タイ中央銀行発行の『ビジネス・アウトルック・レポート』23年第4四半期版より
2、東北地方の業況と見通し
23年第4四半期(10~12月)における東北地方の業況は、全体的には前年同期と比べ悪化した。輸出向け製造業は貿易相手国経済の減速に加え、これより前の時期に在庫投資を加速させていた顧客の在庫調整により収縮した。商業と不動産業は収縮した。高水準にとどまり続ける生活費と家計債務の負担から消費者が支出に慎重になっている。加えて、金融機関も慎重に融資査定を行なっている。サービス業と観光は、旅行シーズン入りにともないイベントの開催が増え、規模も大型化したことを受け成長した。
前四半期との比較では、企業の業況は全体として上向いた。商業その他サービス業は年末の連休シーズンに向けてイベント開催を増やし、不動産業は300万バーツ超の価格帯の住宅販売が伸びた。ただし多くの企業は、引き続き高水準にとどまるコスト圧力に直面した。雇用は全体として横ばい。多くの企業は、従来と近似した水準に従業員数を維持しようと努めた。投資は横ばいだった。業況がまだ十分には回復していない。
◇製造業と輸出
製造業は、前年同期、前の四半期と比べ収縮した。輸出向け製造業は、ハード・ディスク・ドライブやテレビ受像機、カメラ部品、携帯端末といった電子製品の生産が収縮した。中国を中心とした貿易相手国の経済が減速を続け、予測よりも回復が遅れる見通しにあることが影響している。加えて、以前に在庫投資を急いでいた顧客の在庫調整にも直面した。食品/飲料の生産は、貿易相手国経済の減速にともない収縮した。国内販売も、ミドル~ローエンドの顧客の購買力がまだ十分に回復していないことに加え、競争の激化による下押し圧力に直面している。このほか、例えば豚肉加工品の生産といった一部の業種は、供給過剰による販売価格の下落に直面した。農産物加工品の生産は特に砂糖と米が水不足の影響を受けた。タピオカ製品の生産はキャッサバ・モザイク病の蔓延による原料不足に直面した。一部の事業者は、代わりに他地域から原料を調達することで対応した。衣料の生産は、顧客の在庫の減少を受け、外国からの受注が拡大したため、成長に転じる兆候が見え始めた。
◇商業と消費
商業は前年同期と比べ収縮した。生活費と家計債務の負担がなお高水準にとどまり続けていることによるもので、消費財の売上が減少した。支出に慎重になっている消費行動が背景にある。自動車/自動二輪車の販売台数は、商用車、乗用車、自動二輪車のいずれも減少した。金融機関の融資査定の厳格化も一因である。大規模小売店舗における衣料など半耐久財の売上は増えた。ただし多くは高い購買力を持つ顧客層の消費行動によるものである。前四半期比では、年末の連休シーズンに拡大する消費需要に対応するための販促活動の増加にともない、やや成長した。とりわけ大規模小売店や観光地の飲食店が売上を増やした。農家の購買力も上昇した。例えば稲作農家の支援プロジェクトを通じた1ライあたり1000バーツの資金支援といった、政府の援助措置から恩恵を受けた。
◇不動産業と建設
不動産業は、デマンド・サイドからの下押し圧力により前年同期と比べ収縮した。家計債務がなお高水準にとどまっている影響を受け、特に価格帯が300万バーツ以下の住宅の顧客層で購買力と債務の返済能力が低下した。この層は東北地方の顧客の大部分を占める。加えて一部の顧客は、政府の不動産刺激策が明瞭化するのを待って購入の決断を手控えている。こうした状況を踏まえて、サプライ・サイドでも事業者が景気の先行きを見定めるために、これより前の時期と比較して新規プロジェクトの発表を手控えるようになった。
前の四半期との比較では、不動産業は300万バーツ超の価格帯の住宅を中心に、実際の居住を目的に購入を希望する顧客により成長することができた。事業者も販促活動を継続的に実施した。従来は定期的な所得のある顧客層のみを重視していた金融機関によるフリーランスに対する融資の検討も見られるようになった。例えば、オンラインでの商品の販売業者やインフルエンサーは所得が増えている。
