2024年10月24日(木)号

不動産業界の低迷続く=業況感指数が最低水準に

 不動産業界の低迷が続いている。家計債務の膨張で銀行が新たな住宅ローンの貸出に厳しくなっていることが背景にある。 首都圏の住宅デベロッパーの今年第3四半期の業況信頼感指数は2・四半期連続で下落し、2020年第3四半期以降で最低水準となった。タイ中央銀行が政策金利の引き下げたことが住宅市場に活気をもたらすか注目されている。
 不動産情報センター(REIC)のカモンポップ・ウィラパラ所長代行によれば、信頼感指数は45.1ポイントで、前年同期からで4.6ポイント、前四半期からで0.1ポイント下落した。中間値である50ポイントを下回るのは昨年第1四半期以降7・四半期連続となった。同指数は20年第3四半期に42.8ポイントまで落ち込み、同年第4四半期に46.3ポイントと反発したが、第3四半期はそれ以来の低水準。
 販売面の信頼感指数が6.6ポイント下落して40.7ポイントまで落ち込んだことが響いた。投資面の指数は0.2ポイント下落して47.4ポイント、収入面の指数は2.5ポイント上昇して42.0ポイント、新規物件発売に関する指数は1.6ポイント上昇して50.7ポイント、開発費に関する指数は1.5ポイント上昇して40.4ポイント、雇用に関する指数は0.9ポイント上昇して49.6ポイントだった。新規物件発売指数を除く全ての指数が50ポイントを割り込んだ。
 タイ証券取引所(SET)上場デベロッパーに限れば、信頼感指数は47.9ポイントで、前四半期の52.2ポイントから大きく後退した。中でも販売指数は15.8ポイント下落して43.8ポイントとなった。投資指数と新規物件発売指数はいずれも5.6ポイント減の52.1ポイント、収入指数は2.3ポイント下落して52.1ポイントだった。
 一方、向こう6か月の業況見通し指数は前四半期から0.2ポイント上昇して51.6ポイントとなった。50ポイントを上回っており、今後の見通しはポジティブなことが分かる。販売指数が3.4ポイント上昇して57.8ポイントと最高得点を記録した。開発費指数は2.9ポイント上昇して37.5ポイント、雇用指数は2.2ポイント上昇して52.4ポイント、収入指数は2.0ポイント上昇して53.0ポイント、新規物件発売指数は6.3ポイント下落して58.1ポイント、投資指数は3.1ポイント下落して51.0ポイントだった。
 住宅金融協会のアロンコット・ブンマスック事務局長は、金利の引き下げが住宅ローンを抱える債務者の負担軽減につながるものの、新規の住宅ローンを刺激する効果はほとんどないと述べている。住宅の実需と消費者の信頼感を高める効果はあるが、利下げが住宅市場の需要を刺激する可能性は低いとした。同事務局長は不動産業と住宅ローン事業の両方をサポートする金利のさらなる引き下げと政府の刺激策に期待していると述べた。
 CIMBタイ銀行のアモンテープ・チャワラー頭取補はタイが高齢社会となったことから、住宅需要がこれまでのように伸びる可能性が少なくなっていると指摘する。不動産需要が従来のように急成長することは難しく、業界は適応を余儀なくされる。高齢者向けの質の高い住宅やヘルスケアの要素を盛り込んだ住宅環境を重視する事業戦略が重要になってくる。今後も不動産業界はマイナス成長が続くと見ており、業界を活性化させる措置が鍵を握るとしている。
 不動産業界は雇用やサプライチェーンを通じた経済波及効果が大きい産業。不動産業界の業況が良ければ経済全体が活気づく性質を持っていると支援の重要性を強調した。タイ中央銀行によるLTVルールの緩和で、2軒目、3軒目の住宅購入の需要を引き出すよう提唱した。DSR(債務返済比率)規制を緩和して、消費者が融資を受けやすくすることも選択肢だとしている。住宅ローンは家計債務の40%を占めるが、家計債務の膨張の主因ではない。アモンテープ氏によれば、マレーシアやシンガポールでは住宅ローンが家計債務の60~70%に達している。
 中銀が政策金利を引き下げたことについては、不動産市場をある程度活気づかせるものの、業界を復活させるには至らないと予測する。物件の過剰供給という構造的な問題を抱えているためで、売れ残っている住宅の処理が進まなければ業界が活況を呈することはないと指摘した。
 金利引き下げの効果は半年から1年を経過しないと見えないことから、住宅ローンが借り易くなったり、銀行の与信が増えたりといった効果は期待しにくい。アモンテープ氏によれば、金利の引き下げは状況のさらなる悪化を抑止する程度の効果しか期待できない。
 サイアム商業銀行(SCB)エコノミック・インテリジェント・センター(SCB・EIC)のカンヤーラット・カンチャナウィスット上級アナリストは、タイの不動産業界の総生産はGDPの7~8%を占めるに過ぎないが、建材、建設、家具、家電など産業の裾野が広い。不動産業の低迷は経済全体に波及する可能性が高く、今後2、3年は厳しい状態が続くと見ている。市場に売れ残っている物件が多く、新たな住宅の発売が抑制される。
 同センターは政府による刺激措置がなくても、26年には景気循環のタイミングで不動産業も徐々に回復に向かうと見積もった。政府部門による措置ではLTVルールの緩和が最も効果的だとした。住宅の需要が喚起されれば売れ残り住宅の処理も進む。ただしどのような措置を講じても最終的には消費者の購買力に左右されるため、低所得層の購買力の引き上げが欠かせない。銀行による厳格な与信審査と家計債務の膨張という状況下で購買力を引き上げることができるかどうか、政府の手腕が問われる。
 カンヤーラット氏は、政府が今年4月に700万バーツ以下の住宅の名義変更手数料などを引き下げる措置を導入したが、市場を活性化できなかったことを指摘。住宅購入は長期の投資であり、経済全体が活気づいて不動産デベロッパーと消費者の信頼感が上向く状態にならなければ需要は戻ってこないとした。
 タイ・コンドミニアム協会のプラサート・テードゥンヤサーリット会長は「在庫を一掃する必要があるデベロッパーにとって、今は困難な時期。資金繰りを維持するため、価格競争が激しさを増す」と述べている。同会長によれば、第3四半期の住宅の販売戸数は前四半期比で30%減、前年同期比で45%減。
 タイ・コンドミニアム協会は、タイ不動産協会、タイ分譲住宅協会と共同で10月31日から11月3日までシリキット国際会議場で第46回住宅フェアを開催する。出展する各社が大幅値引きキャンペーンを実施するもようで、価格競争が繰り広げられる見通し。

