2025年7月18日(金)号

消費者連盟が米国との関税交渉に懸念=健康や農業、産業への影響を指摘

 タイ消費者連盟(TCC)は、米国との関税交渉において同国からの輸入品にゼロ関税を適用することに対し、懸念を表明している。とりわけ2023年時点で最大27%とされていた農産物の輸入関税率の大幅な引き下げについて、消費者の健康を脅かす農産物の輸入増と国内農業への打撃につながると指摘している。
 TCC食品・医薬品・ヘルス製品部会を統括するカンニカー・キッティウェーチャクン理事[=写真]は、「通商面だけでなく、消費者への影響も考慮すべきだ」として、タイ政府に警鐘を鳴らしている。


 同理事は、今回の通商交渉でタイ政府が提示したゼロ関税の対象品目が明らかにされていないことから「あくまでも推測」と前置きしつつ、次のような懸念を示した。
 仮に米国産豚肉が含まれていた場合、ラクトパミンを使用した豚肉が大量に輸入される可能性があるとした。ラクトパミンは脂肪よりも赤肉を多く増やす目的で使われる食品添加物であり、人間の心臓血管システムに悪影響を及ぼしたり、食中毒の原因になるとの指摘が一部の専門家から出ている。タイ国内の研究では発がん性も報告されており、特に臓器など肉以外の部位を食べた場合、発がん性物質を摂取するリスクが高まるとされている。
 米国内では臓器などの部位は基本的に流通していないが、仮にこの機会に輸入が認められれば、危険な食品がタイ国内に流入するおそれがある。台湾では「米国産」とのラベル表示を義務付ける条件で輸入を認めたが、偽造ラベルが出回り、大きな問題となった。消費者保護行政がタイより厳格とされる台湾でもこのような事例が起きており、タイが輸入を認めることのリスクは大きいと警告している。この件については、すでにTCCが政府に注意喚起の文書を提出している。
 また、豚肉と臓器の輸入開放は国内の養豚業界にも深刻な影響を与える。零細農家の廃業が相次ぐだけでなく、飼料の原料となっている米ぬかの需要が急減することで、稲作農家にも影響が波及するおそれがあるという。
 遺伝子組み換え(GMO)食品の輸入については、現行法ではGMO大豆は飼料原料としてのみ輸入が認められている。今年に入ってからは、GMO原料の含有率が3%を超える場合、ラベル表示が義務付けられた。米国産食品のほとんどがGMO食品であることから、タイが市場を開放する場合、米国側からラベル表示義務の撤廃などを求められる可能性がある。
 トウモロコシと小麦に関しては、国内農家を保護する措置として、飼料メーカーに対し「小麦1に対し国産メイズ2」の比率での調達が義務付けられてきたが、この交渉を機に小麦が米国産のみに置き換わる可能性があると警戒している。
 また、電子ゴミの米国からの密輸入が後を絶たない現状について、タイ政府はこれまで何度も米国政府に通知してきたが、今回の交渉で電子ゴミの輸入が合法化されるおそれもあるとしている。
 これらの問題はいずれも消費者に直結するもので、カンニカー理事は政府に対し、「関税交渉に対して消費者の立場から意見を述べる機会を与えるべきだ」と主張している。
 国会経済開発委員会やタイ中央銀行の報告によると、米国に商品を輸出している国内の中小企業は4990社にのぼり、雇用総数は50万人に達する。関税交渉の失敗がもたらす影響に対し、単にソフトローンを提供するだけでは不十分で、関税引き下げの代償として国民が支払うことになる「ツケ」についても政府は慎重に検討すべきだと指摘した。
 同理事はまた、「米国が高い関税を課そうとしているのは中国とサプライチェーンで深くつながる国ばかりだ」とし、この点についてタイ政府が明確な方針を示す必要があると述べた。中国産品をタイ産として原産地偽装して輸出するケースへの取締強化も求めている。こうした製品の比率はタイやベトナムでは27~28%に達すると推定されている。
 貿易以外にも、通信、金融、エネルギーなどの分野で市場開放を進めることで、米国側の譲歩を引き出す選択肢も検討すべきとした。特に通信分野では、大手2社による寡占状態が続いており、消費者にとって不利な状況が続いているため、外資による市場参入の是非を議論すべきとしている。アセアン諸国では、すでにシンガポールやインドネシアが自由化に踏み切っている。
 カンニカー理事は「すべて米国の言いなりになる必要はない。輸入関税の引き下げ以外にも選択肢はあるが、中国と米国の狭間に立つタイとして、巧みな政治的駆け引きが求められる」と述べた。タイ政府の弱みに付け込んで、米国がさまざまな要求を突きつけてくる可能性があるとし、タバコや電子タバコの輸入解禁、特許法改正による後発医薬品の製造開始時期の先送りといった要求が想定されるという。
 これらを認めた場合、タイの製薬業界だけでなく、医薬品の輸入増による外貨流出により400億~600億バーツの機会損失が発生する。
 さらに「植物の新品種保護に関する国際条約」(UPOV1991)の厳格な適用を強制される場合、農家の種苗調達に厳しい条件が課されるおそれがあり、2000万人にのぼる農家にとって1600億バーツの損失を招くことになると懸念を示した。
 インドや日本は、食糧安全保障に関する問題を交渉の議題に載せないという立場を明確にしており、タイも同様の姿勢を打ち出す必要があると訴えている。あわせて「政府が独断で決めるのではなく、国会での議論を通じて進めるべきだ」と述べた。

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