2025年11月11日(火)号

BOIが「FastPass」開始=電力・土地・ビザで迅速対応

 投資委員会(BOI)は11月10日に開いた本会議で、投資プロセスの迅速化を目的とする「FastPass」制度の第1フェーズを承認した。BOI、工場局、タイ工業団地公団(IEAT)、天然資源・環境政策企画事務局、入国管理局、雇用局、東部経済回廊(EEC)事務局の7機関が連携し、重要案件の審査を加速させる。審査期間を少なくとも20~50%短縮できる見通し。また、政府の「クイックビッグウィン」政策に沿って電力、土地、ビザ・労働許可証などの課題解決を同時に進める。
 BOIのナリット・トゥードサティラサック事務局長によると、エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相[=写真]が議長を務めたこの日の会合では、①FastPass制度の導入、②電力・投資用地・ビザの3分野での障害解消の進捗、③2023~2024年に承認された74件、総額3000億バーツ超の大型投資案件のフォローアップの3項目を審議し、すべて承認した。


 FastPass制度は、投資関連手続きを統合管理し、複数機関にまたがる承認・許可の審査を並行して進める仕組み。今回承認された第1フェーズでは、BOIを中心に7機関が優先案件の審査を共同で行ない、従来より最大半分の期間で許認可を完了できる体制を構築する。
 また、BOIは「FastPass推進委員会」を設置し、ナリット事務局長を委員長とし、行政制度開発委員会事務局、地方自治振興局、エネルギー事業監督委員会(ERC)事務局、工場局、IEAT、天然資源・環境政策企画事務局、EEC事務局などの主要機関が委員として参加し、制度の実行を主導する。今後は、事業開始に関わる主要な手続きをすべてFastPassの対象とし、国内外の投資家の利便性を高める。
 さらに会合では、企業が直面する投資障害のうち、特に多くの産業に共通する「電力供給」「投資用地確保」「ビザ・労働許可証」問題の解決策が議論された。BOIは、これら3分野の改善が「事業のし易さ(Ease of Doing Business)」向上の鍵になると強調し、関係機関と連携して短期間での改善を図る方針を示した。
 電力分野では、ERC事務局、エネルギー政策企画事務局(EPPO)、タイ発電公団(EGAT)、首都電力公団(MEA)、地方電力公団(PEA)、BOIの6機関が、エネルギー相を議長として合同会議を開いた。会議では2つの重要事項が決定された。
 1つ目は、データセンター向けの大規模電力供給に関するもので、ERCが送電網利用に関する保証制度を早急に整備し、事業者が自らの電力需要を保証する仕組みを導入することで、電力公団が送電網拡張の投資計画を立てやすくし、電力供給能力を証明する書面(Notice of Power Supply Capability)を発行して事業の開始を円滑化する。
 2つ目は、クリーンエネルギー導入に関する仕組み。ERCは現在、再生可能エネルギー由来の電力を選択的に利用できる「グリーン電力(UGT2)」、発電事業者と需要家が直接契約できる「ダイレクトPPA(直接電力購入契約)」制度の基準と料金体系を策定中で、2025年中に完了する見通し。BOIは投資家への電力供給を安定化させるため、これらの進捗を継続的にフォローアップする。
 土地確保の面では、公共土木・都市計画局に対し、EEC事務局、IEATと連携して都市計画・地域計画の見直しを進め、工業団地の拡張・新設に必要な用地を追加指定するよう指示した。また、工業団地開発に関する環境影響評価(EIA)の承認を迅速化し、道路や水路の変更許可など、保留中の手続きを早急に解決する方針を打ち出した。
 ビザ・労働許可証の分野では、BOIの承認を得た外国人投資家や専門人材を対象に、在外公館での審査を1~5営業日以内で完了できる電子ビザ(e-Visa)の発給を加速させる。また、ワンストップサービスセンター(OSS)の人員を増強し、1日あたりの受付枠を現行の200件から500件に拡張する。さらに、労働許可証の電子システム(e-Work Permit)についても、労働局に改修を求め、BOIのシングルウィンドウシステムと重複せず、安定的かつ迅速に許可を発行できるよう改善を図る。