◇サービス業と観光
サービス業と観光は、前年同期、前の四半期と比べ成長した。主要県、観光県を含む多くの地域でタイ人観光客が増えたことにより、宿泊業と飲食業が成長した。支援要因は、出安居(オークパンサー)の伝統行事やコンサート、音楽祭などのイベント開催が増え、規模も大きくなったこと、加えて連休も多かったことがあげられる。観光客はルーイやノンカイ、ブンカーン、ナコンパノム、ナコンラチャシマを中心に多くの自然観光地を訪問するようになり、連鎖的な好影響がツアーバス運行業に及んで業況が上向いた。宅配事業も年末に消費財の配送が増えたことで成長した。作物の収穫シーズンを迎えたことで運送業者による主要農産物の運搬も盛んになった。
◇企業部門の投資
投資は、全体として前年同期、前の四半期から横ばい。電子製品製造業は貿易相手国の経済情勢を見て投資を手控えた。ただし一部には、生産性向上と労働力の代替を目的に新型機械を購入する投資が見られた。商業の投資も横ばいとなった。大部分は、太陽光パネルの設置やITシステムの整備といった、コスト削減と作業効率向上を目的とした投資だった。他方、エンジン車関連では、金融機関の持続可能な成長(ESG)政策により、融資へのアクセスに制約を抱えているという見方が広がり始めている。不動産業では、投資計画を立てていた大手業者は従来どおりに投資を進めることができた。しかし中小業者が投資を手控えたり、規模を縮小する兆候が見られる。サービス業と観光の投資は横ばい。宿泊業者の多くは、客室の改装や設備の修理・メンテナンスを目的とした投資を通常どおり行なった。
◇雇用
雇用は、総じて前年同期、前の四半期と比べ横ばいだった。製造業、商業その他サービス業の多くが従来と近似する雇用水準を維持する努力をした。しかし専門職やセールス要員など特殊な技能を必要とする職種を例外として、離職した従業員を補充する方針はなく、現存する従業員が複数の職務をこなす対策を採っている。多数の労働者が必要となる時期には、臨時雇用する、または下請け作業を依頼する傾向にある。いずれにせよ不動産業と建設業では引き続き労働力不足の問題を抱えており、特に習熟した職人など熟練労働力の不足が著しい。このためプレハブ建材の使用を増やすなど、労働力不足を補う対策を採っている。
◇コストと価格
コストは、全体として前年同期、前の四半期と比べ上昇した。原材料価格、労働賃金、輸送費、電力料金が上昇した。とりわけ23年には電力料金が大幅に引き上げられた。原材料価格も高水準にある。しかし商品価格への転嫁は限られた。ミドル~ローエンド層の購買力がまだ十分回復していない。同業他社との競争も激しい。事業者は販促活動や原価管理による対応を図った。例えば業務効率の向上に向けた取り組みや太陽光パネルの設置、アウトソーシング、一部サービスの削減などの対策を講じた。
◇24年第1四半期の企業部門の見通しと影響を及ぼす要因
24年第1四半期の業況は、総じて前年同期から改善する。不動産業は価格帯が300万バーツ超の住宅の販売による成長が見込まれ、継続的に売買が行なわれている。サービス業と観光は、観光シーズンが続く地域でのイベント開催と規模拡大から成長が続く。製造業は横ばい。電子製品や食品/飲料の生産は、貿易相手国の需要の回復にともない上向く兆しが見え始めている。しかし国内販売向けの生産は、ミドル~ローエンド層の購買力が回復していないことからの下押し圧力を受け続ける。商業も横ばい。高い購買力を有する層の消費を刺激するイージーEレシートからの恩恵を受けるものの、草の根層は引き続き支出に慎重な姿勢を維持する見通し。いずれにせよ前四半期比では、経済活動の拡大にともない消費者の支出が加速した反動から、商業その他サービス業の業況は悪化する。
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