BOIが中小企業支援策=税制優遇拡大や投資奨励除外措置も
投資委員会(BOI)は5月19日にピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相が議長を務めた本会議で、「新時代に対応するためのタイ事業者の能力強化支援策」を承認した。ナリット・トゥードサティラサック事務局長によると、タイの中小企業の競争力を引き上げ、市場の変動が続く経済状況下で経済のバランスを維持し、米国の貿易措置によるリスクと影響を軽減する。また、多様な産業分野のタイ企業が世界的なサプライチェーンに参入する機会を拡大することも狙いとしている。
ナリット事務局長によると、この支援策には、4つの主要分野が含まれる。
第1に、タイの中小企業の効率改善を促すため、特別措置を講じて投資を後押しし、競争力の強化を目指す。たとえば、機械の更新、自動化システムやデジタル技術の導入、省エネ対策、国際的な持続可能性基準への移行、新産業への転換などが対象。従来は効率改善にかかる投資額の50%を上限に法人税を3年間免除していたが、今回の措置により、免除期間を5年に延長し、投資額の100%を上限とする税制優遇に改められる。
第2に、供給過剰となる可能性のある事業や、米国やその他の国による貿易措置の対象となるリスクが高い事業については、投資奨励の対象外とする。対象外とされる事業には、太陽電池セルやパネルの製造、鉛バッテリー、車両用アクセサリー・装飾部品、金属切断業、工業団地外でリサイクル工程を伴わずに行なわれる廃棄物分別事業などが含まれる。鉄鋼製品のうち、すでに奨励対象から除外されている末端加工品に加え、新たに長尺鋼材全般、熱間圧延鋼板・厚板といった平鋼製品、各種鋼管類の製造も、奨励対象から除外する。
第3に、米国の貿易措置による影響を受けるリスクがある一部の業種、たとえば自動車部品、電気製品、電子機器、金属製品、軽工業などについては、実質的な製造工程の有無を厳格に審査する。主要原材料を十分に加工する製造工程があることを明確な条件とし、たとえば関税分類(HSコード)を最低でも4桁単位で変更するレベルの加工が求められる。タイ国内での製造活動が輸出用として国際的に認められ、国内経済にも明確な利益がもたらされるようにする。
第4に、外国人労働者の雇用に関する条件が見直される。投資奨励を申請する製造業の事業者で、従業員数が100人以上の場合、タイ人の雇用比率を全体の70%以上とすることが求められる。加えて、BOIによるビザ、労働許可の優遇措置を受ける外国人については、最低収入基準が新たに設定される。たとえば、管理職レベルの場合は月収15万バーツ以上、専門職レベルでは5万バーツ以上が条件とされる。
国内の雇用バランスを適正に保ち、タイ人との競合を防ぐとともに、外国人専門人材からタイ人への知識移転を促すことが目的。同時に、海外からの高度人材を誘致し、タイ経済への付加価値創出にもつなげていく。
会議ではBOI事務局に対し、国内での付加価値創出の促進と合弁事業の推進に関する方針を検討するよう指示があった。タイ工業連盟(FTI)とタイ開発研究所(TDRI)と連携して取り組み、外国企業とタイ企業との協力を促し、タイ企業のビジネスチャンスを拡大させる狙いがある。特に、サプライチェーンの構築において重要性の高い分野に焦点を当てる。今後、検討結果を改めて本会議に報告することとした。
この日の会議では「地方都市における観光事業への投資促進策」も承認した。政府の政策に沿って観光インフラの高度化と新たな観光地の開発を図り、観光客の分散を促し、より多くの経済機会を創出する。
対象となる観光関連事業には、大規模で質の高い観光施設の建設、テーマパーク、タイ文化芸術センター、タイ伝統工芸センター、博物館、サファリパーク、国際見本市会場、大型コンベンションホール、大型クルーズ船ターミナル、観光船の係留施設、モータースポーツ競技場、観光用ロープウェイ/電動トラムなどが含まれる。
これらの事業を観光開発が遅れている地方55県に設ける場合、法人税免除の優遇措置が拡大され、従来の5年間から8年間に延長される。また、ホテル事業についても、同様に地方55県に設立される場合、法人税の免除期間が従来の3年間から5年間に延長される。
このほかデータセンター、データホスティング、クラウドサービス事業に対する投資奨励措置の見直しも決定した。現在の事業形態に適合させるためで、特に高性能な計算能力を備えた機器を使用し、電力や水資源を効率的に使用する事業に対し、より高水準の優遇措置を付与する。
また、投資申請するプロジェクトには、新たに人材育成計画の提出が義務付けられる。たとえば、教育機関との共同カリキュラムの開発、研究開発の実施、中小企業の育成支援、あるいは国内製造機器の使用などが含まれ、これらの計画は、税制優遇措置(法人税免除)の適用前に完了していなければならない。この分野への投資が、タイ国内のデジタル人材育成に実質的な成果をもたらすことを期待している。
