2025年5月15日(火)号

タイ工業連盟=緊急の関税対策を政府に要請

 タイ工業連盟(FTI)は、米国による相互関税の発動が目前に迫るなか、輸出業者向けの支援策の実施と市場開拓によって、タイの競争力を維持するため、政府に迅速な対応を求めている。米国が8月1日からタイを含む22か国を対象に相互関税を発動することに強い懸念を示しており、クリアンクライ・ティアヌクン会長は12日、産業別のデータを取りまとめ、財務省に提出する準備を進めていることを明らかにした。
 FTIは、関税の引き下げが実現しなければ、輸出コストが上昇し、競争力を失い、投資家の信頼も損なわれると警鐘を鳴らしている。タイ製品に36%の関税が適用された場合、輸出の損失は8000億~9000億バーツに達する可能性があるとした。
 この危機に対処し、タイの国際競争力を維持するため、FTIは影響を受ける輸出業者への低利融資や債務返済猶予、法人税の軽減、港湾サービス料、通関手数料、原産地証明書発行手数料、水道光熱費など輸出関連コストの補助や軽減策を講じること、さらに、米国の法律事務所を雇って通商問題の調査・交渉を行なう際の費用について、3倍の税控除を適用するよう求めている。
 市場拡大策では、新たな自由貿易協定(FTA)の交渉を加速し、中小企業向けプログラムや貿易ミッションを通じて市場の多様化を進めることや国内消費拡大のため「メイド・イン・タイランド(MiT)」制度の強化を図るよう要請した。すべての政府機関がMiT認証製品を優先調達するよう求め、MiT関連支出に対して2倍の税控除も提案している。
 国内でのローカルコンテンツを高めるため、投資委員会(BOI)による優遇措置の拡充も提案しており、ローカルコンテンツ使用率が90%を超える企業への法人税減税を提案した。
 ある政府高官は、タイが世界の大国による勢力争いに巻き込まれており、各国が関税措置を交渉手段として用い、タイにどちらの側につくかを迫っているという。匿名を条件に語った財務省の幹部の発言としてバンコクポスト紙が7月11日に伝えたところによれば、ワシントンはタイに対し、アセアン中国自由貿易協定の下で中国製品に適用している関税率に合わせる形で、米国製品に対する関税の撤廃を求めているという。
 米国がタイに農産物や豚肉などの肉類を含む米国製品の輸入関税を0%に引き下げるよう求めていることは、国内生産者に悪影響を与える可能性があるが、米国製品はタイ製品より高価なことから、最終的には消費者の判断に委ねられると述べている。
 ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相は9日に商業、工業、銀行の合同常任委員会(JSCCIB)と会合を持ち、米国の関税による影響を緩和するための対策について協議した。会合後、ピチャイ氏は、トランプ大統領による関税の影響を和らげるため、製品グループごとに対策を準備していると述べた。
 どのような結果になるにせよ、解決策を準備しなければならないとし、交渉は継続中と付け加えた。ピチャイ氏は、以前は米国の関税が輸出業者に及ぼす影響を包括的に評価していたが、今は、より詳細な評価を行なっていると述べた。タイ商業会議所のポット・アラムワタナノン会頭によると、各製品に対するトランプ関税の影響は、その製品に含まれる現地部品の割合に応じて異なるという。
 ポット氏はまた、米国との関税交渉がすぐには妥結しない可能性があることにも懸念を示し、米国がタイ製品に対して提案している36%の関税が続く恐れがあると述べた。ポット氏はタイの対米貿易黒字が米国の対ベトナム貿易黒字よりもはるかに少ないことを根拠に米国がベトナムよりも低い税率を適用することを期待すると述べた。

対米戦略で高官会議開催

 ピチャイ副首相兼財務相[=写真中央]は、タクシン・チナワット元首相が米国の関税問題に関する11日の高官会議に招かれたことを明らかにした。タクシン氏の経済問題に関する豊富な知識と経験が招へいの理由と説明した。この会議は、トランプ米大統領が提案したタイ製品への36%の輸入関税に対するタイ側の対応を協議するもので、首相公邸のバーン・ピッサヌロークで開催された。ピチャイ氏は、自らの判断でタクシン氏を招いたと語っている。


 会議にはパンサック・ウィンヤラット氏をはじめとする首相の諮問チームのほか、クラータム党主席顧問のタマナット・プロムパオ氏、アッタコーン・シリラタヤコーン農業・協同組合相、チャトゥポーン・ブルットパット商業相、エカナット・プロムパン工業相などの閣僚も出席した。
 会議後の記者会見で、ピチャイ氏は政府の対米関税戦略について説明した。最初の対応方針として、米国への対応を進める前に、まず自国の輸入品を見直す必要があると述べた。「農業や中小産業を含む国内生産者に悪影響を及ぼさないようにする必要がある。その点は初期提案の段階で明確にしてある」と話した。
 また、すでに米国から輸入されている商品もあり、それらを活用することで柔軟に対応できるとの考えも示した。輸入品の規制方法や不適切な製品の流入防止策、輸出入の全工程における効率化についても議論が行なわれた。各セクターへの支援策についても議論され、「農業分野や中小事業者向けの支援枠組みはすでにある。今後はそれを具体的に設計・実施していく段階に入る」と述べた。
 ピチャイ氏はタイ政府が米国との公平で建設的な交渉を行なう方針を強調した。交渉については、タイ政府が7月6日に正式な提案を米国側に提出したが、いまのところ公式な返答は得られていない。
 政府はすでにタイ商業会議所や関税の影響を受ける大企業と協議を行なっており、この日の会議では「民間部門が深刻な影響を受けた場合の対応策についても話し合った」という。
 タクシン氏の高官会議への出席に関しては、不当な影響力の行使という批判が出ている。プアタイ党は、タクシン氏の会議への出席が政治への干渉にはあたらないと強調した。元首相の経験に基づく見識を買って会議に招かれただけで、国会議員や官僚に指示を出すことはなく、言動には細心の注意を払っているという。

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[論調]
米国の相互関税がタイ経済を直撃

[BOI認可事業]
5月26日認可56事業

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