タイ中央銀行発行の『ビジネス・アウトルック・レポート』23年第4四半期版より
4、南部地方の業況と見通し
23年第4四半期における南部地方の業況は、前年同期、前の四半期と比べ、やや上向いた。観光シーズンで外客数が増え、観光関連サービス業や商業に好影響が及んだ。不動産業は横ばいだった。住宅需要は続いているものの、高水準にとどまる家計債務の負担が下押し要因となった。製造業と輸出は総じてやや収縮した。ゴム手袋とゴムノキ加工品の生産だけが成長を続けることができた。企業の投資は全体として横ばいとなった。外国人顧客の需要が拡大した結果、観光関連サービス業を中心として企業は製品とサービスの価格を引き上げることができた。不動産業でも、主要観光地で不動産価格が上昇した。
◇商業と消費
商業は前年同期、前の四半期と比べやや成長した。経済活動の回復と観光シーズン入りにともない、消費財の売上がやや増えた。燃油価格助成などの政府の生活費負担軽減措置により消費者は資金的に余裕ができ、必需品に対する支出を増やすことができた。大規模小売店の衣料/ファッション製品などの半耐久財の売上も、タイ人および外国人観光客の支出行動から増加した。自動車/自動二輪車の販売台数は減った。商用車の販売台数は大幅な減少を続けた。主要顧客である購買力が低く、所得が不安定な顧客層の融資審査が一段と厳しくなったことが理由。乗用車と自動二輪車の販売台数は増えた。サービス業や定所得のある層、さらには自動車/自動二輪車のレンタル業者が多数購入した。商業は全体的には成長したが、消費者は以前にも増して支出に慎重になった。生活費負担が高水準にとどまり続けており、家計債務も高止まりしている。
◇製造業と輸出
製造業と輸出は前年同期と比べやや収縮した。中国からの受注が増えないため、天然ゴム一次加工品の生産が収縮した。中国のバイヤーが高水準の在庫を抱えている上、一部は南アフリカなどの競争相手からの購入に切り替えている。欧州や日本、韓国の需要は上向いた。
冷凍・冷蔵・加工水産品の生産はやや収縮した。エビ加工品がエクアドルやインドとの競争に直面している。魚類加工品は、欧州のスーパーマーケットや中国の販売業者の需要が上向いた。缶詰水産品の生産も、米国の缶詰ペットフード業者からの受注が減少したために、やや収縮した。顧客が前年に多くの在庫を蓄積したことが原因。
パーム油圧搾業は、工場に出荷されるパーム椰子の数量の減少に加え、前年同期の数値が大きいハイベース効果もあって収縮した。パーム油需要は食用、バイオディーゼル原料用ともに横ばいだった。
前四半期比では製造業と輸出は拡大した。ゴムノキ加工品の輸出が、中国からの受注の継続的な増加にともない拡大した。ゴム手袋の輸出も、従来の在庫が徐々に無くなったことを受け、米国からのニトリル・グローブの受注が増えたことで拡大した。
◇サービス業と観光業
サービス業と観光業は前年同期、前の四半期と比べ成長した。観光シーズン入りにともなう外客数増加による。多くの高級ホテルの収入がコロナ前を上回るとともに、24年初めまで継続して顧客からの宿泊予約を得た。南部地方の国境地帯にあるホテルでは、マレーシアからの観光客が良好に回復した。サダオの国境チェックポイントで入出国カードの提出が一時的に免除された好影響があった。しかし中国からの団体ツアーの訪問はまだ少なく、ミドル~ローエンドのホテルの業況は全体としてまだ十分には回復していない。中東からの観光客は高い購買力が支出行動に反映されている一方、インドとマレーシアからの観光客は平均滞在日数が短いことが制約となっている。欧州からの観光客の一部は、オール・インクルーシブのパッケージツアーを購入して現地での予算を切り詰めている。イスラエルとハマスの戦闘の影響で便数が減少したため、イスラエルからの観光客の訪問が減った。事業者はリスク管理として新たな市場から多くの顧客を受け入れるとともに、誘致に向けた特別プロモーションを増やすことで対応した。
◇不動産業と建設
