプット・スティワートナルプット総裁[=写真]は7月4日に開いた記者会見で、タイ経済の潜在力には制約があるため、景気刺激策を濫発しても成長率が加速するわけではないと述べ、経済の構造改革の必要性を訴えた。政策金利についは、調整の扉を閉ざすつもりはないが、現在の金利は適切なレベルにあると強調した。インフレ目標の枠組の修正についても信頼感に影響を及ぼすおそれがあるほか、債券利回りへの影響も懸念されると述べた。


 セータプット総裁は、現在のタイ経済が潜在成長率を下回っていること、家計、企業、政府のすべての経済主体の債務が高水準にあることを指摘。すべての関係者が正しい情報に基づき問題を理解し、解決に向けて協力することが重要だと述べた。コロナ危機からのタイ経済の回復は、世界各国と比べて回復のペースが遅いものの、経済は緩やかな拡大を続けており、徐々に潜在成長率に戻すと説明した。タイ中銀の経済に対する見方が楽観的で、国民の苦しみを見ていないという批判の声に対しては、「経済の回復は全体的な数字に過ぎず、そこには多くの名もなき人々の困難や苦しみが隠されていることを理解している」と述べた。またインフレ率が低くても商品の価格が下がるわけではなく、5年前に比べればエネルギー、食品などの価格が高騰し、家計債務の増加と合わせて国民の生活を圧迫していることにも言及した。
 一方、産業部門も構造的な問題の影響を受けている。競争が激化し、かつての花形だった繊維・衣料、石油化学、ハードディスクドライブ(HDD)などは技術変化や世界の新たな潮流に対応できないでいる。
 総裁はタイの潜在成長率について約3%とした上で、いずれこの水準に戻すが、それ以上の成長を実現したいのであれば構造改革が必要だと指摘。経済を刺激するだけでは実現できないとした。
 タイ中銀はインフレ・ターゲットの枠組のもとで、金融政策を柔軟に運用していると述べ、現在の年2.5%の政策金利は、今後の情勢の評価から見て適切な水準だと説明した。その一方で、様々な要因が変化した場合には、金利の調整を検討する用意があることを付け加えた。政策金利の設定においては、インフレだけを考慮しているわけではなく、経済成長と金融の安定を考慮。インフレ率が低いから金利は下げなければならないという型にはまったものであるなら、金融政策委員会(MPC)は不要で、AIに任せればいいとも述べた。

タイの潜在成長率=世銀は2.7%と推定

 世界銀行のキアッティポン・アリヤプルット上級エコノミストは7月3日、世銀のタイ経済モニターに関するセミナーで、24年と25年のタイのGDP成長率を2.4%、2.8%と予測していることを明らかにした。セーター政府が計画しているデジタルマネー給付の効果を含めないもので、実施されれば短期的に成長は加速する可能性があると見ている。
 キアッティポン氏によると、世銀は23~30年におけるタイの潜在成長率を2.7%と推測している。人口の高齢化と生産性の伸びの鈍化により、過去数十年と比べて0.5%低下する。このような潜在成長率の低下はタイに限ったものではなく、アジア太平洋地域全体に見られる現象で、21年までの過去10年間の6.2%から4.8%に低下すると推測している。タイが中期的に国のポテンシャルを2.7%以上に向上させるためには、老朽化したインフラへの投資を強化し、グリーン経済を推進する必要があると指摘した。
 キアティポン氏は、政府投資の増加により、タイの公的債務は2025年度までにGDPの64.6%に上昇すると予想している。政府の中期財政枠組に沿って28年時点では68.6%まで上昇する。財政の強靭性を高める必要があり、脆弱な層を効果的に支援し、貧困を緩和するためにも、より対象を絞った政策に焦点を当てるべきだと指摘した。セーター政府は財政の持続可能性と短期的な経済刺激策を両立させるという課題に直面しているが、キアティポン氏は税収を引き上げ、財政政策の余地を作り、投資を加速させる余地があると述べている。長期的に潜在成長率は財政改革を通じて上昇する可能性もあるとした。
 今年第1四半期のタイの経済成長率は1.5%にとどまった。外需の低迷により物品輸出は2%減、製造業の生産は3%減となった。24年度政府予算法の施行遅れにより、政府投資と政府消費はそれぞれ27.7%、2.1%減少している。キアティポン氏は、過去3か月間、タイの景気後退(リセッション)の可能性を懸念していたが、今は経済が底を打ち徐々に回復すると見ている。もはや景気後退について心配していないと述べた。
 またTier2都市への政府投資は、タイの長期的な経済成長を支援するとした。地方自治体が都市計画、インフラ開発、長期的な資金調達で権限を与えられ、土地・建物税などを通じて財源を確保できるようにする必要性を指摘している。

