23年第4四半期のタイ各地方の業況と見通し③(中部編)

タイ中央銀行発行の『ビジネス・アウトルック・レポート』23年第4四半期版より

目次

3、中部地方の業況と見通し

 23年第4四半期(10~12月)における中部地方の業況は、前年同期、前の四半期と比べ、やや上向いた。製造業と観光関連サービス業は、経済活動が徐々に回復し、通常に復したことと増え続ける外国人観光客数から好影響を受けた。一方で企業の業況は、草の根層の家計の購買力や世界経済の減速による下押しを受けた。コストは上昇したが、低所得層の購買力低下と競争激化から製品価格への転嫁は限られた。多くの企業が価格を改定する代わりに別の手法を用いて対応した。投資と雇用は経済情勢の不確実性と最低賃金引き上げにより横ばいとなった。一部企業は技能労働者、未熟練労働者の不足に直面し続けた。

◇製造業と輸出

 製造業と輸出は前年同期と比べ、やや成長した。飲料や美容品製造業は、消費者の外出機会増にともない売上が伸びた。梱包材製造業は取引先の在庫減にともない成長した。自動車/自動二輪車と同部品の製造業は、貿易相手国の需要回復と半導体不足問題の緩和から輸出が伸びた。しかし国内販売台数は減少した。EVに市場シェアを奪われたことによる。ミドル~ローエンド層の消費者の購買力がまだ十分回復していないことも理由の一つに数えられる。電機、電子製品製造業は、取引先の在庫がなお高水準にあるため受注が減り続けた。健康・保健関連消費財の製造業は、コロナ流行期と比べ消費者の健康重視の風潮が減退し、国内での競争も激化したため売上が落ちた。建材製造業の売上は、政府予算の遅れと中国製品の流入による競争激化から減少した。食品製造業は、顧客がEUから免税措置の適用を受けている国にオーダーを振り向けたため輸出数量が減り、収入も減少した。いずれにせよ前四半期との比較では、製造業と輸出は横ばいだった。国内における草の根層の購買力が制約となり、貿易相手国もまだ在庫が通常の水準に戻っていない。

◇サービス業と観光業

 サービス業と観光業は、前年同期、前の四半期と比べ成長した。外国人観光客数が増え続けたためで、特に欧州や中国以外のアジアからの観光客が増えた。その結果、宿泊業と飲食業の収入が上向いた。しかし中国人観光客を受け入れているツアー業者の収入は回復が遅れている。タイを訪れる中国人観光客の大部分が、個人旅行や会議/セミナーへの参加を主目的としている。加えて中国人観光客向けツアー業者は、他の外国人団体観光客の受け入れに業態を転換するのが困難である。23年10月初めにバンコク都心のショッピングセンターで発生した銃撃事件の影響から、中国からの団体ツアーによるタイ行きの旅客便のチケット予約にブレーキがかかっている。ただし航空会社の収入は国内線と国際線の便数増にともない増え続けた。旅客数はコロナ前の70%まで回復している。
 物流関連企業の収入は、年末の贈り物シーズンに電子商取引での商品売買が増えたことに加え、ソーシャル・コマースの流行から、C2C形態の宅配事業の収入が増えた。輸出向け貨物のトラック輸送事業は、主に供給過剰と物品輸出の回復の遅れから、激しい価格競争による下押しを受け続けている。

◇商業と消費

 商業は前年同期から横ばい。大規模小売店舗を含む商店の売上は店舗網の拡大により増えた。観光地の消費は良好な伸びを見せた。加えて、外出機会の拡大にともない奢侈品、ファッション製品、美容品の売上が伸びた。しかし消費者の購買力は全体的には高水準にとどまる生活費の負担から下押しされており、特に草の根の家計は購買力回復が遅れている。その結果、自動二輪車と商用車の販売台数は、低所得層の購買力と連動する形で減った。金融機関も、これら層に対する融資には引き続き慎重姿勢で臨んでいる。他方、前四半期との比較では、商業は年末の連休シーズンにおける販促活動の実施と消費者の支出拡大により、やや成長した。

