タイ・ユニオン・グループ

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持続可能性を事業経営の柱に

 世界最大のツナ缶メーカーで、水産加工品でも大手のタイ・ユニオン・グループ社(TU)は、23年に10年連続でダウジョーンズのサステナビリティ・インデックス(DJSI)の指定銘柄に選出された。持続可能な事業活動とイノベーション開発の取り組み、環境、社会への責任の自覚をともなうサプライチェーン管理の努力が評価されている。

ティラポンCEO

■DJSI指定銘柄

 TUのティラポン・チャンシリ社長兼CEOはこう語っている。
 「10年連続でDJSIの指定銘柄に選出されたのは、持続可能な事業活動に向けた努力と熱意が評価されたからだ。水産品の生産をリードする企業であるのみならず、責任感を持ちコーポレートガバナンスを重視して事業活動を推進してきた。シー・チェンジ2030という持続可能性戦略が、水産業にポジティブな変化をもたらしたいと願うビジョンを実現するための重要な鍵となって取り組みを後押ししている」
 TUはこれまで一貫してDJSIをして自社の状況を見積もり、事業活動を修正する基準として用いてきた。自らのチャレンジとすべく、DJSIの厳格な評価基準を活動の実効性を測定するツールとし、持続可能性に関する自社の取り組みの効率向上に努めてきた。とりわけ環境、社会に対する責任感と活動に真摯に取り組む熱意といった側面からイノベーション開発に取り組み、優秀さを磨いてきた。その成果の代表的な例が、ブルー・ファイナンスと称する海洋環境保全を目的とする活動を実施していくための財務管理運営のイニシアチブだ。これとは別に持続可能性戦略を表すスローガン「シー・チェンジ」が16年に登場し、23年に修正を加えられ、30年までを期限とする新しい目標が定められ、TUの事業活動を推進する重要なエンジンとなった。事業活動の全ての側面に持続可能性の視点が加わり、合わせてそれぞれ関連した11項目にわたる目標を通じて、持続可能な事業活動に向けた経営陣と従業員の熱意を証明しようとしている。

■シー・チェンジ2030

 「シー・チェンジ2030」の目標には、30年までに温室効果ガスの排出量を42%削減するという目標が含まれる。さらには50年までにネット・ゼロの実現を目指す。海洋生態系の回復に向けては、重要な生態系の保全と回復に2億5000万バーツの支援を行なう。加えて国内外の主力工場5か所について、工場内の浄水システムを改善することで外部環境に排出される汚水をゼロにする。埋設処理される排出物と食材ロスもゼロにする。エビ養殖では、全ての養殖場で外部の生態系に及ぼす影響を最小限に抑えるシステムを構築して生産を行なう。責任ある漁業の分野では、自然界から水揚げされる水産品は100%責任ある漁業により捕獲されたものでなければならないという原則を厳格に順守し、現代の奴隷労働を完全に排除する。原料を供給する魚介類の養殖場は全て優良労働慣行(GLP)基準を満たすよう指導する。合わせて安全な就労場所の維持に注力し、相違と多様性の価値を認め、平等な処遇に心掛ける。
 さらには系列各社の経営陣の半数を女性が占めるよう取り組む。海洋内のプラごみを削減すべく、1500㌧のプラごみが河川に投棄され海洋に流入しないよう管理・処分する。25年までに自社ブランドの製品は全て持続可能なパッケージを使用するようにする。OEM生産を行なっている提携先のブランドの製品に関しても、少なくとも60%が持続可能なパッケージを使用するよう支援する。
 農業分野でも責任ある農業の普及を後押しし、原料を構成する大豆とパーム油の100%が森林破壊とは無関係であることの証明を求める。鶏肉調製品に関しても責任ある調達を心掛ける。このほか社会支援では、事業活動エリア内のコミュニティ支援に2億5000万バーツの予算を割り当てる。自然災害の発生時には災害救援活動にも積極的に参加する」
 S&Pのグローバル・コーポレート・サステナビリティ・アセスメント(CSA)が毎年世界の1万社を超える企業の持続可能な事業活動の評価を行なっており、TUを含む各社は所属する業界内での経済、環境、社会的側面で自社の事業活動を見積もる参考にし、持続可能性を重視する投資家にアピールすることができる。
 TUはこのほか、シーフード・スチュワードシップ・インデックス(SSI)でも3回連続で1位にランク付けされている。SSIはワールド・ベンチマーク・アライアンス(WBA)が世界で最も影響力のある水産会社30社の持続可能な事業活動への取り組みをランク付けした指数で、TUはポジティブな変化を生み出そうとする活動のリーダー的存在であることや、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を念頭に置いた活動が高く評価されている。ランキングは2年に1回行なわれ、TUは19年、21年に引き続き23年も1位となった。これを受けてティラポンは次のようにコメントした。
 「世界で最も信頼される水産会社になることをビジョンに掲げている。そして、このビジョンを実現するためにはポジティブな変化を生み出さなければならないことを自覚している。水産加工品生産の現場にとどまらず、世界中で原料を調達している立場から、その現場に至る全てが取り組みの場となる。過去の成果には誇りを持っているが、まだ多くの試練が待ち受けている。世界の人々と環境に恩恵をもたらす成果を生み出すべく、引き続き様々なプロジェクトや指針を通じて取り組んでいく覚悟だ」
 TUは遡及検査能力で上位にランク付けされている。常時点検作業を行なっているからで、水産業の透明性を促進する目的をもって実施しているオーシャン・ディスクロージャー・プロジェクトの下で常にデータを公表している。とりわけ23年のランク付けでは、7月に発表された30年までに世界の水産業に大変革をもたらすために定められた目標をともなう持続可能性戦略「シー・チェンジ2023」に注目が集まった。
 WBAは、「評価対象の30社は世界で最も影響力のある水産会社で、水産業のポジティブな変化をさらに加速させることができる。タイ・ユニオンも、取り組みをさらに拡大させる余地は残っている。例えば環境面で、生産活動全体の海洋生態系への影響を緩和するにはどうすればよいかまでを考えて取り組みを進めてもらいたい」と指摘した。

