2024年9月17日(火)号

来る超高齢社会に備えて=国民の貯蓄が政策課題に

 ペートンターン新政権は国民の貯蓄振興を政策課題の一つに掲げている。すでにタイは高齢社会になっており、超高齢社会が目前に迫っている。そこで老後の生活を保障するための充分な貯蓄を国民各層が若年期から始めるよう促す。政府は懸案となっている家計債務の削減と並行して貯蓄を奨励していく方針で、政府系金融機関を通じて国民の金融リテラシーを高め、貯蓄の重要性を訴えていく。
 現行の年金制度では被雇用者に社会保険加入が義務付けられているが、農民や自営業者などインフォーマル・セクターで就労する約1960万人の労働者には加入義務がない。こうした社会保険の対象外の労働者は就労人口の52%を占めている。
 国家経済社会開発評議会(NESDC)の報告によると、タイは昨年時点ですでに高齢社会に突入、2033年には超高齢社会になる見通し。しかし高齢者の貯蓄は老後の生活を保障するのに充分とはいえない状況にある。都市部の60歳以上の高齢者が老後に必要な資金は最低でも400万バーツ、農村部では280万バーツと試算されている。老後の所得を養老年金のみに依存する者は1400万人に達すると予測され、貯蓄奨励に特に力を入れる必要がある。
 貯蓄奨励は、既存の制度である社会保険への加入を奨励することから着手する。インフォーマル・セクターの労働者も加入しやすいようにするほか、保険料率や養老年金支給額の算出法を見直す。年金の算出ベースとなる所得上限(現在は1万5000バーツ)を引き上げることで、加入者にとって魅力ある制度にしていく。さらに老後の所得向上に向けた再就職・再雇用、起業等の機会を増やし、財務管理能力の向上も支援する。
 ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相は、若年層が就労当初から貯蓄を始めることの重要性を指摘。貯蓄制度を充実させる方針を打ち出した。
 国民貯蓄基金は任意の貯蓄制度で、社会保険の老齢年金受給対象外の者の受け皿になっている。加入対象は15~60歳の社会保険や公務員年金基金に加入していない一般国民。保険料は月50バーツからで、年間3万バーツまで。政府が1人あたり年間で最大1800バーツを上乗せする。60歳以降は最高で月額1万2000バーツの年金が支給される。基金に拠出する保険料は所得控除の対象になる。
 養老貯蓄宝くじという新しい形式の貯蓄手法も採り入れる。1人あたり月額3000バーツ(60枚)を上限に1枚50バーツの宝くじを購入できる。当選番号の抽選を毎週金曜日に実施、1等賞金は100万バーツ(5枚)、2等賞金は1000バーツ(1万枚)。くじの購入代金は国民貯蓄基金に貯蓄され、60歳を超えれば引き出すことが可能。くじ導入には国民貯蓄基金法の改正が必要で、現在、改正法案の策定作業中。近く閣議に提出し、内閣の承認を経て国会に提出する。早ければ来年第1四半期中に成立できると見ている。
 タイESGファンドはESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する持続可能な事業への投資信託ファンド。投資口の購入代金が年間30万バーツまで所得控除の対象になる。少なくとも5年間は投資口を解約できない。年末に所得控除目的に購入する人が増える。
 9月16日から20日までの期間で募集を始める「ワユパック・ファンド1」も、老後に向けた資産形成の選択肢の一つになる。ファンドはSET上場銘柄への投資で運用する。対象となるのはファンダメンタルズが良好なSET100指数指定銘柄やSET・ESGレーティングで高いスコアを獲得している企業。年3.0%の利回りが保証され、運用成績次第で最高年9.0%のリターンが得られる。ファンドの運用期間は10年。1口あたり10バーツで、1000口1万バーツから購入できる。10月7日にはタイ証券取引所(SET)に上場する。投資口の販売窓口はクルンタイ・アセット、MFCアセットのほか、バンコク銀行、クルンタイ銀行、アユタヤ銀行、カシコン銀行、サイアム商業銀行、政府貯蓄銀行の6行。個人投資家の資産運用の選択肢とすることを重視しているため、機関投資家よりも個人投資家を優先する。
 養老預金口座(IRA)も財務省が新たに導入を検討する貯蓄手段の一つ。就学中の若者でも開設が可能な口座で、1つの口座で国債購入やファンドへの投資など多様な資産運用が可能で、資産形成を支援する。口座資金の運用によるキャピタルゲインや利息収入の所得控除も検討する。
 タイ開発研究所(TDRI)のノナリット・ピサラヤブット研究員は、IRAが社会保険などの他の選択肢と違って、預金額などで自由度が高く、国民の貯蓄意識を高める有力な選択肢になると見ている。ただし大多数の国民は貯蓄する習慣がなく、所得が少ない人は貯蓄に回せる資金も少ないことから、自由が利かない社会保険のような選択肢も必要と指摘、「IRAは他の選択肢との相違点、共通点、メリット・デメリットを慎重に比較検討した上で導入するのが望ましい」と述べている。また運用による資産形成については一般国民が独自にすることは難しく、「ワユパック・ファンド」のように運用のプロに任せる仕組みを活用するのが望ましいと見ている。
 ワラーウット・シラパアーチャー社会開発・人間安全保障相は9日、「ACMAビジネスフォーラム2024」で講演し、1995~96年に2.02人だったタイの合計特殊出生率(1人の女性の生涯出産数)が昨年は1.1人へとほぼ半減していることを指摘した。新生児は51万8000人だったのに対し、高齢者人口は1300万人に達している。「政府による高齢者福祉は財政破綻の可能性が高まり、家庭は崩壊していく。生産年齢人口が減ることはタイの競争力の低下につながる」と警鐘を鳴らしている。

