労働市場に不安定化の兆し=新卒者の就業意欲低下
タイの労働市場が、新卒者によるフルタイム勤務離れと、経済の不確実性に伴う既存従業員の解雇リスク増大という二重の圧力に直面している。若年層の就業意識の変化とスキルのミスマッチが構造的な不安定要因となりつつある。
タイ流通・製造業雇用者連盟(EconThai)のタニット・ソーラット副会長[=写真]によると、若い世代は工場などの労働環境を敬遠する傾向が強まり、労働時間の自由や柔軟性を重視しているという。多くがフリーランス志向を持ち、安定よりも自由を選ぶ姿勢が鮮明になっている。一方で、雇用側も実務経験や組織適応力に乏しい若年層の採用には慎重だ。タニット氏は「企業は労働者のライフスタイル変化に対応する必要があり、大学も市場の要請に合わせてカリキュラムを再構築すべきだ」と指摘する。

タイの教育機関は毎年約45万人の新卒者を輩出し、そのうち61%が学士号取得者、残りが職業訓練修了者となっている。しかし多くの学士号取得者が雇用主の求める実践的スキルを欠いており、教育内容と産業の現場の乖離が課題となっている。新卒者が企業の期待に応えられない一方で、既存従業員の間では雇用の安定性への不安が広がっている。
サイアム商業銀行のエコノミック・インテリジェント・センター(SCB・EIC)の報告によると、全労働人口の12%に相当する約500万人が失業または労働時間の短縮リスクに直面している。背景には、米国の関税措置がタイの輸出産業に及ぼす直接・間接的な影響がある。影響を受けやすい分野はゴム製品、繊維、タイヤ、自動車部品、電子部品、家電、ハードディスクドライブなどで、これらは米国の貿易政策の変動に最も敏感な産業群とされる。報告書はさらに、経済的脆弱性や構造的問題、競争力の低下がコロナ後の労働市場を一層弱体化させていると警告する。
タイの失業率は2021年第3四半期に2.25%でピークに達した後、2023年以降は1%前後まで低下している。しかしこの数字の背後では一部の部門で失業の増加が進む。社会保険加入労働者の失業率は今年上半期の2.1%から7月には2.3%へ上昇し、過去3年で最高水準を記録した。15~24歳の若年層では、第2四半期に失業率が5.9%に上昇し、前年を上回った。特に学士号以上の学歴を持つ層の失業率は、前四半期の16.1%から18.9%へ急増している。
政府統計はインフォーマルセクターや季節雇用の失業実態を十分反映しておらず、実態はさらに深刻な可能性がある。就労人口も減少傾向にあり、コロナ禍から回復した2023年に4000万人でピークを迎えた後、現在は50万人以上減少している。
世界銀行は今月公表したレポートで、タイを含むアジア太平洋地域での雇用増加が主に低生産性のインフォーマル・サービス部門に集中していると指摘した。同報告「東アジア・太平洋経済最新情報」は、経済成長が堅調にもかかわらず質の高い雇用の創出が進まない「雇用のパラドックス」に警鐘を鳴らす。世界銀行は、企業の参入と競争を阻む障壁の除去こそが鍵だとし、民間資本の活性化によって、よりダイナミックで生産性の高い企業が成長し、良質な雇用を生み出す循環を作る必要があると提言している。
その他のニュース
[経済ニュース]
9月の自動車生産台数=12万8104台、3か月ぶり増
9月の二輪車生産台数=20万5598台、9.72%増
商業省とSETが協議=デジタル市場資本へ転換
商議所会頭が労相と会談=6項目を提案
中小企業の競争力が減退傾向=UTCC調べ
政府が電力対策を年内実施=再エネ導入で投資促進
[社会ニュース]
タイ・サッカー協会=石井監督を電撃解任
国民皆健康保険制度=病院の財務危機が深刻に
アユタヤ陥落時の捕虜の子孫=260年ぶりに故郷に帰還
LGBTQ+に献血の機会拡大を=行政裁判決に不服の声噴出
サームセーン通りの陥没穴=埋め戻し作業が完了
[セミナー]
ESGフォーラム2025=持続可能性の壁を打破する
[データ]
2025年9月の自動車生産台数
[BOI認可事業]
9月15日認可70事業
コメント