2025年5月22日(木)号

タイの自動車部品輸出に逆風=米国依存構造の再考迫られる

 米国による自動車部品への高関税措置が、世界的な生産拠点であるタイの輸出産業に影を落としている。通商拡大法232条に基づく25%の関税や、相互関税(Reciprocal Tariff)の適用は、タイから米国向けに出荷される駆動系・電子部品などに深刻な影響を与える可能性がある。輸出依存度の高い一部部品群では、生産拠点の米国移転も視野に入るなど、供給網の再構築を迫られる可能性も。タイ経済への波及を最小限に抑えるためにも関税動向の見極めと市場の多角化が急務となっている。
 カシコンリサーチセンターは5月20日付けで公表したレポートで、米国が通商拡大法232条に基づく25%の輸入関税や、報復的な性格を持つ相互関税といった輸入関税措置を講じていることが、タイからの自動車部品輸出に大きな影響を及ぼす可能性があると警告した。米国の関税措置は、自動車および部品産業が主な対象分野の一つとなっており、特に、駆動系部品、サスペンション部品、電気・電子部品が232条の対象として影響を受けやすい。
 米国は、自動車・同部品の世界最大の輸入国で、世界全体の輸入額の20%を占めている。米国の自動車販売台数は年間1600万台以上と世界第2位にあるが、国内生産台数は平均で年間1000万台にとどまり、国内需要を大きく下回っている。
 このような状況の中、投資を自国に呼び戻すことを目的として、トランプ大統領は、自動車・同部品に関連する輸入関税の引き上げを段階的に進めてきた。1962年通商拡大法232条に基づき、自動車・同部品に対して25%の関税を課す措置を実施。また、232条で課税対象となっていない部品については、相互関税を新たに適用している。
 こうした関税措置に対し、その後いくつかの緩和策が講じられてはいるものの、影響を完全に軽減するには至っておらず、タイからの輸出にも一定の影響が及ぶ可能性がある。
 タイにとって、米国による輸入関税の引き上げは、自動車・同部品の対米輸出に不可避の影響を及ぼす。2024年における同分野の対米輸出額は64億2600万㌦に達し、タイの自動車および部品輸出全体の14%、2024年のタイのGDPの1.2%を占める規模となっている。タイからの自動車・同部品輸出に対する影響の程度は、各製品の対米依存度や適用される関税措置の内容に応じて異なる。
 タイから米国へ輸出される自動車・同部品のほぼすべてが、米国の通商拡大法232条に基づく25%の輸入関税の対象となっている。ただし、こうした関税引き上げの影響は、自動車と部品それぞれで異なる傾向にある。
 自動車(2025年4月3日より適用)については、25%の輸入関税引き上げによる直接的な影響はない。米国がタイの主要な自動車輸出市場ではなく、従来米国で販売されていた小型乗用車(2024年に3万6000台を輸出)は、今年中に米国市場からの撤退がすでに予定されている。このため、輸出台数の減少は関税引き上げの直接的な結果ではない。ただし、将来的に米国への自動車輸出は、関税負担の増加により一層困難になる可能性がある。
 自動車部品(2025年5月3日より、米国が定めるHSコード130品目に適用)については、大きな影響が予想されている。米国はタイの自動車部品輸出における最大市場で、市場シェアは26%を占めている。
 自動車部品が受ける影響の程度は異なり、影響の大きさに応じて以下の3グループに分類できる。