◇不動産部門

 不動産業は前年同期、前の四半期から横ばい。ミドル~ハイエンドの住宅需要は継続し、投資を目的とする購入も再び見られるようになった。しかしミドル~ローエンドの住宅は、顧客の購買力の回復が遅れている上、金融機関も融資に慎重になっているため販売が伸び悩んでいる。融資の拒否率は約40~50%に達し、コロナ前の約20~30%を上回っている。その結果、全体的な回復はまだ不明瞭な状況が続き、在庫もなお高水準にある。オフィスビル賃貸業は需要減にともない収縮した。工業団地開発事業は、EVと電子製品の生産での外資の進出増にともない上向いた。
 建設業は政府による新規プロジェクトの遅れから減速を続けた。民間の工事もまだ件数が少ない。世界経済の成長鈍化から、輸出向け製造業への投資の一部も延期されている。

◇企業部門の投資

 投資は前年同期、前の四半期から横ばいだった。物品輸出の回復が不明瞭で、多くの企業が投資に慎重になっている。さほど資金を必要としない投資を重視している。製造業の投資の多くは機械の改修や修理を目的とするものだった。ただし自動車/自動二輪車部品や梱包材、化学品の一部は、生産能力の拡大や研究開発、自動化システムの追加設置を目的とする投資を行なった。商業では大手業者による主要都市以外の地域に市場を拡大するための店舗網拡大投資があった。観光関連サービス業では、観光業の回復に対応する追加投資が行なわれた。物流事業では、人員配置の効率性の向上と営業コストの圧縮を目的とした配送センター内のデジタル・システムの開発と自動化の投資があった。大規模事業者と製造業では持続性への対応が重視され、太陽光パネルの設置や二酸化炭素排出削減技術への投資計画が多く立てられるようになった。

◇雇用

 雇用は全体として前年同期、前の四半期から横ばいだった。商業の雇用は店舗網の拡大にともない増えた。観光関連サービス業の雇用も増えた。製造業と建設業の雇用は横ばいだったが、一部の企業は雇用を削減した。例えば化学品や建材は23年初めから受注が減少しているため人員削減を行なった。
 一部企業は労働力不足の問題に直面し続けている。食品、梱包材や宿泊業者、トラック輸送業は質量両面で労働力不足の問題を抱えている。建設業は、隣国との移民労働者受け入れの覚書締結の遅れから、特に小規模な工事請負業者が労働力不足問題に直面している。他方、航空業界の地上スタッフやパイロットの不足問題は緩和してきている。
 最低賃金を段階的に引き上げる政府方針は、多くの企業が自動化システムを導入する動きを加速させる結果をもたらしており、一部の企業は最低賃金が大幅に引き上げられるのを見越して雇用の削減を検討している。製造業では、エンジニアを中心とする技能労働者をヘッドハントする外国企業の動きに対する懸念が広がり始めた。

◇コストと価格

 企業のコストは、前年同期との比較では主に原材料コストの増加と石油価格の上昇から全体的に上昇した。例外は飲食業者で、生鮮食品の価格と連動してコストが低下した。前四半期との比較では、企業のコストはやや低下したものの、なお高水準にある。いずれにせよ低所得層の購買力がまだ十分に回復していないことに加え、建材、電機、消費財などは市場での競争が激しいため、大部分の企業はコスト増分を商品価格に転嫁できなかった。製造業では、内部のコスト管理に注力するとともに、自動化システム導入を急ぐことで生産コストの圧縮を図った。小売業は売上を増やすべく販促活動に注力した。家具販売業者や住宅不動産業者の中にはコスト増分の一部を商品価格に転嫁した企業もあった。ミドル~ハイエンドの顧客基盤を持つ企業、例えば高級百貨店や4つ星クラス以上のホテルはコスト増に連動した価格の改定が可能だった。

◇24年第1四半期の企業部門の見通しと影響を及ぼす要因

 24年第1四半期(1~3月)の業況見通しは、前年同期、前四半期で上向く見通し。商業その他サービス業は、主に外客数増にともない成長が予測される。政府の支出刺激策であるイージーEレシートは短期的に消費を刺激する。製造業は経済活動の拡大にともない上向く。しかし業況を下押しする要因もある。例えば、高水準にとどまる生活費負担から草の根の家計の購買力は回復がさらに遅れる。24年初めから最低賃金が引き上げられたことで労働コストは上昇するものの、価格への転嫁は限定的になる見込み。国外では地政学的対立の不確実性が大きい。

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