2025年11月25日(火)号

BOIに大型投資の加速指示=Thailand FastPassで障害を除去

 エークニティ・ニティタンプラパート副首相兼財務相は、11月24日にアヌティン首相兼内相を議長に開催された経済政策委員会(経済閣僚会議)[=写真]で、投資の加速と未来志向の投資促進に関する一連の措置が承認されたと明らかにした。政府は投資委員会(BOI)に対し、3つの施策を推進・実施するよう指示した。ナリット・トゥードサティラサック事務局長は、Thailand FastPassの仕組みを使った短期的な投資加速に向けた課題解消策として、経済全体に影響を与える大型案件80件(総投資額4800億バーツ)を選定し、先行的に問題解決を図る方針を示した。


 施策の第1は「Thailand FastPass」と障害・課題の解消による投資加速策で、とりわけデータセンター、工業団地開発、クリーンエネルギー生産、電子産業といった分野を優先する方針となっている。
 Thailand FastPassは政府が最重要視する施策の一つであり、大規模投資プロジェクトの障害を取り除き、迅速に投資を進めるための新たな仕組みとして運用される。また、恒常的な規制改革につなげる役割も担い、さらに投資家のニーズに対応したクリーンエネルギーの供給を確保することも含まれる。
 BOIには、エネルギー事業監督委員会(ERC)、タイ発電公団(EGAT)、地方電力公団(PEA)、首都電力公団(MEA)などの関係機関を追加指定し、各機関のSLA(サービス水準契約)の策定状況を追跡し、障害の解消を進めるよう求めた。許認可の審査期間を2~5割短縮することを目標に掲げる。投資家の利便性を高め、迅速な実際の投資につなげる考えで、今年12月までの実施を指示した。
 第2は、新時代産業向けの高度技能人材10万人の育成(アップスキル/リスキル)で、第3は、タイ企業の競争力強化を支援する措置。第2と第3の施策には、競争力強化基金から約50億バーツを充て、タイ経済の迅速な回復と次の成長段階への基盤構築を後押しする。BOIには、関係機関や経済3団体(商業・工業・銀行合同常任委員会:JSCCIB)との連携を図り、施策の推進を指示した。
 ナリット事務局長によれば、大型案件80件では、一部地域での送電網の制約、工業用地調達の遅れ、ビザ・労働許可手続き、事業運営に必要な各種許認可の取得などが主な障害となっている。この日の会議では、以下の投資関連の問題解決策が承認された。

◆電力・用地・労働許可などの主要ボトルネック解消策
 電力送電システムとクリーンエネルギーの確保については、投資家に十分な電力を供給するため、ERCに対し、送電網の利用保証に関する規則を早急に制定し、産業界の需要に応じて送電網の拡張投資を進めるよう求めた。また、PEAとMEAには、投資予定のデータセンター事業者に対する電力供給証明書の発行を急ぐよう指示した。
 さらに、将来のグリーン投資の方向性に合わせて、競争力のある価格でクリーンエネルギーを供給できる仕組みを整備するため、ERCに対し、グリーン電力料金(UGT2)の基準と再エネ電力の直接取引(ダイレクトPPA)のパイロットプロジェクトの規定を2025年12月までに策定し、交付するよう求めた。また、EGAT、PEA、MEAに対しては、今後の重要投資プロジェクトを支える電力網整備の投資計画を策定するよう指示した。
 投資用地の確保については、新産業の拡大に対応するための用地整備を進める。公共土木・都市計画局に対し、タイ工業団地公団(IEAT)や東部経済回廊(EEC)政策委員会事務局と連携し、都市計画とコミュニティ計画の見直しと改善を検討し、将来的な産業の拡大に対応した工業団地の面積拡張方針を2026年3月までに策定するよう指示が出された。天然資源・環境政策企画事務局には、IEATとともに、環境影響評価(EIA)審査の承認待ち期間中でも建設準備を進められるよう、造成工事の許可を認める緩和措置を2026年1月までに作成するよう求めた。これらの課題については、BOIが首相ならびに重点政策推進委員会と調整し、法的障害の解消を進める。
 ビザと労働許可証に関しては、投資奨励対象事業で働く高度外国人材へのサービス向上を図るため、入国管理局と労働省雇用局に対し、業務量に応じた人員増強を求め、ビザおよび労働許可証の審査待ち時間を短縮する方針が示された。さらに、ワンストップサービスセンターにおける手続きについて、現時点で安定性に欠けるe-Work Permitシステムについては、2026年1月までにシステムの改修と安定稼働を完了させるよう指示した。このほか、BOIのシングルウィンドウと外務省領事局のeビザ・システムを2026年2月までに接続する方針も確認した。これら3つの分野に関する改善策について、所轄機関がBOIに進捗状況を報告していくこととなっている。
 事業運営に必要な各種許認可については、BOIが関係機関との調整を急ぎ、案件ごとに許認可の発行状況を追跡する方針を示した。特に事業開始に直結する許可を優先し、各プロジェクトが速やかに投資計画に沿って進められるようにする。今後はThailand FastPassの仕組みを活用して手続きを加速させる。
 なお、BOIが投資加速の対象としている大型プロジェクト80件(総額4800億バーツ)は2つの群に分かれる。
 第1は、2023~2024年に認可されたものの、問題が解決されず着手できていない65件で、投資総額は2717億3800万バーツにのぼる。BOIが2か月間にわたって個別案件ごとの調整を進めた結果、40件、1485億4300万バーツ相当のプロジェクトがすでに着工、または具体的な投資開始計画を持つ段階に進んだ。一方で、送電・クリーンエネルギー、用地確保、許認可手続きなど重大な課題を抱えたままの案件が25件、1231億9500万バーツ残っている。
 第2は、2025年に新たに認可された大型案件で、同様の課題を抱える15件、総額2167億4200万バーツ。BOIはこれらのプロジェクトについても一括で問題の解消を進め、年内の実際の投資資金の流入と雇用創出を後押しし、2026年に向けた継続的な成長につなげる方針を示した。
 さらに、この日の経済閣僚会議では、新産業向け高度人材育成(アップスキル/リスキル)政策についての報告も受けた。目標は10万人の人材育成で、内訳は就業前の学生3万人と、技能向上や転換を図る労働者7万人。訓練内容は、高等職業教育(専門学校)卒以上を対象に、ブートキャンプ、オンサイト学習、オンライン学習、さらには企業での実地訓練を組み合わせて実施する。申請期限は来年1月で、支援証発行後6か月以内に完了させることが求められる。
 また、タイ企業の競争力向上を目的とした支援策では、実際の投資額や費用の30~50%(1社あたり最大1億バーツ)を補助する。対象は最新技術による事業の効率化、研究開発(R&D)、新規事業への転換またはグリーン産業化で、申請者はタイ人株主比率51%以上の法人で、かつターゲット産業分野に属している必要がある。こちらも申請期限は来年1月で、支援証発行後12か月以内に完了させることとされた。
 ナリット事務局長は、Thailand FastPassとBOIの新パッケージは、新産業の需要にニーズしたタイ人材の高度化や、タイ企業が競争に対応するための転換支援といった短期的な投資促進措置にとどまらず、制度面の障害を解消し、将来の産業の方向性に応える近代的な投資エコシステムを形成するための取り組みだと強調。これにより、タイ経済の安定的な成長基盤を築くことができると述べている。

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