北部・東北部の洪水被害=被災者援助実施本部を設置

 ペートンターン首相は9月16日、洪水被災者への援助金支払いの加速と緊急警報システムの構築を約束した。同日、首相官邸に関係機関の代表を呼んで洪水被災者の救助と水が引いた後の復興計画について協議し、プームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼国防相とアヌティン・チャーンウィラクン副首相兼内相が統括する洪水被災者援助実施本部の設置を決定した。
 首相は国の既存の基準に基づく見舞金給付について、洪水が引き起こした被害に比して少なすぎるとの見解を示し、より多くの援助金を支払うことを可能にするため、基準の改定が必要だと指摘した。首相は13日のチェンライ県メーサーイ郡視察の体験をもとに洪水の被害は想像を超えるものだったと述べている。
 政府は洪水の影響を受けた地域に限定し、9月の水道料金と電気代を免除し、10月は30%割り引く措置を実施する方針。家屋の修繕費についても援助を検討する。

 セル・ブロードキャスト

 首相は、携帯電話などの移動通信端末に災害や安全に関する情報を一斉同時配信する「セル・ブロードキャスト」を設けるための予算配分を約束した。緊急時の警報システム開発はセーター前政権が着手しており、来年半ばまでには導入される見通しになっている。今年3月にはAIS、7月にはトゥルー・コーポレーションに対し、国家放送通信委員会(NBTC)が実証試験の結果を踏まえて実用化にゴーサインを出している。
 警報は外国人観光客を含むタイ国内のすべての携帯電話ユーザーに送信される。タイ語のほか、英語、中国語、日本語、ロシア語による文字/音声メッセージと画像が配信される。