不動産業は前年同期、前の四半期と比べ横ばい。住宅需要は継続しているが、高水準にとどまる家計債務の状況が下押し要因となって、顧客が購入の決断を見合わせる結果をもたらしている。加えて金融機関も融資に慎重な姿勢を崩しておらず、価格帯が300万バーツを超えない住宅はプレセールスが落ち込んだ。価格帯が300万バーツ超の住宅は、高い購買力を持つ層と実業家の需要から販売額がやや増えた。プーケットやサムイ島などの主要観光地の住宅の販売額は、特にプールビラが、高い購買力を持つ外国人顧客の需要から増え続けた。全体的には、地元の新規業者の参入と中央の業者の投資により競争が激化している。一部地域では現存する小規模業者が投資を手控え始めた。建設業は、政府の工事が建物の修理・改装と新たな建物の建設のいずれも増えた。
◇企業部門の投資
投資は全体として前年同期、前の四半期と比べ横ばいだった。製造業と輸出関連企業に生産能力の拡大を目的とする投資計画はなく、多くが機械のメンテナンスやコスト削減を目的とする太陽光パネルの設置、あるいは生産性向上に向けた投資だった。商業では店舗の改装を目的とした投資があった。不動産業では投資が手控えられたが、プーケットやサムイ島などの主要観光地では、顧客のニーズに応えるべく新規プロジェクトが発表された。観光関連サービス業の投資はやや拡大した。建物や客室の改装のほか、業務システムの整備に投資が行なわれた。
◇雇用
雇用は前年同期と比べ、やや拡大したが、前の四半期からは横ばいとなった。観光関連サービス業と商業で、顧客の増加に対応するために雇用が拡大した。スパの従業員など、熟練労働者の確保は困難な状態が続いた。加えて、観光関連サービス業のタイ人労働者の質は全体としてコロナ前と比べ低下している。事業者は不足気味の技能を習得できる研修カリキュラムの増加を希望している。不動産業、製造業、輸出関連企業の雇用は全体的には横ばいだったが、水産品を生産する企業の一部は生産量の見通しを踏まえて雇用を削減し、残る労働者の生産性向上の取り組みに注力した。
◇コストと価格
コストは前年同期、前の四半期と比べ増加した。天然ゴムやゴムノキ、肉類、エビ養殖用の飼料、生鮮野菜・果物などの原材料価格、労働者の賃金、電力料金が上昇した。ただし多くの企業は、電力料金の圧縮を目的に太陽光パネルを設置したり、製造業のオフ・ピークにあたる夜間に機械を作動させるといった対策を講じた。企業はコスト増に応じて徐々に商品・サービス価格を引き上げたが、特に主要観光地以外の地域で活動する企業は、ミドル~ローエンドの顧客層の購買力がまだ十分回復していないため、コスト増分を全て価格に転嫁することはできなかった。
製造業と輸出関連企業も、受注が徐々に回復し始めた時期だったことから製品価格の大幅な改定は見送った。主要観光地の宿泊業と不動産業は、需要の拡大にともない価格を引き上げることができた。
◇24年第1四半期の企業部門の見通しと影響を及ぼす要因
24年第1四半期の見通しは、前年同期、前の四半期と比べやや成長すると予測される。サービス業と観光は、観光シーズンになり、外国人観光客数が増え続ける見通しにあることから継続的な回復が見込まれる。ロシアからの観光客に対する滞在許可日数の延長などの政府の措置による支援も期待できる。商業と不動産業も、特に主要観光地で需要が拡大を続けると予測される。
しかし追跡しなければならない成長の下押し要因もある。生活費と家計の債務負担が高水準にとどまっていることが消費者の購買力と消費性向に影響を及ぼす可能性がある。製造業と輸出はやや拡大する。ゴム手袋、ゴムノキ加工品、缶詰水産品の生産と輸出が、持続する見通しにある貿易相手国の需要と徐々になくなる見通しにある在庫状況から拡大しそうである。天然ゴムの一次加工は収縮を続けそうだが、欧州市場向けのブロック状ゴム輸出には良い兆候がある。24年12月30日から適用が開始される欧州森林破壊防止規則(EUDR)の発効により、一部の貿易相手国がタイへの製品オーダーを拡大すると予測される。
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