■オーシャン・ブレークスルー

 23年11月30日~12月12日にアラブ首長国連邦のドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)でも、TUは興味深い動きをした。オーシャン・ブレークスルー・プロジェクトと食料システム転換(Transforming our Food Systems)プロジェクトへの共同参画に合意し、12月12日に行なわれた調印式に参加したのである。
 TUの持続可能性分野のグループ・ディレクターを務めるアダム・ブレンナンはこう語る。
 「2件のプロジェクトに参加するのは、持続可能性に関する取り組みにとってさらなる重要な一歩と考えたからだ。両プロジェクトは世界環境分野の最も緊急な問題に取り組もうとしており、今回の共同参画文書への調印は持続可能な未来に向けたリーダーになるという熱意の表れだと捉えてもらいたい」
 オーシャン・ブレークスルー・プロジェクトは、気候変動に関する国連組織代表が主体となって実施されるプロジェクトで、50年までに削減しなければならない温室効果ガス排出量の35%の排出削減に海洋が寄与できるようにすることを目的としている。このプロジェクトに参加する組織は、それぞれの国の政府に海洋の持続可能性に向けた計画を策定し、実践するよう要求することにもなっている。各国が策定する計画は、海洋資源の持続可能な利用を可能とする海洋管理の政策と活動の枠組となり、海洋資源を利用する全ての部門の協力を生み出すようにし、気候、海洋生態系の保全、経済開発各分野のバランス維持と目標達成に寄与することが求められる。
 食料システム転換プロジェクトは、持続可能性、公正な処遇、気候変動への対応、生物多様性の喪失防止、非持続的な農林水産業と食料生産活動の削減に向けた食料システムの改革を志向する。食料システムから生じる環境への影響を緩和しつつ、食料と栄養の安全保障を確保することを目指す。
 アダムはさらに続ける。
 「持続可能な未来に向けたビジョンを踏まえて2件のプロジェクトに参加することを決定した。海洋の未来は、この世界に住む幾多の生命にとっての資源の源であり続けなければならない。そのために持続可能性戦略シー・チェンジ2030を定めた」
 ティラポンはアダムの発言を引き継いでこう語っている。
 「22年の純利益に等しい72億バーツ、2億㌦超の予算をシー・チェンジ2030に投じる。合わせて、水産業のバリュー・チェーンの改革を目指す野心的な目標も定めた。こんにちの水産業は世界環境の保全、世界の人々の援助、海洋の管理にもっと大きな役割を果たさなければならない。今からでも協力して活動を立ち上げすぐに実施しなければならない。シー・チェンジに沿って、我々は世界の水産業の改善、改革の後押しに注力する。しかしこの巨大なミッションは単独で完遂するのは不可能で、政府、民間、民衆を問わず、あらゆる部門の協力が必要だ。皆が協力し合って、本当の変化を生み出さなければならない。世界中の水産事業者に対しても協力を求めたい」と述べた。

■業績

 23年第3四半期の純利益は12億600万バーツで、前の四半期との比較では17.2%増だった。売上高総利益は62億3300万バーツで8.4%増。前の四半期との比較で増益となった主因は、主要原料の価格の下落と利益率を重視した製品ラインの修正による。加えて、利益確保能力の向上に向けた各種の計画と措置が効果を現わし始めた。第3四半期の売上高は339億1500万バーツで、前の四半期からやや減って0.9%減となった。他方、過去最高の業績を記録した前年同期との比較では、売上高は16.8%減、純利益は52.3%減となった。しかし主に為替差損が原因で、持ち株比率の低下にともないペット・フード関連の事業に従事するiテイル社からの利益配当も減った。いずれにせよ23年第3四半期の初期利益率は18.4%と、なお堅固な水準にある。

iテール社(ITC)は22年12月にSETに上場した


 製品カテゴリー別では、第3四半期の冷凍・冷蔵水産品の売上高は115億9300万バーツとなり、前の四半期から0.9%増えた。初期利益率は前の四半期の9.6%から上昇を続け12.9%となった。在庫の管理運用が改善したことに加え、事業規模の調整と利益率の高い製品を重視する方針が成果を挙げた。付加価値製品事業その他に関しても、初期利益率は28.9%と良好な水準を維持した。売上高も26億9800万バーツとなり、前の四半期から19.4%増えた。ペット事業の業績は回復を続けた。売上高は第3四半期に37億7300万バーツとなり、19.1%増えた。初期利益率は19.4%だった。欧米市場からの受注が戻り始め、販売価格も上昇した。缶詰水産品事業の売上高は第3四半期に158億5100万バーツとなり、前の四半期から7.5%減った。しかし初期利益率は20.4%の水準を維持した。
 ティラポンはこう語る。
 「世界の経済情勢が不確実な中にあって多くの難題に取り囲まれていても、持続可能性に関する取り組みに力を入れていく。一方で、イノベーションが事業を前進させる重要な力となる。新しいビジネス・チャンスを生み出すことで成長を続け、さらに堅固にならなければならない」

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