2025年7月16日(水)号

BOIが5項目の大型対策=世界的な貿易戦争に備えタイ企業支援

 投資委員会(BOI)は、米国の関税措置や新たな貿易戦争にタイ企業が適応できるよう新たな投資奨励パッケージを打ち出した。グローバルな競争が激化するなか、タイの部品メーカーの能力を向上させ、世界のサプライチェーンに参入できるよう支援する。また、国内外の市場拡大に向けたビジネスマッチングやネットワークの構築も急ピッチで進める。
 ナリット・トゥードサティラサック事務局長[=写真]は7月16日、米国政府が相互関税の方針を打ち出して以来、投資家の間に懸念が広がっていると述べた。国内のビジネス競争も今後さらに激しさを増すと予想されている。このような状況を受けて、過去2か月の間に、BOIはさまざまな業種の投資奨励対象企業と協議を重ね、課題を把握し、影響を緩和する方策を模索してきた。


 こうした取り組みの一環として、ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相が議長を務めるBOI本会議(6月27日)は、「新時代に対応したタイ企業の競争力強化支援策」という名称の大型パッケージを承認した。このパッケージは、①タイ企業の競争力を高め、国内のサプライチェーンを強化して変化する環境への対応力を持たせる、②米国の貿易措置によるリスクを低減し、一部の分野では投資奨励の整理を図ることで国内産業を保護し、公正な競争環境の維持を図る、という2つの重要な目的に応えることを目指している。
 その内容として、5つの具体的な対策が盛り込まれている。
 第1の施策は、タイの中小企業(SME)の競争力向上を目的とし、生産性の改善への投資を支援する内容。対象は中小企業振興機構(OSMEP)に登録したタイ企業で、老朽化した機械の刷新、オートメーションやデジタル技術の導入、省エネ対策、国際基準への適合、新産業への転換など、幅広い取り組みが想定されている。
 この施策では、法人所得税の優遇措置が拡充される。従来は投資額の50%を上限に3年間の免除が認められていたが、新たな措置では投資額の100%を上限に、免除期間を5年間に延長する。中小企業による設備更新や事業再編を後押しする狙いがある。
 第2の施策は、EVと電気・電子機器産業における国内部品(ローカルコンテンツ)の使用を促進する内容。タイ国内の部品メーカーに販路を広げ、外資系企業との連携を通じて世界的なサプライチェーンに参入する機会を創出する。
 対象企業には、タイ工業連盟(FTI)による「Made in Thailand(MiT)」認証の取得が求められる。原材料・部品に占める国内調達比率が基準となる。具体的には、バッテリーEV(BEV)は40%以上、プラグインハイブリッド(PHEV)は45%、EV部品は15%、家電製品は40%以上の国内比率が必要とされる。これらの条件を満たした企業には、法人所得税の追加減免措置として、通常の優遇措置に加え2年間、50%の軽減措置が適用される。
 また、部品メーカーと完成品メーカーをつなぐビジネスマッチング活動とも連動する。年間2000億バーツ超の商談成約額を誇る「サブコン・タイランド」や「ビジネス・マッチング」、さらには電機、エレクトロニクス、自動車業界の大企業と共同で実施する「ソーシングデー」などがその中核となる。
 第3の施策は、一部の事業に対し、実質的な生産工程の審査を強化する内容。対象となるのは、米国の貿易措置の影響を受けやすく、原産地偽装のリスクがある業種で、自動車部品、電気・電子機器、金属製品、繊維、家具、かばん類などが含まれる。
 この施策では、「実質的な生産工程」が存在することを明確な条件として定め、主要原材料の十分な加工や変質が求められる。例えば、関税分類(HSコード)の4桁レベルでの変更が行なわれることなどが基準とされる。こうした要件を通じて、タイ国内での製造工程の実態を明確化し、タイからの輸出品が国際的に受け入れられるようにし、国としての利益をより明確に得られる仕組みとする狙いがある。
 第4の施策は、一部業種における投資の秩序化を図るもので、国内産業の保護と競争環境のバランス維持を目的とする。具体的には以下の3類型に分類される。
 第1に、技術水準が高くなく、米国の通商措置によるリスクが高い分野に対し、支援の見直しを行なう。太陽光パネル、自動車用アクセサリー類の製造に対する投資奨励を打ち切るほか、家具、かばん、印刷物などの製造業にはタイ資本の過半保有を義務付ける。
 第2に、供給過剰となっており、国内生産者に影響を及ぼす分野では、末端工程にあたる鉄鋼製品、たとえば各種形鋼、熱延鋼板、厚板、鋼管、金属切断事業などの投資奨励を終了する。
 第3に、環境や地域社会への影響リスクがある分野、たとえば金属製品、化学品、プラスチックの製造や金属の圧延・引抜き・鋳造・鍛造などの事業では、土地所有権の取得に関する優遇措置を取りやめ、これらの事業は工業団地内での立地を義務付けることで、より厳格な管理のもとに置く。
 第5の施策は、海外人材の雇用条件を見直すもので、国内雇用機会の創出とタイ人への知識移転の促進を図る狙いがある。従業員100人以上を雇用する製造業では、タイ人労働者の割合を全体の70%以上とする条件を設ける。
 また、BOIの投資優遇に基づくビザ/労働許可の申請においては、外国人の最低月収基準を新たに設定する。たとえば、管理職クラスは月収15万バーツ以上、専門職クラスは月収5万バーツ以上とし、高度な技能を有する人材の受け入れを重視する。これにより、外国人材の質を確保しつつ、付加価値創出を推進する。
 加えて、BOIは現在、米国による関税引き上げの影響を直接受ける事業者を支援するための追加施策を準備中だ。タイが各国との投資誘致競争において依然として優位性を保ち、輸出拠点としての地位を維持できるようにする。対象は、米国市場向け輸出を主要目的とするタイの生産拠点で、かつ高付加価値産業に分類される分野で、食品、ゴム製品、自動車部品、電子機器、電化製品、機械、宝飾品など。
 ナリット事務局長は、「世界的な貿易戦争により、事業者は高関税や新たな通商ルール、輸入品との競争、外資による投資流入、新技術の導入といった厳しい環境に直面している。こうした状況は、既存産業に影響を及ぼす可能性があり、タイとしては経済・投資戦略を再構築する必要がある」と指摘した。既存産業の高度化と並行して、新たな成長エンジンとなる産業基盤の構築も求められており、BOIはその一環として、投資の秩序化とタイ企業の迅速な適応を後押しする多面的な新施策を打ち出していると説明した。

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