会議では、データセンターと再生可能エネルギーに関連する投資プロジェクト7件、総投資額約1000億バーツが認可された。
データセンター事業は、ヴィスタス・テクノロジー社(投資額68億5400万バーツ、チョンブリ県)、ブリッジ・データセンターⅢ(タイランド)社(144億5200万バーツ、チョンブリ県)、ギャラクシー・ピーク・データセンター社(235億5300万バーツ、ラヨン県)、ギャラクシー・データセンター社(223億1300万バーツ、ラヨン県)、デジタル・エッジDC(タイランド)社(245億2200万バーツ、チョンブリ県)の5件が認可を受けた。
再生可能エネルギー関連事業は、アルファ・ワン・プロジェクト社の風力発電事業(31億9500万バーツ、チュムポン県)、アルファ・ツー・プロジェクト社の風力発電事業(48億3800万バーツ、プラチュアップキリカン県)が認可された。
デジタルマネー給付=第3弾の実施を見送り
ペートンターン政府は、1人1万バーツのデジタルマネー給付の第3弾を延期し、その資金を構造的課題の解決やインフラ投資に振り向ける方針を決定した。プロジェクトが中止されたわけではなく、あくまで延期するだけだと強調している。

5月19日に首相を議長に開いた経済刺激政策委員会の第2/2568回会合で決定し、20日の閣議で追認した。会合にはプームタム・ウェーチャヤチャイ副首相兼国防相、アヌティン・チャンウィーラクン副首相兼内相、ピチャイ・チュンハワチラ副首相兼財務相、プラサート・チャントラルアントーン副首相兼デジタル経済社会相、チュサック・シリニン総理府相、ヂラポーン・シントゥパイ総理府相、ソラウォン・ティエントーン観光・スポーツ相、チュラパン・アモンウィワット財務副大臣、パオプーム・ローチャナサクン財務副大臣、各省の次官級官僚と関係機関の代表が出席した。
ピチャイ副首相兼財務相は、1570億バーツの支出計画の見直しと調整が必要との結論に至ったと説明した。
ピチャイ財務相は1万バーツ給付計画について、米国の新たな貿易政策を受けて政府の優先順位を見直す必要があるとして、見直しの対象となっていることを認めていた。ただし財源が不足しているとの報道は否定し、状況が変化したため、必要に応じて調整を行なうと説明した。マネー給付は状況が整うまで延期されると述べ、廃止報道を否定した。
第3弾は、160億バーツの予算を用いて、16〜20歳の若年層に給付する予定だったが、前2回のフェーズの経済効果が限定的だったとの批判もあり、資金使途の変更を余儀なくされた。ピチャイ氏によれば、国家経済社会開発評議会(NESDC)事務局とタイ中央銀行が以前から給付政策の見直しを提案していたことから、今回の会合では差し迫った課題への支出に振り向けることを決定したという。課題の多くはすでに計画に含まれているが、特に中小企業が直面する問題など緊急の課題に注目し、競争力と雇用の強化に焦点を当てると述べた。委員会は支出の監視とプロジェクト審査を担当する委員会の設置も承認した。
会合の冒頭、ペートンターン首相は、現在の世界経済情勢は、主要国間の貿易戦争や相互関税政策の発表により不確実性が高まっていると指摘。影響は、タイを含む貿易相手国に及んでおり、とくにタイの輸出部門や国外市場への依存度が高い産業において、国民の所得減少という形で表れていると述べた。また、政府の歳入も目標を下回る見込みであることから、現行の計画やプロジェクトを見直す必要があると指摘した。そのうえで、経済構造の改革を急ぎ、長期的な経済成長の基盤構築、地方経済や中小企業の強化に取り組むことの重要性を強調した。首相は、「この会合は、現在の経済情勢に即した経済推進計画を共に検討・提案する場。すべての関係者が慎重に検討を行ない、法令を厳格に順守したうえで、経済を全力で前進させてほしい」と述べた。
会合では経済指標や関係機関の報告をもとに経済対策や枠組みの検討が行なわれた。特に経済成長に効果的と判断される投資に重点を置く。また、米国の関税引き上げ、ムーディーズによるタイの信用格付け見通しの引き下げ、税収減少の可能性といった要因も考慮する。
チューサック総理府相は、1万バーツ給付計画の第3弾の停止が法的問題になるかとの質問に対し、所信表明の政策に含まれていたものであっても、延期または停止が法的な問題を引き起こすことはないと述べた。これまでも同様の事例は国会で議論されており、今回も中止ではなく延期するだけだと強調した。
総額1570億バーツの経済推進計画は、2025年度予算の「経済刺激と経済システム強化のための中央予算」に基づく歳出を見直し、現状の経済情勢に沿って、①水資源・交通、②観光、③輸出への影響緩和と生産性向上、④地方経済の活性化に分類して整理する。1570億バーツの予算枠内での経済推進計画案を財務省が内閣に速やかに提案するよう指示した。
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