BYDのタイ工場が開所=東南アジアの輸出拠点に

 BYDは7月4日、WHAラヨン工業団地に開発したEV組立工場の開所式を執り行なった[=写真]。BYDにとって中国国外で最初の本格的な生産拠点で、東南アジア市場への右ハンドル車の輸出拠点に位置付けている。
 工場建設に要した工期はわずか16か月。設備能力は年間15万台。フル稼働時には1万人を雇用する。工場のほか地域統括本社も設立し、研究開発にも投資する予定。投資委員会(BOI)からは、EV組立、バッテリー組立、トランスミッション・システムなど合計9件のプロジェクトで認可を受けており、合計投資額は350億バーツに達する。


 現在、タイ工場の従業員は1500人。中国人とタイ人の比率は1対5で、今後はタイ人の割合が増えていく見通し。組み立てるのは「ドルフィン」と「ATTO3」で、1台の車がラインを出るまでのタクトタイムは2分。将来の生産計画には「SEAL」、「C Lion 6」が含まれるもよう。
 BYDはタイ国内のEV市場で首位。総販売代理店を務めるレバー・グループが22年4月に「ATTO3」の販売を開始し、現在までに販売網は全国115か所に達している。2年前にタイ市場に参入したばかりだが、認知度は急速に高まり、EV市場で18か月連続で首位を保っている。レバー・グループのプラターンウォン・ポーンプラパーCEOは、今後もEV市場の成長を確信していると述べた。
 ナリット・トゥードサティラサックBOI事務局長によれば、BYDはブラジル、ハンガリー、ウズベキスタンに組立工場を持つが、バッテリーなどの重要部品、充電システム、ソフトウェア、アプリケーションを含めたソリューションに投資する海外拠点はタイが初めて。BYDの投資はタイ政府のEV産業振興政策に応えるもので、将来的にさらに多くの投資を呼び込むことができると期待している。
 タイ観光公団(TAT)は今年第2四半期(4~6月)の観光業の業況感調査結果をこのほど発表した。第1四半期に81ポイントだった業況感指数は79ポイントに下落した。前年同期の72ポイントよりは改善したものの、コロナ前の水準には回復していない。当初、第2四半期は第1四半期よりも業況が好転すると予想されていた。政府の予算執行が本格化するためだが、政府予算による景気刺激の成果はまだ見えてこない。
 第2四半期はソンクラン連休があったものの、全般的に気温が高く、5月以降は雨季入りしたこともあって観光ローシーズンになっている。今年はソンクランのイベントが全国で例年よりも盛大だったこともあって、業況感指数は前年同期との比較では改善した。
 第3四半期の先行指数(見通し)は75ポイントで、第2四半期からさらに下落している。ローシーズンであることが理由で、毎年この時期は業況感が低下する傾向にある。前年同期は69ポイント。工場の相次ぐ閉鎖で失業者が増える傾向にあることや家計債務の膨張など消費者の購買力が低下していることも背景にある。
 タイ観光連盟が月収1万バーツ以上の全国の男女450人を対象に実施した調査では、第2四半期に旅行で費やした費用(交通費を除く)は1人1回あたり平均2683バーツで、第1四半期の6856バーツから大幅に減少した。宿泊日数は平均4.79泊。第1四半期の3.38泊を上回った。第3四半期見込みは4.55泊。第3四半期に旅行を予定している人の割合は54%で、前回、前々回調査で第1、2四半期の旅行予定を聞いた同様の設問の74%、64%を下回った。33%は「まだ分からない」、10%は「予定していない」と回答した。第3四半期の旅行予定先は居住している地方とは別な地方と答えた人が75%で、東部、東北部、南部が人気だった。時期は7月が75%、8月が69%、9月が48%。
 海外旅行では第1四半期に旅行を予定した人が23%で最も多く、第3四半期中に予定している人は16%。旅行先の人気は日本、ベトナム、中国。
 調査では家計支出についても調べており、回答者の58%がコロナ前よりも支出が増えたと回答した。80%が負債を抱え、額は平均して所得の33%に達している。36%は「債務を返済する充分な所得がない月がある」、3%は「慢性的に債務返済するための充分な所得がない」と答えている。54%は「毎月手元にいくばくかの金が残る」、38%は「月末までに使い切ってしまう」、6%は「所得が支出に追いつかない」、2%は「充分に余裕がある」と回答した。
 旅行に割く費用や時間については、49%が「旅行する頻度を減らしているが、旅行した際の出費は変わらない」、25%は「頻度も出費も以前と変わらない」、19%は「頻度は変わらないが出費は抑えている」、4%は「旅行を控えている」と回答した。

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