 経済的損失は590億バーツ

 農業・協同組合省灌漑局によれば、洪水被害は16日時点でチェンライ、ピチットなどの北部、ノンカイ、ナコンパノム、ルーイなどの東北部、シンブリ、チャイナート、アントーン、アユタヤなどの中部に広がっている。
 CIMBタイ銀行調査部のアモンテープ・チャワラー主任は、北部その他地方の洪水の経済への影響について、現時点では限定的で、2011年のような深刻なものではないが、近隣国からの放水によるリスクや暴風雨により被災地が拡大するおそれを指摘した。洪水の被害はGDPの0.1~0.3%と見積もった。洪水被害そのものは11年ほど深刻ではないが、家計の債務が当時とは比べられないほど膨張しているため、被災者が被る影響は大きくなると指摘。脆弱な層への資金援助の必要性に言及している。
 アユタヤ銀行調査部は3つのシナリオで経済的損害を試算した。最も影響が小さいシナリオで被害額は330億バーツ(GDPの0.19%)、ベースケースで465億バーツ(同0.27%)、最も深刻なケースで590億バーツ(同0.34%)と見積もった。

 近隣国との治水協力

 マリット・サギアムポン外相は、ミャンマー当局とタチレク/メーサーイの洪水を軽減するため貯水エリアを拡大させる方法について協議する考えを明らかにした。サーイ川氾濫は大雨によるものだが、タイ、ミャンマー両岸で川に沿って建物が建設されたために川幅が狭く、浅くなって排水効率が低下したことも一因。長期的に洪水を予防するため、外相はメコン・瀾滄協力枠組を通じた治水分野協力の提案準備を進めていると明らかにした。
 なおメコン川氾濫による東北地方の洪水では、在タイ中国大使館がメコン川の増水は景洪ダムからの放水によるものではないとの声明を出している。また洪水対策でメコン諸国との協力を強化する用意があると付け加えた。

「ローソン108」=シーロム通りに旗艦店

 コンビニ「ローソン108」をチェーン展開するサハ・ローソン社は9月12日、シーロム通りのユナイテッド・タワー地階に旗艦店をオープンさせた。ローソンは11年前にサハ・グループと提携してタイ1号店を開店した。


 旗艦店は日本の店舗に似た内装の200平米の広々とした店舗で、顧客が座って休憩するスペースなども用意、居心地が良く、長居できる店づくりを重視した。品揃えも日本のローソンで扱っている商品を直輸入するなどして差別化を図る。おでんや店頭で調理した惣菜・弁当類、スイーツなど、すでにタイ人になじみのある商品に加えて、「Lチキ」、北海道牛乳を使ったジェラート、ローソン・カフェ専用のコーヒー豆を使った「チャンピオン・カフェ」など、旗艦店限定で取り扱う商品も揃えた。
 ウェーティット・チョークワタナー取締役は、「いつものコンビニとは違う体験ができる店」と自信を見せている。11周年記念セールとして「11」シールを貼った商品60バーツ以上を買い上げた客に賞品が当たる抽選券を配布する。賞品は1等が4泊6日の日本旅行招待券(1枚12万バーツ相当)が2枚、2等は金(1本当たり1万1000バーツ相当)が22本、3等は3000バーツの商品券40枚。
 同取締役は今後も首都圏を中心に出店攻勢をかける意向を示している。高級感のある差別化された商品を提供していく考え。
 ローソン108の店舗は約300店。今年末までに520店を目指すが、店舗数よりも利益を重視する経営戦略を打ち出している。
 コンビニ事業は競争が激しく、外資系を中心とする多くのチェーンが撤退を余儀なくされている。ウェーティット取締役はローソン108が昨年に初めて黒字化を達成したことを明らかにし、数千規模の店舗数を追い求めたビジネスモデルを再考する契機になったと述べている。利益を出すのに多くの店舗は必要なく、ターゲット層を絞ってサービスを提供することで収益性を高めることができると判断した。この経営戦略を具現化したのが旗艦店。日本への旅行を好むタイ人が現地で好んで商品を購入する日本のコンビニを目指す。この消費者集団は支出額も大きく、より高級な商品を購入する傾向にあるため利益率は高い。

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