2026年8月25日(火)号

EU新貿易ルール、タイ企業に対応迫る=サプライチェーン全体で基準厳格化

 商業省商業政策戦略事務局(TPSO)は、EUが原材料調達から生産、輸入、電子商取引、包装までサプライチェーン全体で貿易ルールを厳しくしているとして、タイ企業に対応を急ぐよう求めた。価格やコストだけでなく、持続可能性や透明性、トレーサビリティが競争力を左右する傾向が強まっているとみている。
 ナンタポン・ヂララートポン事務局長によると、EUは貿易管理制度全体を見直し、公正な競争や消費者保護、グリーン経済への移行を重視している。上流では原材料調達や生産、中流では輸入や電子商取引、下流では包装、資源利用、廃棄物管理の規制を強める。


 EUはタイにとって重要な輸出市場。2026年上期のタイ・EU貿易額は前年同期比16.1%増の253億6540万㌦だった。タイからの輸出は20.0%増の154億6480万㌦、EUからの輸入は10.4%増の99億60万㌦で、タイの貿易黒字は55億6420万㌦となっている。
 EUは中国、米国、日本に次ぐタイ第4位の貿易相手で、ルール変更は幅広い産業の輸出や企業活動に影響を与える。
◆森林規制、12月から適用
 上流では炭素国境調整メカニズム(CBAM)、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)、森林破壊防止規則(EUDR)が柱となる。
 EUDRは大企業・中堅企業に26年12月30日から、小規模・零細事業者には27年6月30日から適用する。対象は牛、カカオ、コーヒー、パーム椰子、天然ゴム、大豆、木材の7品目と関連加工品。
 対象商品を輸出入する事業者はデューデリジェンスを実施し、EUの情報システムを通じてデューデリジェンス・ステートメント(DDS)を作成する。商品が森林破壊に由来せず、生産国の法令に沿って生産されたことも確認する必要がある。
 CBAMは26年1月1日に施行され、鉄・鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力を対象とする。
 CSDDDは24年7月25日に発効し、「Omnibus I」に基づき改定された。加盟国は28年7月26日までに国内法を同指令に合わせ、29年7月26日から適用を始める。
 改定後は対象企業を大規模企業に絞る。EU域内企業は従業員5000人以上で世界全体の純売上高15億ユーロ以上、EU域外企業はEU域内の純売上高15億ユーロ以上を対象とする。
◆低価格品、1品3ユーロ課税
 中流では税関制度と電子商取引を通じた輸入品の監督を強化する。欧州委員会によると、EUに流入した低価格小包は22年の約14億個から25年には約59億個へ増え、3年間で4倍を超えた。
 EUは26年7月1日から、域外から輸入する150ユーロ以下の商品に対する従来の関税免除を見直し、1品当たり一律3ユーロの関税徴収を始めた。税関管理の効率化と公正な競争の確保につなげる。
 11月1日からは電子商取引を通じた輸入商品に商品識別コード(PID)を求める。商品の追跡可能性を高め、税関のリスク管理を強化する。
◆包装規制、輸入品も対象
 下流では包装の設計から廃棄までを対象とする規制を強める。包装・包装廃棄物規則(PPWR)は26年8月12日に施行され、EU域内で生産する商品だけでなく、第三国からの輸入品も対象となる。
 包装材をリサイクル可能にすることや過剰包装の削減を求め、健康への影響が懸念される物質も規制する。食品に接触する包装材では有機フッ素化合物(PFAS)の使用を禁止する。
 TPSOは、こうした制度がサーキュラーへの移行や資源利用の効率化を重視するEUの政策方向を示していると分析した。
◆食品や電子、自動車に影響
 新ルールはタイ企業に機会と課題の双方をもたらす。食品・農産加工、電子・電気機器、自動車・同部品、電子商取引を通じて商品を販売する企業への影響が大きい。
 企業には原材料調達、生産工程、情報システム、トレーサビリティ、包装まで、サプライチェーン全体を新たな基準に合わせる対応が求められる。商品を差別化し、付加価値を高め、持続可能性を重視する消費者需要に応える必要もある。
 特に中小企業(SME)は、データや証明書類の準備に加え、関税、税金、輸送費、事業運営費などの関連コストを把握し、輸出計画に反映する必要があるとした。
 一方、タイ政府はタイEU・FTAの交渉を急いでいる。TPSOは市場アクセスの拡大や貿易障壁の削減を通じ、タイ企業の長期的な競争力向上につながるとみている。
◆アセアンへの輸出先のシフトを警戒
 TPSOは、EUの規制強化を受け、EU市場から締め出された製品がアセアン市場に流入する可能性にも警戒を促した。EUの新基準に対応できない国の生産者が、アセアン向けの販売を拡大する可能性があるためだ。
 特に電子商取引を通じた低価格輸入品が域内市場で増えれば、タイ企業との競争が激しくなる可能性がある。タイは国内企業の商品基準や対応能力を高める一方、輸入品の監督も強化する必要があるとした。
 ナンタポン局長は、EUの制度変更について「世界の競争が基準、透明性、持続可能性を一段と重視する方向に進んでいる」と指摘した。タイ企業にとっては付加価値の高い商品の開発や取引先からの信頼向上につなげ、世界のサプライチェーンでプレゼンスを高める機会になるとの見方を示した。
 高い基準と持続可能性を備えた生産拠点との連携を求める外国企業からの投資を呼び込む力を高める効果も期待できるとした。

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