 第1に影響が大きい部品群で、対米輸出依存度が高い駆動系部品、特にギアボックス、ドライブシャフト、サスペンション系部品、ホイール・同部品、ステアリング、電気・電子系部品では照明装置およびスパークプラグなどが挙げられる。
 第2に、影響が中程度と見られる部品群は、対米輸出依存度が中程度のもので、車体および内装部品、特に装飾部品やエアバッグなどが該当する。
 第3に、影響が小さいと見られる部品群は、コスト競争力があるか、対米輸出が少ない。タイヤでは乗用車/ピックアップトラック用タイヤは影響が小さい。ただしバス/トラック用タイヤは、アンチダンピング(AD)関税の対象である一方、競合国は対象外になっているため注意が必要だ。エンジンは、タイから米国への輸出が非常に少なく、アセアン、南アフリカ、台湾など他の輸出市場もある。
 米国は4月29日、25%の輸入関税の影響を緩和するため、米国内で組み立てられる自動車に使用されるOEM部品に限定して、関税の還付を実施する方針を発表した。しかしながら、タイから輸出される自動車部品で、この恩恵を受けるのは一部にとどまりそう。
 自動車メーカーに対して支給される関税還付金には上限があり、還付の対象となる部品はごく一部に限定される。現在、米国内で製造されている自動車の多くは、構成部品の半分以上を輸入に依存しているため、すべての部品を還付対象に含めることは困難とされる。
 また、タイから米国に輸出される自動車部品のうち、過半数が交換部品(REM)に分類される。タイヤ、ホイール・同部品、スパークプラグ、照明装置などがある。REM部品は今回の還付措置の対象外であるため、25%の関税を全額負担する必要があり、コスト負担が増加する。
 このような動向を踏まえると、米国による2年間の関税還付措置が終了した後、自動車部品製造業における米国内での投資は増加する見通し。それに伴い、一部の自動車部品については、海外からの輸入需要が減少する。特に影響を受けそうなのは、高付加価値の部品群で、エンジン、駆動系部品、電気・電子部品などが該当する。これらの部品は、今後米国内での生産体制が強化されることで、輸入依存が低下する。
 カシコンリサーチのハタイワン・トゥンダティーラクン上級研究員は、注視すべき主要な動向として、タイに課される相互関税の方向性、OEM部品の輸出減少リスク、米国以外の市場における競争激化、タイから米国への一部生産移転の可能性を挙げている。
 タイに対する相互関税は、90日間の猶予期間終了後、36%の関税率が引き下げられるかどうかが注目されている。対象となる自動車部品の対米輸出額は、自動車・同部品の対米輸出全体の約6%にとどまるが、同関税率は競合国と比較して高いため、オイルフィルター、燃料ホース、マフラー/排気管など該当品目の輸出には避けがたい影響を及ぼす。
 OEM部品は、米国向けの完成車生産比率が高い国、特にメキシコや日本などへの輸出が減少する可能性がある。米国が輸入車への依存を減らし、国内生産を拡大する方針のもと、各種関税措置を用いて政策を進めているためだ。
 世界最大の自動車・部品輸入市場である米国への輸出がこれまでのように容易ではなくなることで、各国メーカーによる米国以外の市場での競争が一層激しくなると予想される。
 輸入関税が大幅に上昇することで、関税が主要なコスト要因となり、一部の多国籍企業で、自動車部品の生産拠点をタイから米国へ移転する動きが今後徐々に出てくる可能性がある。すでに米国内に部品生産拠点を持ち、現在米国向け輸出の比率が高い企業で、そうした動きが顕著になる可能性が高い。