◆大型投資74件を追跡
 BOIは、2023~2024年に承認された大型投資案件74件、総額3000億バーツ超の進捗を確認した。全体の約80%がすでに着工、または具体的な投資計画を有している。すでに投資を開始したプロジェクトは32件(1600億バーツ)、2025年末から2026年にかけて着工予定のプロジェクトが28件(825億バーツ)となっている。残る14件(約610億バーツ)は、世界経済や技術動向の変化を受けて計画を見直し中で、BOIは継続的に支援・調整を行なう方針。
 ナリット事務局長は、プロジェクトの進行を妨げる行政上の障害を除去し、迅速な投資の実行を支援すると述べ、重点プロジェクトには電力、データセンター、EV、半導体など新産業分野が含まれるとした。
 また、急速に拡大するAI・クラウド関連需要に対応するため、BOIはデータセンター事業への投資優遇条件を改定した。新たな条件では、経営陣と専門職の50%以上を3年以内にタイ人とする義務を課し、国内の人材育成と技術移転を促す。
 さらに、地域バランスを考慮し、EEC地域内の投資には法人税免除3~5年、EEC以外の地域では5~8年の免除を認める方針を決定した。これにより、データセンター拠点を地方にも分散させ、全国的なデジタルインフラの拡充を図る。
 データセンター事業では従来から、建設・運用基準、電力効率(Power Usage Effectiveness:PUE)、水利用効率などの環境指標を設けており、投資する企業は法人税免除を受ける前に、国内への貢献計画を完了しなければならない。これには、大学との共同カリキュラム・人材育成、研究開発、中小企業への技術支援、国内サプライチェーンの強化などが含まれる。
 ナリット事務局長は「今回の見直しは、先端技術の受け皿となる基盤整備と、効率的な資源利用、タイ社会への実質的な利益創出のバランスをとるもの」と説明した。データセンターの推進は、AI、データ産業、高効率クラウドサービスの発展を支える重要な要素で、タイを地域のデジタルハブへと導く鍵になると強調した。

◆4件の大型データセンター投資を認可
 BOIは、データセンター事業の投資奨励措置を改定するとともに、総額1000億バーツ超にのぼる4件の大型データセンター投資プロジェクトを認可した。タイを東南アジアのデジタル経済の中核拠点とし、国のデジタル基盤の強化を図る。
 承認された4プロジェクトの概要は以下の通り。
 1.テレハウス(タイランド)社
 バンコクにデータセンターを建設する計画で、投資額は75億5000万バーツ。日本のKDDIグループに属し、世界10か国以上で45拠点のデータセンターを運営している。
 2.ヴィスタス・テクノロジー社
 チョンブリ県アマタシティ工業団地を事業地とし、投資額は90億9100万バーツ。シンガポールのZDATAテクノロジーズ グループ傘下で、世界に30か所以上のデータセンターを展開している。
 3.ネクスジェン・データセンター&クラウド・サービス社
 パトゥムタニ県ナワナコン工業団地内に設置予定のハイパースケール級データセンターで、投資額は267億2000万バーツ。
 4.ジーニス・データセンター&クラウド・サービス社
 同じくパトゥムタニ県ナワナコン工業団地に立地し、ハイパースケール級データセンターとして建設される。投資額は 548億5300万バーツ。
 これらのプロジェクトはいずれも、AI、クラウド、ビッグデータ時代を支える中核インフラとして位置づけられ、BOIが掲げる「タイをアジアのデジタルハブへ」というビジョンの実現に向けた重要な一歩となる。ナリット氏は、「外国企業の高度技術、資本、管理ノウハウの導入を促進し、タイ国内のデジタル産業基盤を強化する」と述べ、国際的なハイパースケーラー企業の呼び込みをさらに進める方針を示している。

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