ドバイのDAMACグループ=タイにデータセンター

 ドバイを拠点に不動産開発、データセンター事業を展開するDAMACグループはタイにデータセンターを開設する。アセアンへの初めての進出で、投資予定額は10億㌦。域内でのAIとデータセンター需要が急成長する見通しから進出を決めた。最大20メガ㍗規模のデータセンターを予定しており、来年2月にも稼動を開始する。


 子会社のマグマ・ホールディングを通じて、タイのプロNコーポレーション社と合弁でシーザー・データセンター&クラウド・サービス社を設立した。マグマは70%を出資している。
 プラサート・チャントラルアントーン副首相兼デジタル経済社会相[=写真中央]は「タイのデジタル・インフラ環境が投資家に評価された証し」と今回の提携を歓迎、タイ社会のデジタル化に向けた重要な一歩になるとの期待を表明した。
 データセンターはシーナカリン通り周辺に建設する。工事は3期に分かれ、第1期工事では17億バーツを投じて5メガ㍗規模のセンターを稼動させる。Tier3レベル(4段階分類で2番目に高い分類。サーバー室・データ保管室に1時間以上の耐火性能、ガス系消火設備完備などの高度な安全性が求められる)のデータセンターになる。第2期以降でシラチャーに15メガ㍗のセンターの建設を構想している。
 DAMACグループのフセイン・サジャワニCEOは「タイ政府が目指すアセアン域内におけるデジタルハブに貢献するデータセンターになる」と述べ、将来的に100メガ㍗規模へ増強する構想があることを明らかにした。
 アジア太平洋地域のデータセンター需要は年内に1万4270メガ㍗、29年まで年率10.21%の伸びを示し、2万3200メガ㍗に達すると予測した。

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