ホンダがディーラー会議=xEVラインアップを強化

 ホンダ・オートモービル(タイランド)は5月15日、2025年度の全国ホンダ・ディーラー会議を開催した[=写真]。岩波晃司CEOが、「Redefining Excellence with Reliability and Trust – 卓越性の再定義、信頼と共に持続可能な成功へ」というテーマのもと、今後の事業方針と重要目標を発表した。


 会議では、①製品および販売②サービス③ブランド構築の3つの主要方向にわたる戦略をディーラーと共有した。顧客を中心に据える(Customer-centric approach)という基本理念のもと、タイ社会と共に成長する姿勢を強調した。印象的な体験を提供し、顧客の期待に応える。また、持続可能なモビリティの実現を目指し、xEV製品群の強化とともに、自動車分野における卓越性をさらに高めていく方針を示した。
 岩波氏は、ディーラーの協力と支援のおかげで、ホンダが重要な目標を達成することができたと述べたうえで、今年の事業運営の方向性としては、すべての接点において印象的な体験を創出することを通じて、顧客のケアに注力する考えを示した。販売店とそのスタッフはブランドの代表として、顧客に優れたサービスを届ける存在で、顧客に寄り添い、長期的な関係を築くことができる価値を提供し続けてほしいいと語った。
 ホンダがこれまでに築いてきたブランドへの信頼、優れたe:HEVラインナップの展開、顧客満足の高さを土台として、以下の3つの主要分野にわたる取り組みを打ち出した。
 1. 製品および販売面
 顧客ニーズに応える製品の提供に注力するとともに、印象的な体験を届けることを目指す。中でも、ホンダのフルハイブリッド「e:HEV」シリーズは、優れた加速性、滑らかな走行感、優れた燃費性能などが広く認められており、高い評価を得ている。e:HEVラインナップをさらに多様化させ、顧客のあらゆるニーズをカバーする計画を進めていく。
 また、顧客が安心してホンダの100%電気自動車を使用できるよう、信頼と安心の体験を提供することにも注力する。現在、ホンダは「Honda e:N1」の販売・アフターサービス体制を全国の正規販売網を通じて整えており、サービスセンター、交換部品、専門メカニックによる整備サポートなどを通じて、電動モビリティ時代への備えを進めている。
 2.サービス面
 ホンダは、サービスの中心に顧客を据えている。顧客に最高の満足を提供することに注力し、ホンダ車を選んだことへの誇りを感じてもらえるよう、付加価値のある体験を提供する。アフターサービスの利便性を高めたデジタル体験、年間を通じた特別なエクスクルーシブイベントの開催、各種特典の提供などに取り組む。
 また、全国に222拠点を有する販売店ネットワークという強みを活かし、長期的な信頼と安心感を構築する。全ての販売店で共通の高いサービス基準のもと、専門の技術者によるアフターサービスを提供し、どの地域においても行き届いた対応を受けられることを保証する。
 3.ブランド構築面
 「Where The Drive Means More ― 自分らしく、人生を駆け抜けよう」というブランドコンセプトをさまざまなイベントや活動を通じて発信する。ホンダの車が単なる移動手段を超えた存在で、信頼できるパートナーであることを伝えるものとなっている。
 販売店が中心的な役割を担い、一年を通じて実施されるエクスクルーシブなイベントを通じて、印象的な体験を顧客に届ける。
 この日のディーラー会議では、前年度に顧客に優れた体験を提供した販売店の表彰式も執り行なわれた。年間最優秀販売店賞をはじめ、販売実績、マーケットシェア、アフターサービスなどの分野での功績を称える各賞を含め、合計82の賞を贈った。

その他のニュース
[経済ニュース]
4月の自動車生産台数=10万4250台、0.40%減

二輪車の生産台数は17.07%増

ロビンフッド=フードパンダと提携合意

NTの通信事業=AISが買収協議

「タオ・ビン」のフォース社=果物直買いで新型自販機投入

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長安汽車、タイに地域中核拠点=EV生産とR&Dに100億B

EV業界が支援延長を要請=罰則免除と需要拡大求める

バンプー社とマヒドン大学=低炭素化を目指すイベント

商業省事業開発局=空運産業の回復を予測

持続可能性を主導へ=シュナイダーが脱炭素化推進

タイ・ワーの食品事業=小売強化で倍増狙う

トゥルー・ビジョン=失地回復を目指す構え

[社会ニュース]
タイ全土で大雨の予報=洪水や土砂流出のリスクも

モノレールのピンク線=ムアントンタニ線が開通

オレンジ線工事で作業員転落=生き埋め、発見に至らず

名刹の元住職、8億バーツ着服か=寺資金の闇広がる

パタヤで架空口座=銀行支店長ら逮捕

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[トピックス]
サブコン・タイランド2025シンポジウム=日中欧の自動車大手がタイの可能性を強調

[レポート]
サイバー攻撃による個人情報流出の防止

[データ]
2025年4月の自動車生産台数

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